常識はどこへ?
真面目な唯月ちゃんの視点です☆
私は霧島唯月。多分この班の中で、一番普通でいようとしている人間だと思う。
――朝の校門前。
空気が静かすぎて、逆に怖い朝だった。こういう日は、何か起きる。
「きりせーん!」
その予感は、男子Sが全力で走ってきた瞬間に確信に変わった。
ほらね。
「なんだ」
「サンダルで来ちゃいました!!」
開始数分でこれだ。私は軽く目を伏せた。もうすでに疲れた。
桐谷先生の声が一段階低くなる。
「履き慣れた靴で来てとは言ったけど……サンダルはないだろ!?」
「えぇ!?うそー!?履き慣れてるのにぃ!?」
履き慣れてる、という概念がここまで軽く扱われるのは初めて見た。
だってクロックスだよ?
「先生の靴貸すから、それ履いとけ」
「いいんですか!?わぁ、ぴったりだ!」
解決しているようで、解決していない気がする。
その横で、二年B組が並んでいた。
「よし、絶対楽しいやつじゃんこれ!」
遥菜さんは、もうこの時点で勝っている人だと思う。
「歩くってどのくらい歩くんだろ……」
私は地面を見ながら呟いた。距離と疲労の計算は大事だ。
「とりあえず、歩けばつくでしょ〜」
奏音さん。
その理屈は危ないよ?
「奏音の言うとおり、歩けば、つくよねー」
音波さん。双子なだけあって、考えてることがほぼ一緒。それがまた困る。
「その理屈は危ない」
琉生くんも言った。安心した。ちゃんと止める人がいる。
でもその直後、何かが少しだけ引っかかった気がした。
気のせいかもしれない。
桐谷先生は遠くを見ていた。何かを諦めている顔だった。
出発。
最初は普通だった。
アスファルトから田んぼ道に変わるだけで、少しだけ開放感がある。
「広い!」
遥菜さんが走りかける。
「走るなよ」
琉生くんがすぐ止める。その速度に少しだけ安心する。
その時だった。
視界の端で、奏音さんが何かを拾った。
田んぼの縁の、大きな猫じゃらし。
うーん、嫌な予感がする
「なんかこれ、振りたいね」
音波さんも同じものを持っている。
私は少しだけ距離を取った。
「ちょっと待て」
琉生くんの声が聞こえた。
でも、遅かった。
ぶん。
ぶん、ぶん。
走り出していた。
「「わぁー!なにこれ!面白い!!」」
風景が一瞬で変わる。説明できない種類の混乱だった。
これ、授業じゃないよね……
思わず口に出ていた。
でも、誰も止まらない。こんなことで止まる人たちじゃない
――山の中間地点。
到着した時、私は正規ルート側だった。
遥菜さん、琉生くん、そして私。
少し遅れて、二人が来た。
「やっほー」
「着いたよー」
奏音さんと音波さん。
葉っぱとか草とか、いろいろ付いている。猫じゃらしは健全みたい。
「え、どこ通ってきたの?」
遥菜さんが珍しく困っている。
「こっち」
後ろを指す。
道あります?
「道ないぞ」
琉生くんが即答する。
「道ってさ、歩いたあとにできるの。だから、歩ける場所は全部私たちの『らいふろーど』ってこと!」
私は一歩下がった。
理屈が存在してない。
「え、『らいふろーど』?いきなりどうしたの……?」
思わずツッコんだ。いや、引いたと言ったほうがいいのかな?
桐谷先生も来ていた。
固まっていた。
あ、これは考えるのをやめている顔だ。少し同情する。
また山の中。
地図を確認している時間。
私は少しでも現実的に考えようとした。
その横で、奏音さんが言う。
「こっち行った方が早くない?急斜面だけどね。」
急斜面……お二人は行けるかもだけど、私は無理です。
「きっとかまぼこもゴールなんだよ。」
音波さん。かまぼこはどこから……?
「……かまぼこはどこから来た。」
琉生くんの声が聞こえた。
少しだけ、安心した。
その時だった。
「左行こうか!」
(左……)
でも体は右に動いている。
「今左って言っただろ」
「うん、右」
だめだ、これ
「奏音、右ってどっち?!」
音波さんの声。
私は一歩下がった。
説明できない。
「迷子だ!迷子!」
遥菜さんは楽しそうだった。
楽しむ場面じゃないと思うな。
「いや、最高に面白いじゃんこれ」
琉生くんの目が少しだけ遠くなった気がした。
諦めかけてる。うん、当たり前。
桐谷先生に遭遇した。
猫じゃらしを振り回しながら通り過ぎる二人。
私は少し遅れてその横を歩く。
「すみません、気にしないでください」
琉生くんの声。
桐谷先生。
「ア、ハイ」
終わった
山を抜ける。
学校が見える。
「ゴールだーー!!」
遥菜さん。
「「一旦ここで休憩しよう!!」」
奏音さんと音波さん、ここがゴールです。
私は息を吐いた。
「……終わった」
何がとは言わないけれど。
桐谷先生が最後に言った。
「……全員、無事でよかった…ということにしておく。」
それしかないと思う
そして最後。
「せんせー!靴返すの忘れてたー!!」
私は空を見た。
まだ何かが残ってた。
今日も、平和じゃない一日だった。
疲れたな。ほんとに。
私の中で、何かが折れる音がした気がした。
次がウォークラリー編最後の桐谷先生の視点になります!




