体育祭
体育祭です!
校庭というより、もう"山岳試験場"だった。
校庭いっぱいに組まれた巨大な障害物コース。
ネットクライム。
丸太橋。
水上エリア。
ロープスイング。
反り立つ壁。
どう見ても中学校の体育祭ではない。
入口には巨大な看板まで立っている。
**『夜ヶ丘高等学校附属中学校 ver.YOSUKE』**
その文字を見た瞬間、琉生が肩を落とした。
「SASUKEの親戚すぎるだろ……。」
誰も否定しない。
スタートからしばらく。
2-Bは見事に最下位だった。
水上スライダーで大渋滞。
ロープ渡りでは全員慎重になりすぎて停止。
平均台では「押すなよ!」の大合唱。
気付けば前方には他クラスしかいなかった。
遥菜は笑いながら順位表を見る。
「うわ、ビリだ! 逆にここまで来ると気持ちいいね!」
「気持ちよくない……。」
唯月は小さくため息をついた。
「アンカーに全部託すしかないね。」
そのアンカー。
奏音はスタート地点でコースを眺めていた。
ネット。
水上エリア。
ロープ。
反り立つ壁。
目が少しだけ輝く。
「……楽しそう。」
「絶対好きなやつじゃん。」
遥菜が笑う。
そのとき係員が近付いてきた。
「安全のため、命綱を装着してください。」
「命綱?」
奏音はきょとんと首をかしげる。
「なにそれ、美味しいの?」
「食べ物じゃありません!」
係員が思わずツッコんだ。
「こちらを腰に付けてください。」
「へぇ。」
奏音は命綱を受け取り、
裏表を眺め、
少し引っ張って、
「なるほど。」
うんうん、と一人で納得する。
そして。
係員へ返した。
「分かった!」
「……はい?」
「じゃあ行ってくるね!」
「あっ、違います! 付けてからです!」
ピーッ!!
スタートの笛が鳴る。
「ああぁぁぁぁ!!」
係員の悲鳴が校庭中に響いた。
「まだ付けてませんってぇぇ!!」
奏音はもう走っていた。
「先生! 止めてください!」
桐谷先生は笛をくわえたまま固まる。
「……。」
「先生、笛吹いたの先生です。」
琉生の冷静なツッコミ。
「……今さら止められるか?」
「もうネット登ってます。」
「早っ!」
ネットクライム。
普通なら四つん這いでよじ登る。
奏音は違った。
走る。
ネットの凹凸を踏み、
リズムよく駆け上がる。
頂上まで行くと、
「わぁ、高い!」
嬉しそうに景色を見渡し、
そのまま駆け下りた。
「楽しんでる……。」
唯月が苦笑する。
次は丸太橋。
細く、不安定な一本橋。
奏音は一歩踏み出したところで、
「あっ。」
ぴたりと止まる。
「え?」
琉生が息をのむ。
奏音はしゃがみ込み、
丸太を軽く叩いた。
「つるつるだ。」
納得したように頷くと、
「じゃあ行こう。」
トン。
トン。
トン。
まるで地面を歩くように駆け抜ける。
「確認した意味あった?」
「本人にはあったんだろ……。」
水上エリア。
他クラスは浮き板が揺れて進めない。
奏音は端まで走り、
一度止まる。
水面を見つめる。
「……届くかな。」
軽くその場で跳ねる。
「うん、大丈夫。」
次の瞬間。
ぴょん。
タッ。
タッ。
タッ。
水しぶきだけが後から上がる。
「今、水の上……。」
遥菜は目をぱちぱちさせた。
「走ったな。」
琉生はもう驚くことを諦めた。
ロープスイング。
奏音はロープをしっかり握る。
「よかった。」
琉生が胸をなで下ろす。
「ちゃんと使う。」
大きく揺れる。
「せーのっ!」
手を離す。
ふわり。
空中で体を丸め、
くるっ。
一回転。二回転。三回転。
着地。
そのまま前転。
立ち上がる勢いで走り出す。
「今の必要だった?」
唯月がぽつり。
「たのしかった!」
奏音は笑顔のまま答えた。
「でしょうね。」
唯月も思わず笑ってしまう。
そして最後。
反り立つ壁。
係員が叫ぶ。
「助走を付けて登ってください!」
「高いねぇ。」
奏音は壁を見上げる。
軽くジャンプ。
ぴょん。
「……うん。」
もう一回。
ぴょん。
「届きそう。」
「届かない届かない。」
琉生が思わずツッコむ。
奏音は笑った。
「やってみる!」
走る。
一歩。
二歩。
三歩。
加速。
さらに加速。
地面を蹴る。
飛ぶ。
壁の中腹に足を掛ける。
もう一歩。
頂上を掴み、
くるりと体を返して乗り越える。
「うおぉぉぉ!!」
観客席から大歓声が上がった。
ゴールまで残り数十メートル。
まだ数人前にいる。
普通なら届かない。
でも奏音は笑っていた。
「あと少し!」
木橋を駆け抜け、
ネットトンネルをくぐり、
吊り板を軽やかに渡る。
誰一人止まらせることはできない。
最後の直線。
「来てる! 奏音来てる!!」
遥菜が飛び跳ねる。
「抜けーーーっ!」
琉生まで叫んでいた。
風が吹く。
一人。
また一人。
前の走者を抜いていく。
そして。
ゴールテープが舞った。
数秒遅れて歓声が押し寄せる。
実況席は混乱していた。
「えっ!? いつ抜いたんですか!?」
桐谷先生は記録ボードを見つめる。
**最下位 → 一位**
ペンを持つ。
止まる。
「……説明できない。」
その頃には奏音が戻ってきていた。
少しだけ頬が赤い。
でも息は乱れていない。
「楽しかった!」
満面の笑み。
「特にロープ!」
「ロープかよ!」
琉生が笑う。
「壁も!」
「そこもか!」
「もう一回やりたいなぁ。」
「禁止。」
「えー。」
少しだけ口を尖らせる奏音に、
遥菜が吹き出した。
「奏音って、運動場じゃなくて遊園地に来てるでしょ?」
「うん!」
迷いのない返事だった。
唯月は肩をすくめて笑う。
「勝ったっていうか……楽しみ尽くした結果、一位になっただけだね。」
桐谷先生は遠い空を見上げる。
「来年は……ルールを増やすべきか……いや、その前に命綱を絶対付けさせよう……。」
係員はその場にしゃがみ込み、小さくつぶやいた。
「命綱……最後まで持ったままだった……。」
足元には、一度も使われなかった命綱がきれいに丸められたまま置かれていた。
なんか、予定していたより奏音が超人になちゃいました、、、、
次回は文化祭です!




