名付け
「じゃあ、名前を決めようか~」
奏音の声が、いつの間にか少しふんわりしていた。
「うん~」
音波も嬉しそうに頷く。
二頭のフェンリルが、双子の前に並んで座る。
奏音の隣にいるフェンリルは、白銀の毛並みに少し青みが混ざっている。
光が当たると、淡い青色がきらきらと浮かんで見えた。
「うーん……」
奏音はフェンリルの毛並みを眺める。
「青っぽいから……瑠璃、ってどうかな~?」
「瑠璃……」
フェンリルが自分の名前を口にする。
「いいね~。好き」
「じゃあ、瑠璃にしよう~」
奏音が笑う。
「よろしくね、瑠璃」
「うん。よろしく、奏音」
瑠璃は嬉しそうに尻尾を振った。
次に、音波の隣にいるフェンリルを見る。
こちらは白銀の毛並みに、ほんのり紫色が混ざっている。
「じゃあ、私は……」
音波が考える。
「玻璃、はどうかな~」
「玻璃?」
「うん。綺麗だから~」
フェンリルは少し考えるように目を細めた。
「玻璃……」
そして、ふわりと笑う。
「いいね。気に入った~」
「じゃあ、玻璃だね~」
音波が嬉しそうに頷いた。
「よろしくね、玻璃」
「うん。よろしく、音波」
瑠璃が玻璃を見る。
「玻璃」
「なに、瑠璃?」
「これから一緒だね~」
「うん。ずっと一緒~」
二頭の尻尾が、同時にゆらゆら揺れた。
奏音もその様子を見て、ふんわり笑う。
「瑠璃、玻璃。これからよろしくね~」
「うん、奏音」
「よろしく、音波」
瑠璃が奏音を見る。
「奏音」
「なあに~?」
「名前をつけてくれて、ありがとう」
「ううん~。瑠璃が気に入ってくれてよかった~」
玻璃も音波を見る。
「音波も、ありがとう」
「こちらこそ~」
四人は並んで歩き始める。
奏音の隣に瑠璃。
音波の隣に玻璃。
不思議なことに、四人ともそれが最初から自然な形だった。
そして。
「瑠璃」
「うん?」
「玻璃」
「なあに~?」
「私たち、似てるね~」
奏音が言う。
瑠璃が笑う。
「そうだね、奏音」
玻璃も笑う。
「双子の姉妹同士だもんね、音波」
「うん~」
こうして。
奏音と瑠璃。
音波と玻璃。
二組の双子は、名前とともに正式な仲間になった。
王都へ戻る道。
四人で歩いていたが、しばらくすると瑠璃が奏音の前で足を止めた。
「奏音」
「ん~?」
「乗っていいよ」
「……え?」
瑠璃がその場に伏せる。
「背中。乗っていいよ~」
奏音の狼耳がぴくっと動いた。
「いいの~?」
「うん。歩くより楽だと思う」
「じゃあ……」
奏音は嬉しそうに瑠璃の背中へ乗った。
「わぁ……!」
ふわふわの毛並みに包まれる。
「すごい。高いね~」
瑠璃がゆっくり立ち上がる。
「落ちないようにね」
「うん~」
その様子を見ていた音波が、玻璃を見る。
「玻璃~」
「乗る?」
「乗りたい~」
「どうぞ~」
玻璃もその場に伏せる。
音波が背中に乗ると、玻璃もゆっくり立ち上がった。
「わぁ……」
音波も嬉しそうに笑う。
「ふわふわ~」
「気持ちいい?」
「うん~」
奏音と音波は、それぞれフェンリルの背中に乗っていた。
青みがかった瑠璃と、紫がかった玻璃。
その姿は、まるで夜空から抜け出してきたようだった。
「瑠璃」
「なあに、奏音?」
「走れる?」
「もちろん」
「じゃあ、ちょっとだけ走ってみたい~」
瑠璃が楽しそうに尻尾を振る。
「分かった」
その隣で。
「玻璃も~」
「うん~」
二頭のフェンリルが同時に駆け出した。
風が二人の髪を揺らす。
「わぁー!」
「楽しいね~!」
森の道を、二頭のフェンリルと二人の少女が駆けていく。
その後ろから兵士たちが追いかける。
「待ってくれー!」
誰も追いつけなかった。
王都へ戻ると、奏音と音波は再び王城へ呼ばれた。
「まずは二人に、正式な身分を与えよう」
玉座の間。
王の前には、新しい衣服が用意されていた。
奏音の服は、聖騎士に相応しい動きやすい装い。
夜空を思わせる濃い色を基調に、星のような装飾が施されている。
音波の服は、聖女らしい柔らかなデザイン。
こちらにも星を思わせる刺繍が入っていた。
「これからは、この国の聖騎士と聖女として正式に認める」
王が告げる。
「ありがとうございます~」
奏音がふんわり笑う。
「ありがとう~」
音波も頭を下げる。
二人が新しい服を身につけると、王は満足そうに頷いた。
「よく似合っている」
そのとき。
王の視線が、二人の後ろへ向いた。
「…………」
瑠璃と玻璃が、当然のように二人の後ろに立っている。
「…………」
王が固まった。
「……その二頭は?」
「瑠璃と玻璃だよ~」
奏音が振り返る。
「私の従魔~」
「私の従魔だよ~」
音波も続ける。
王の顔色が変わった。
「従魔?」
「うん~」
「……フェンリルではないか?」
「そうだよ~」
奏音が答える。
王は立ち上がった。
「フェンリル!?」
玉座の間に声が響く。
周囲の兵士たちもざわめいた。
「まさか……」
「二頭ともフェンリル……?」
王は瑠璃と玻璃をじっと見る。
「どうやって従魔にした?」
「森で会ったから~」
「仲間になったよ~」
「…………」
王は言葉を失った。
「フェンリルは、伝説級の魔物だぞ……?」
「そうなんだ~」
「知らなかった~」
二人は本当に知らなかった。
王が頭を抱える。
「……それで?」
「ん~?」
「なぜ、この二頭はそなたらについている?」
奏音が瑠璃を見る。
「瑠璃が私のところに来てくれたの~」
瑠璃が頷く。
「うん。奏音と一緒にいたかったから」
続いて玻璃も口を開く。
「私は音波と一緒にいたかったの~」
王の目がさらに大きくなる。
「……喋るのか?」
「うん~」
瑠璃が答える。
「話せるよ」
「私も~」
玻璃が続ける。
王はしばらく黙り込んだ。
そして、ゆっくり玉座へ座り直す。
「……異世界から来た双子」
「聖騎士と聖女」
「星夜の武器」
「そして、二頭のフェンリル……」
王は額に手を当てた。
「一体、そなたらは何者なのだ……」
奏音と音波は顔を見合わせる。
「普通の中学生?」
「たぶん~」
「…………」
王は遠い目をした。
この国の常識では。
どう考えても、普通ではなかった。




