わぁ〜、ぶきぃ〜
職業判定の騒ぎがようやく収まった頃。
二人は、王の前に並んで立っていた。
玉座に座る王は、しばらく奏音と音波を見つめていた。
聖騎士。
聖女。
しかも、狼と兎の耳まで現れた。
「……実に興味深い」
王が静かに口を開く。
「そなたらは、この世界の者ではないと聞いている」
「うん」
奏音が頷く。
「帰り方もまだ分からないけどね」
「そうか」
王は少し考えたあと、側近へ視線を向けた。
「持ってこい」
「はっ」
しばらくして。
二人の前に、大きな箱が運ばれてきた。
蓋が開く。
その瞬間。
部屋の空気が変わった。
中に収められていたのは、二つの武器。
一本は剣。
もう一本は杖。
どちらも黒に近い深い色をしている。
けれど、ただ黒いわけではない。
刀身にも、杖にも。
無数の小さな光が浮かんでいた。
青。
白。
紫。
まるで夜空そのものを閉じ込めたような輝きだった。
「……きれい」
奏音が呟く。
音波も目を輝かせる。
「星が入ってる~」
「そうだ」
王が頷いた。
「我が王国に伝わる特別な武具だ」
王はまず、剣を奏音へ差し出した。
「聖騎士であるそなたには、これを」
奏音が両手で受け取る。
その瞬間。
剣の中の星々が、一斉に瞬いた。
「……!」
奏音の狼耳がぴんと立つ。
「すごい」
次に王は、杖を音波へ渡す。
「そして聖女であるそなたには、これを」
音波が杖を受け取る。
こちらも同じように、無数の星が淡く輝いた。
「わぁ……」
音波のうさぎ耳が、ぴょこんと跳ねる。
奏音が自分の剣を眺める。
「これ、名前あるの?」
王は微笑んだ。
「星の夜を宿す剣。『星夜剣』と呼ばれている」
続いて音波の杖を見る。
「そちらは『星夜杖』だ」
「星夜剣」
「星夜杖~」
二人が同時に名前を繰り返す。
すると。
剣と杖の星々が、まるで二人の声に応えるように瞬いた。
王は目を細めた。
「……やはり」
「なに?」
奏音が首を傾げる。
「いや」
王は小さく笑った。
「その武器たちも、そなたらを選んだようだ」
「じゃあ、もらっていい?」
「ああ」
「やった~」
奏音と音波は顔を見合わせる。
そして二人とも、嬉しそうに笑った。
こうして。
異世界へ突然放り出された双子は。
聖騎士と聖女という職業。
狼と兎の獣耳。
そして、夜空を閉じ込めたような二つの武器を手に入れた。
ただ本人たちは。
「これで魔法とか使えるかな?」
「試してみたいね~」
そんなことを考えていた。
王から武器を授かった二人は、さっそく中庭へ連れ出された。
「まずは、武器の扱い方を確認してみよう」
案内役の騎士が言う。
「分かった!」
奏音は星夜剣を握った。
そして。
「ふぁいやー!」
ブワッ!
剣の切っ先から炎が飛び出した。
「…………」
騎士が固まる。
「……何をしている?」
「魔法」
「それは見れば分かる」
「剣から出してみた」
「そういう使い方ではない」
「そうなの?」
奏音は首を傾げた。
その横では。
「えーい」
音波が星夜杖を振り回している。
ぶん。
ぶん。
ぶん。
「音波、それは何をしている?」
「杖だから振るんだよ~」
「違う」
即答だった。
「杖は振り回すためのものではない」
「そうなの?」
「そうだ」
騎士は深く息を吐いた。
「……二人とも、武器の使い方から覚えよう」
---
まず、奏音の星夜剣。
騎士が剣を構える。
「この剣は、魔力を込めることで特殊な斬撃を放てる」
「斬撃?」
「ああ」
騎士が剣を振る。
シュッ!
空気が裂ける。
次の瞬間。
離れた場所にあった標的へ、光を帯びた斬撃が飛んでいった。
ドンッ!
標的が大きく揺れる。
奏音の目が輝いた。
「すごい!」
「これがこの剣の基本的な能力だ」
騎士は奏音へ剣を返す。
「魔力を込める。そして斬る」
「魔法みたいに飛んでいくんだ」
「そうだ」
奏音は剣を握り直した。
「やってみる」
目を閉じる。
剣へ魔力を流す。
すると。
星夜剣に散りばめられていた星々が、一つ、また一つと輝き始めた。
「……」
奏音が目を開く。
「えいっ」
ブンッ!
巨大な斬撃が飛んだ。
「えっ」
騎士の顔が引きつる。
ズガァァァン!!
標的どころか、その後ろにあった訓練用の壁まで大きく揺れた。
「…………」
奏音は剣を見る。
「できた」
「……できた、じゃない」
騎士は頭を抱えた。
「魔力を込めすぎだ!」
「そうなの?」
「最初はもっと少なくていい!」
その隣で音波が、杖を両手で持つ。
「私もやる~」
騎士は一瞬だけ嫌な予感がした。
「……音波。杖は振り回さない」
「うん~」
音波は素直に頷いた。
そして。
杖を構えた。
星夜杖の先端に、無数の星が集まり始める。
騎士はまだ知らなかった。
この二人が。
**武器の使い方を覚えた瞬間、さらに大変なことになるということを。**
「じゃあ、音波」
騎士は少し距離を取った。
「杖に魔力を流してみろ」
「こう?」
音波が星夜杖を握る。
ふわっ。
杖の先に、小さな光が灯った。
「おお……」
奏音が隣から覗き込む。
「これ、どうするの?」
「魔法を使うときは、杖を媒介にして魔力を形にする」
騎士が説明する。
「例えば、火属性なら……」
騎士が杖を構えた。
「火球」
杖の先から小さな火の玉が飛び出す。
ぽん。
「こんな感じだ」
「なるほど~」
音波は頷いた。
そして、杖を構える。
「火球」
ぽんっ。
小さな火の玉が出た。
「できた」
「そう、それでいい」
騎士がほっとする。
奏音が拍手する。
「音波すごい!」
「奏音もやってみる?」
「やる!」
奏音は星夜剣を構えた。
「じゃあ私も……」
剣に魔力を流す。
キィン。
刀身に星空のような光が集まる。
「魔力を込めて……斬る!」
ブンッ!
シュァァァッ!!
今度は、さっきよりも小さな斬撃が飛んでいった。
標的の中央を綺麗に切り裂く。
「おお!」
騎士が目を見開く。
「今度は完璧だ!」
奏音が嬉しそうに笑う。
「やった!」
「魔力の量を調整できるようになったな」
「うん!」
その横で音波は、もう一度杖を構えていた。
「じゃあ、私も」
「うん。小さめの魔法からでいい」
音波が杖を振る。
「火球」
ポンッ。
今度はさっきより少し大きい火球が飛んだ。
「上手だ」
騎士が頷く。
音波も嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もっと大きくしてみる」
「え?」
騎士が振り返る。
音波はすでに杖へ魔力を集めていた。
星夜杖に浮かぶ無数の星が、一斉に輝く。
「音波?」
「火球~」
ドォン!!
巨大な火球が飛び出した。
訓練場の端まで飛んでいき。
ズドォォォン!!
地面が揺れた。
「…………」
奏音が目を丸くする。
「すご」
音波は杖を見つめる。
「大きくなった~」
騎士は遠くの煙を見ながら、ゆっくり呟いた。
「……調整方法から教えるべきだったな」
奏音と音波は顔を見合わせる。
「次、何の魔法試す?」
「水とか?」
「いいね~」
騎士の顔が青ざめた。
「待て」
二人が振り返る。
「まずは一つずつだ!!」
それから数日後。
王城に、慌ただしく兵士が駆け込んできた。
「報告します!」
「どうした」
「西の森にて、強力な魔物が確認されました!」
王の表情が変わる。
「強さは?」
「……A級相当と推定されています」
室内がざわめいた。
そして。
王は二人を見る。
「奏音、音波」
「ん?」
「なに~?」
「出動してもらえるか」
「いいよ!」
「うん~」
二人はあっさり頷いた。
---
出発の準備をしていると、同行する兵士たちが二人を見ていた。
「……この二人が?」
「聖騎士と聖女って聞いたけど……」
「どう見ても子供だろ」
奏音と音波は、まだ幼い少女。
狼耳とうさぎ耳を揺らしながら、武器を持っている。
それだけ見れば、とてもA級魔物と戦えるようには見えない。
「本当に大丈夫なのか?」
「さあな」
そんな声が聞こえてくる。
やがて、一人の兵士が二人へ近づいた。
「お前たち」
「なに?」
「……まあ、無理はするな」
少し間を置いて。
「どうせ死ぬだろうけど、頑張りな」
「…………」
奏音と音波は顔を見合わせた。
「死ぬの?」
音波が首を傾げる。
「たぶん、そう言ってる」
奏音も首を傾げる。
「でも、まだ死にたくないよね」
「うん~」
二人は特に怒るでもなく。
ただ、武器を握り直した。
---
西の森。
二人が森へ入った瞬間。
空気が変わった。
鳥の声がない。
風もほとんど吹いていない。
「……静かだね」
奏音が呟く。
「うん~」
音波も周囲を見る。
そのとき。
ドン。
地面が揺れた。
「……?」
さらに。
ドン。
ドン。
木々の向こうから、巨大な影が現れる。
二人は顔を上げた。
巨大な身体。
鋭い爪。
こちらを睨みつける、異様な存在感。
「……あれ?」
奏音が目を細める。
「A級って、あれ?」
音波も見上げる。
「大きいね~」
魔物が咆哮した。
グオオオオオオッ!!
森全体が震える。
それでも。
二人は逃げなかった。
奏音は星夜剣を抜く。
刀身に、星空の光が集まる。
音波も星夜杖を構える。
「奏音」
「なに?」
「どうする?」
奏音は魔物を見た。
そして。
「……とりあえず、斬ってみよう」
「うん~」
二人は同時に前へ出た。
A級魔物と。
異世界から来た、二人の少女。
初めての戦いが始まろうとしていた。
二人の初めての戦いは、あっけないほど短かった。
「奏音、どうする?」
音波が星夜杖を構える。
「うーん……」
奏音はA級魔物を見上げる。
そして。
「普通に斬ればいいんじゃない?」
「そうだね~」
二人とも、まだ分かっていなかった。
自分たちがどれほど強いのか。
奏音は星夜剣を構えた。
刀身に、夜空のような光が集まる。
「えいっ」
ヒュッ。
一閃。
ただ、それだけだった。
次の瞬間。
魔物の身体から、何かが落ちた。
ドサッ。
「…………?」
奏音が瞬きをする。
音波も見る。
そこにあったのは、魔物の素材。
そして、その隣には食用にできそうな肉。
しかも。
傷一つなく。
まるで最初から分けられていたかのように、綺麗に分離されていた。
「…………」
「…………」
同行していた兵士たちが固まる。
「……え?」
誰かが呟いた。
奏音は剣を見る。
「……倒した?」
「たぶん~」
「なんか綺麗に分かれたね」
「うん~」
兵士が恐る恐る近づく。
「これは……」
素材を確認する。
「……A級魔物の素材だ」
さらに肉を見る。
「しかも……ほとんど損傷がない」
別の兵士も駆け寄る。
「解体したわけじゃないよな?」
「してない」
奏音が答える。
「斬っただけ」
「斬っただけでこうなったのか!?」
奏音は首を傾げた。
「力、入れすぎたかな?」
「……」
兵士たちは答えられなかった。
少し離れた場所では、音波が肉を眺めている。
「これ、食べられるのかな~」
「たぶん?」
「じゃあ、帰ったら食べたい」
「いいね」
二人はすっかり戦闘のことを忘れていた。
その後ろで。
兵士の一人が、震える声で呟く。
「……A級魔物を一撃で倒した?」
別の兵士が答える。
「しかも、素材と肉を完全に分離して……」
二人はまだ知らない。
出発前に言われた、
「どうせ死ぬだろうけど、頑張りな」
という言葉が。
とんでもない勘違いだったことを。
A級魔物を倒した、その帰り道。
森の奥から、二つの気配が近づいてきた。
「……ん?」
奏音が足を止める。
音波も振り返った。
「なんかいるね~」
木々の間から、二頭の巨大な狼が姿を現した。
青白い毛並み。
鋭い眼差し。
そして、普通の狼とは明らかに違う圧倒的な存在感。
兵士たちの顔が、一瞬で青ざめる。
「……フェンリル」
「しかも……二頭?」
二頭のフェンリルは、ゆっくりと双子の前まで歩いてきた。
けれど。
敵意はない。
むしろ、奏音と音波をじっと見つめている。
奏音は首を傾げた。
「どうしたの?」
フェンリルの一頭が、奏音の前で伏せた。
もう一頭も音波の前で伏せる。
「…………」
「…………」
兵士たちは言葉を失った。
「まさか……」
音波がしゃがみ込む。
「触っていい?」
フェンリルが尻尾を振った。
「いいみたい~」
音波が頭を撫でる。
ふわっ。
大きな尻尾が、嬉しそうに揺れる。
奏音も隣のフェンリルを撫でる。
「わぁ」
狼耳がぴんと立つ。
「狼の仲間だぁ〜!」
フェンリルの耳がぴくっと動いた。
「仲間?」
奏音が嬉しそうに笑う。
「うん。私も狼だから!」
自分の頭の狼耳を指差す。
フェンリルは奏音を見つめたあと。
その場に頭を伏せた。
まるで、忠誠を示すように。
「……え?」
兵士が呟く。
「従魔契約……?」
淡い光が奏音とフェンリルを包む。
もう一頭も音波の隣で同じように光に包まれた。
光が消える。
二頭の首元には、星のような紋章が浮かんでいた。
「……契約、成立したのか?」
兵士たちは完全に理解が追いついていない。
フェンリルは伝説級の魔物。
それが。
聖騎士の少女と聖女の少女に。
自ら従魔になった。
奏音はそんなことも知らず、フェンリルの首に抱きつく。
「ふわふわ!」
「大きいね~」
音波ももう一頭を撫でている。
「名前つけようよ」
奏音が言った。
「うん~」
二人は顔を見合わせる。
異世界へ来てから、まだそれほど時間は経っていない。
なのに。
二人の隣にはもう、二頭の伝説級の狼がいた。




