表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/10

文化祭

文化祭編です!

文化祭当日の校舎は、いつもとはまるで別世界だった。


廊下には色とりどりの装飾が並び、あちこちから呼び込みの声が響く。


「焼きそばいかがですかー!」


「お化け屋敷、待ち時間なしでーす!」


どのクラスも賑やかで、活気にあふれている。


そんな中。


二年B組の前だけは、不思議なくらい空気が落ち着いていた。


教室の扉には、丁寧に磨かれたプレート。


**『2-B メイド喫茶』**


文字はまっすぐ揃えられ、飾り付けも派手すぎない。


どこか上品で、静かな雰囲気が漂っていた。


ガラッ。


扉が開く。


中から、小さな声が重なった。


「「いらっしゃいませ。」」


ぴたり。


最初のお客さんが、入口で止まる。


「……え?」


「今、ハモった?」


「いや、録音じゃないよな?」


店内へ視線を向ける。


そこには白と黒のメイド服を身にまとった双子が立っていた。


皺ひとつないメイド服。


エプロンの位置。


リボンの角度。


髪飾りまで左右対称。


そして。


その中心に立つ二人。


如月奏音と如月音波。


今日は"瑠璃"と"翠"として、お客様を迎えている。


二人は軽く一礼した。


「「ご案内致します。」」


また同時だった。


客席から小さなどよめきが起こる。


「ずれてない……。」


「完全に一緒だ……。」


遥菜は少し離れた場所から、その様子を見て笑う。


「また止まってる。」


「毎回ああなるな。」


琉生は苦笑しながら肩をすくめた。


席へ案内されると、二人は迷いなく動き出す。


「お水です。」


「メニューです。」


コト。


ほとんど同時に、水とメニューが置かれた。


「ありがとうございます。」


お客さんが思わず言うと、


「「どういたしまして。」」


やっぱり同時。


「なんかもう機械みたいだな……。」


琉生が小さくつぶやく。


「えー? 私は好きだけどなぁ。」


遥菜は楽しそうに笑った。


「落ち着くよね。」


「怖いけどな。」


唯月も苦笑する。


しばらくして、一人のお客さんがおずおずと手を挙げた。


「あ、あの……おすすめは?」


二人は顔を見合わせることもなく答える。


「「萌え萌えキュンのオムライスです。」」


「また揃った……。」


思わず笑いが漏れる。


奥では桐谷先生が腕を組みながら店内を見渡していた。


(文化祭くらいは……平和でいてほしい。)


そんな願いも束の間。


厨房から声が響く。


「「オムライス、完成しました。」」


「まただ。」


「すご……。」


料理が運ばれてくる。


「「お待たせしました。」」


コト。


オムライス。


コト。


スプーン。


置くタイミングまで同じだった。


唯月が思わずつぶやく。


「これ、練習したのかな……。」


遥菜は首を振る。


「練習でできるレベルじゃなくない?」


瑠璃と翠は、そのまま静かに店内を回る。


「「ご注文をどうぞ。」」


「えっと……パフェ二つで。」


「「かしこまりました。」」


同時に一礼。


同時に一歩下がる。


同時に厨房へ向かう。


「本当に双子なんだよな……?」


誰かがぽつりと漏らした。


数分後。


パフェが運ばれてくる。


見た目は完全に同じ。


クリームの高さ。


フルーツの位置。


チョコソースの流れ方まで一致していた。


「えっ……。」


お客さんは思わず二つを見比べる。


「これ、どっちが作ったとかあるの?」


二人は穏やかな声で答えた。


「「ひとりひとつずつお作りいたしました。」」


その声は相変わらず揃っている。


けれど。


ほんの少しだけ。


目元が柔らかく笑っていた。


「ありがとうございます。」


そう言われると、二人は小さく会釈する。


その自然な仕草に、お客さんも思わず笑顔になった。


「ねぇ。」


遥菜がぽつりと言う。


「なんかここ、落ち着くんだけど。」


唯月も静かに頷いた。


「怖いけど落ち着くの、変だよね。」


気付けば店内はほぼ満席になっていた。


注文は途切れない。


「「注文、紅茶。」」


「「ケーキセット。」」


厨房との連携も、息がぴったり合っている。


そして。


店内の照明が少しだけ落ちた。


「おっ。」


誰かが小さく声を上げる。


イベントタイム。


瑠璃と翠が店の中央へ歩み出る。


自然と店内が静かになった。


二人は深く一礼する。


「「本日の特別サービスです。」」


二人はゆっくりと顔を上げる。


店内にいる全員の視線が自然と集まった。


瑠璃と翠は一歩前へ出る。


そして。


「「おかえりなさいませ。」」


一拍置いて。


「「ご主人様・お嬢様。」」


ぴたりと重なった声が、静かな店内に優しく響く。


感情を大きく乗せているわけではない。


それなのに、どこか温かい。


「おぉ……。」


誰かが思わず声を漏らした。


小さな拍手が起こる。


遥菜は両手を口元で組みながら目を輝かせた。


「え、今の普通によかった……。」


「お前、こういうの弱いよな。」


琉生が苦笑する。


「だってかわいいじゃん!」


唯月も小さく笑う。


「確かに……これは人気出るね。」


イベントが終わると、二人は何事もなかったように持ち場へ戻る。


「「ご注文をどうぞ。」」


さっきまでの空気が嘘だったかのように、また静かな接客が始まった。


そのときだった。


ガラッ。


教室の扉が勢いよく開く。


一人の男子生徒が入ってくる。


教室を見回し、双子を見つけた瞬間。


口元がゆがんだ。


「あれ? お前らじゃん。」


瑠璃と翠は同時に視線を向ける。


「「いらっしゃいませ。」」


変わらない。


礼も、声も、表情も。


男子は鼻で笑った。


「へぇ。メイドなんかやってんの?」


二人は答えない。


「「こちらのお席へどうぞ。」」


案内だけは丁寧だった。


男子は席には向かわない。


そのまま二人の前まで歩いてくる。


「あれだけビクビクしてたくせに。」


「昔はもっとオドオドしてたよな?」


周りのお客さんが顔を見合わせる。


何人かは空気の変化に気付き、会話を止めていた。


それでも二人は変わらない。


「「ご注文がお決まりでしたら、お呼びください。」」


接客の言葉だけを返す。


男子は眉をひそめた。


「無視してんの?」


翠は瑠璃の方を向く。


少しだけ首をかしげた。


「瑠璃、瑠璃、お客様ってばどうかしちゃったみたい。」


瑠璃も翠の方を見ながら穏やかな声で返す。


「翠、翠、お客様ってば頭に脳みそが詰まってないみたいよ。」


一瞬。


店内が静まり返る。


「ぶっ……!」


遥菜は慌てて両手で口を押さえた。


肩だけが小刻みに震えている。


唯月も顔を伏せて笑いをこらえていた。


琉生は額を押さえる。


「それ今言うのか……。」


男子の顔がみるみる赤くなった。


「お、お前……!」


店内の空気が、少しだけ張り詰めた。


男子は顔を真っ赤にしながら、一歩踏み出した。


そのまま翠へ向かって腕を伸ばす。


「翠!」


遥菜が思わず声を上げる。


唯月も立ち上がりかけた。


次の瞬間だった。


ガシッ。


教室の空気が止まる。


男子の手首を掴んでいたのは、瑠璃だった。


ぎゅっと力を入れているようには見えない。


包み込むように、そっと添えているだけ。


それなのに。


「……あれ?」


男子が眉をひそめる。


腕が動かない。


少しだけ力を入れる。


びくともしない。


(なんでだ……?)


もう一度。


今度は本気で引く。


それでも動かない。


瑠璃は静かに男子を見つめていた。


怒っているわけでもない。


睨んでいるわけでもない。


接客中と変わらない、穏やかな表情。


「お客様。」


その声は静かだった。


「翠には、指一本触れさせませんよ。」


男子は思わず息をのむ。


その反対側では、翠がそっと男子の腕に手を添えた。


まるで転ばないよう支えるような、優しい手つきだった。


「お客様。」


翠も穏やかに微笑む。


「瑠璃には、指一本触れさせませんよ。」


「な、なんだよ……!」


男子は必死に腕を引く。


抜けない。


もう一度。


抜けない。


「うそだろ……。」


小さくつぶやいた声は、自分に言い聞かせるようだった。


(こんな力……。)


目の前の双子は、小学生の頃とほとんど変わらないくらい細い。


押せば倒れそうだった。


からかえば俯いていた。


泣きそうな顔で逃げていった。


そんな記憶しかない。


なのに。


目の前の瑠璃は片手だけで男子の腕を止めていた。


力任せではない。


それでも、まるで大きな岩に掴まれているように動かない。


周りのお客さんも息をのんで見守っている。


誰も騒がない。


静かだった。


静かだからこそ、余計に緊張が伝わってくる。


桐谷先生も異変に気付き、急いで近付いてくる。


「どうした!」


その声が聞こえた瞬間。


瑠璃と翠は顔を見合わせる。


小さく頷き合うと、


同時に、


ぱっ。


手を離した。


「うわっ!」


支えを失った男子は勢い余って一歩よろける。


転びそうになった体を、自分でなんとか立て直した。


瑠璃と翠は何事もなかったように制服を整え、


深く一礼する。


「「お客様。」」


声が重なる。


「「これ以上、他のお客様のご迷惑となる行為をされるようでしたら、ご退出をお願いいたします。」」


店内には静かな空気だけが流れていた。


怒鳴る者はいない。


責める者もいない。


それでも。


男子は、その場から一歩も動けなかった。


男子は瑠璃と翠を交互に見つめた。


動けない。


いや、動きたくても足が前へ出なかった。


(……なんなんだ。)


手首にはもう何の力もかかっていない。


それなのに、さっきまでの感覚だけが残っている。


小学校の頃とは、何もかも違った。


少しからかえば俯いていた。


何も言い返せなかった。


そんな二人だったはずなのに。


目の前にいる瑠璃と翠は違う。


強い。


腕力だけじゃない。


何を言われても表情を崩さない。


怒鳴らない。


言い返さない。


それでも、自分は何もできなかった。


男子は小さく舌打ちをした。


「……帰る。」


踵を返し、出口へ向かって歩き出す。


瑠璃と翠は、最後までメイドだった。


二人は深く一礼する。


「「ありがとうございました。またのお越しを。」」


男子の足が一瞬だけ止まる。


教室を出る、その直前。


二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。


「「……お待ちしておりません。」」


ほんのわずかに間を置いて放たれたその一言に、


教室中が静まり返る。


男子は何も返さなかった。


返せなかった。


そのまま扉を開け、教室を後にする。


ガラッ。


バタン。


扉が閉まる音と同時に、張り詰めていた空気がふっとほどけた。


「ぷっ……!」


遥菜がとうとう吹き出した。


「最後の一言だけ本音じゃん!」


「そこは『またのお越しを』で終われよ……。」


琉生も苦笑する。


唯月は胸をなで下ろした。


「でも……よかった。」


「騒ぎにならなくて。」


桐谷先生もゆっくり息を吐く。


(怒らなかった。)


(取り乱さなかった。)


(ちゃんと接客を最後まで続けた。)


視線を向けると、双子はもう次のお客様のもとへ歩いていた。


まるで何事もなかったかのように。


「「お待たせいたしました。ケーキセットでございます。」」


「ありがとう。」


「「ごゆっくりどうぞ。」」


さっきまでの出来事が嘘のように、穏やかな時間が流れ始める。


店内では再び笑い声が聞こえ、


紅茶の香りが漂う。


桐谷先生は胸ポケットからメモ帳を取り出した。


さらさらと書き込む。


『二年B組 メイド喫茶』


『異常なし。』


そこまで書いて、ペンが止まる。


「……いや。」


小さく苦笑する。


『接客精度が高すぎる点を除く。』


書き足してから、自分で首をかしげた。


「異常なしって……何だ?」


その独り言を聞いた琉生が笑う。


「先生、そのクラスで普通を探す方が難しいですよ。」


「……それもそうか。」


桐谷先生は肩の力を抜き、小さく笑った。


文化祭はまだ続く。


二年B組メイド喫茶も、静かに、穏やかに。


そして今日も満席のままだった。


そして双子のメイドも、完璧だった。

双子メイド、いかがだったでしょうか?

感想、お待ちしています!(ログインしてなくてもかけるので、是非どうぞ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ