幕間 秘密
ルーヴェンの宿には、男女それぞれに大浴場があった。
旅を始めてから、こうしてゆっくり湯に浸かるのは久しぶりだった。
「はぁ……」
湯船に浸かったミアが、気持ちよさそうに息を吐く。
「やっぱり、お風呂っていいですね……」
「そうね」
隣でレナも肩まで湯に浸かる。
「こういう宿に泊まれると、旅をしてるって感じがするわ」
「分かります」
二人はしばらく、何も考えずに湯に浸かっていた。
やがてミアが、ちらりとレナを見る。
そして、もう一度見る。
「……どうしたの?」
レナが気づく。
「いえ」
ミアは少しだけ目を逸らした。
「……レナさんって、スタイルいいですよね」
「え?」
「羨ましいなって」
レナが自分の身体を見下ろす。
「そう?」
「そうですよ!」
ミアは少し身を乗り出す。
「背も高いし、すらっとしてるし……」
「あなたも十分じゃない?」
「全然ですよ……」
ミアは頬を膨らませる。
「私、もっと大人っぽくなりたいんです」
「まだそんなに気にする年でもないでしょう」
「でも、レナさんみたいになりたいです」
「私みたいに?」
「はい」
レナは少し困ったように笑った。
「そう言われても、どうすればいいのか分からないわね」
「何か秘訣とかないんですか?」
「秘訣?」
「食事とか、運動とか」
レナは少し考える。
「よく食べて、よく動くことかしら」
「……」
ミアが真剣な顔になる。
「それなら私もできます」
「本当に?」
「できます!」
「じゃあ、まず明日から朝の走り込みでもする?」
「……それは、ちょっと」
レナが笑う。
「ほら」
「だって朝は眠いですもん……」
二人で笑う。
少しして、ミアが湯船に顎を乗せながら呟いた。
「でも、レナさんって綺麗ですよね」
「急にどうしたの?」
「前から思ってました」
「そう?」
「はい。戦ってるときも格好いいですし」
「ありがとう」
「それに、みんなを守ろうとしてるところも」
レナが少しだけ目を細める。
「……ミアも、ずいぶん変わったわね」
「そうですか?」
「ええ」
レナは笑った。
「最初に会った頃より、ずっと強くなった」
「……本当ですか?」
「本当よ」
ミアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと頑張ります」
「ええ。私も負けないわ」
「勝負ですか?」
「そうね」
「負けませんよ!」
「ふふっ」
二人の笑い声が浴場に響く。
しばらくして、ミアがふと思い出したように言った。
「そういえば……」
「今度は何?」
「アレンさんって、こういう話をしてること知らないんですよね」
「当然でしょう」
レナが苦笑する。
「聞かれたら恥ずかしいですし」
「じゃあ、秘密にしておきましょう」
「はい」
ミアは嬉しそうに頷いた。
「女の子同士の秘密ですね」
「そういうこと」
また二人で笑う。
その頃。
部屋で留守番をしているアレンは港を眺めていた。
当然、二人の会話など知る由もない。
窓の向こうでは、夜の海が静かに揺れていた。




