幕間 そういえば?
「……そういえば」
「なんだ?」
「私たち、一ヶ月くらい一緒に旅してますよね」
「ああ」
「いろんな町にも行きました」
「そうだな」
「依頼もいっぱいしました」
「したな」
「ご飯も一緒に食べました」
「……ああ」
少女はアレンを見る。
「なのに」
「?」
「私、アレンさんの名前は知ってるんですけど」
「ああ」
「アレンさんは、私の名前を知りませんよね?」
アレンは少し黙った。
考えてみれば、その通りだった。
森で出会った日から。
一緒に旅を始めてから。
一度も聞いていない。
「……そうだったか」
「そうですよ!」
少女が少し呆れたように笑う。
「一ヶ月ですよ?」
「そうだな」
「普通、もっと早く聞きません?」
「必要だと思わなかった」
「必要とかじゃないんです」
少女は頬を膨らませる。
「一緒に旅してるんですから」
アレンは少女を見る。
そう言われてみれば、確かにそうだった。
名前など、これまでの旅では気にしたこともなかった。
人と別れれば、それで終わる。
もう二度と会わない相手の名前を覚える必要もなかった。
けれど。
今は違う。
隣にいる少女とは、一ヶ月間ずっと一緒にいる。
明日も。
おそらく、その先も。
「……じゃあ、聞こう」
「え?」
「名前」
少女は少し驚いた顔をした。
それから、嬉しそうに笑う。
「ミアです」
「ミア」
「はい」
アレンはその名前を一度だけ口にした。
「そうか」
「……それだけですか?」
「何かあるのか?」
「普通は『よろしく』とか言うんですよ」
アレンは少し考えた。
そして。
「よろしく、ミア」
「……はい」
ミアは小さく笑った。
「よろしくお願いします、アレンさん」
焚き火がぱちりと音を立てた。
アレンは火へ薪を一本放り込む。
ミアはその隣に座った。
たったそれだけのことだった。
けれど。
その夜から。
アレンの旅の隣には、「少女」ではなく。
「ミア」という一人の人間がいるようになった。




