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8/10

かまぼこのゴール理論

胃痛=桐谷先生=苦労人=勇者

私は桐谷颯太。この学校の教師をやっている。

長年教師をやっていると、なんとなく分かることがある。

今日は何か起きる。

――朝の校門前。

空気は妙に静かだった。

遠足でもない。体育祭でもない。

ただのウォークラリーだ。

本来なら大きな問題は起きないはず。

だが、こういう日に限って何か起きる。

私は経験で知っていた。

そして開始三分。

「きりせーん!」

全力で走ってくる生徒が見えた瞬間、私は確信した。

来た。

「なんだ」

「サンダルで来ちゃいました!!」

来た。

思わず目を閉じる。

「履き慣れた靴で来てとは言ったけど……サンダルはないだろ!?」

「えぇ!?うそー!?履き慣れてるのにぃ!?」

悪気がない。

一番困るタイプだ。

私はため息をついた。

「先生の靴貸すから、それ履いとけ」

「いいんですか!?わぁ、ぴったりだ!」

なぜぴったりなのか。

私は考えないことにした。

朝から疲れる。

その横では二年B組が整列していた。

いつも通り賑やかだ。

特にあの班。

風間、夜凪姉妹、霧島、砂霧。

嫌な予感しかしない。

「よし、絶対楽しいやつじゃんこれ!」

風間はすでに楽しそうだ。

「歩くってどのくらい歩くんだろ……」

霧島は少し不安そう。

正常だ。

正常な反応だ。

「とりあえず、歩けばつくでしょ〜」

夜凪奏音。

始まった。

「その理屈は危ない」

砂霧が即座に止める。

助かる。

本当に助かる。

「奏音の言うとおり、歩けば、つくよねー」

夜凪音波。

増えた。

私は空を見上げた。

このクラスで山は大丈夫なのだろうか。

答えは分からなかった。

そして出発した。

最初のうちは平和だった。

少なくとも私にはそう見えた。

だが十分後。

見回り中の私は異変を目撃する。

田んぼ道の向こう。

何かが走っている。

最初は犬かと思った。

違った。

生徒だった。

しかも女子生徒二人。

猫じゃらしを振り回している。

「「わぁー!なにこれ!面白い!!」」

夜凪姉妹だった。

私は立ち止まった。

その後ろで砂霧が何か言っている。

止めようとしているらしい。

無理だろう。

私でも無理だ。

遠くで中3が固まっていた。

気持ちは分かる。

とても分かる。

――山の中間地点。

私は休憩所へ向かっていた。

そこで異様な光景を見る。

草むらが揺れた。

「やっほー」

「着いたよー」

夜凪姉妹だった。

山から出てきた。

正規ルートではない方向から。

私は地図を見た。

山を見た。

双子を見た。

もう一度地図を見た。

意味が分からなかった。

「え、どこ通ってきたの?」

風間が聞く。

ありがとう。

私も知りたい。

「こっち」

「道ないぞ」

その通りだ。

道はない。

なのにいる。

「道ってさ、歩いたあとにできるの。だから、歩ける場所は全部私たちの『らいふろーど』ってこと!」

私は思った。

教師人生二十年近くになるが、

らいふろーどという単語を聞いたのは初めてだ。

そしてできれば最後にしたい。

――再び山道。

少し離れた場所から様子を見る。

嫌な予感がする。

「こっち行った方が早くない?急斜面だけどね。」

やめてくれ。

「きっとかまぼこもゴールなんだよ。」

もっとやめてくれ。

かまぼこは何だ。

なぜ突然現れた。

私は教育学を学んだ。

心理学も学んだ。

しかし、かまぼこのゴール理論は習っていない。

その直後。

「左行こうか!」

夜凪奏音が言う。

体は右へ進んでいた。

「今左って言っただろ」

砂霧が言う。

正論だ。

「うん、右」

返事が返ってきた。

私は考えるのをやめた。

――しばらく後。

目の前を猫じゃらしを振り回す中学二年生二人が通過する。

ぶん。

ぶん。

風だけが忙しい。

私は言葉を失った。

後ろから砂霧が歩いてくる。

「すみません、気にしないでください」

私は返事をした。

「ア、ハイ」

自分でも驚くほど思考が停止していた。

――そしてゴール。

学校が見えた瞬間。

「ゴールだーー!!」

風間が走る。

元気だな。

本当に元気だ。

「「一旦ここで休憩しよう!!」」

夜凪姉妹が叫ぶ。

そこはゴールだ。

休憩所ではない。

私は訂正しなかった。

もういい。

全員無事ならそれでいい。

霧島は深く息を吐いた。

砂霧は遠い目をしている。

私も同じ気持ちだった。

だから最後にこう言った。

「……全員、無事でよかった…ということにしておく。」

本心だった。

本当に本心だった。

すると後ろから声がした。

「せんせー!靴返すの忘れてたー!!」

私は空を見上げた。

今日一日を振り返る。

クロックス。

猫じゃらし。

らいふろーど。

かまぼこ。

左右崩壊。

そして靴。

私は静かに思った。

明日は職員室で黙ってコーヒーを飲もう。

絶対に飲もう。


これでウォークラリー編は終了になります。次は、、、、、体育祭です!

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― 新着の感想 ―
先生の「かまぼこのゴール理論」面白かったです。 続編、待ってます
2026/07/02 10:08 にゃんたろう
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