第89話 旧友との再会
その男は下敷きにしている帝国兵などいなかったように歩き出す。
男は黒く長いぼさぼさの髪に青い鎧。そして双頭の黒い鷲が描かれている赤いマントを羽織って、ギュンターの前に立ちはだかった。
ギュンターはその男に見覚えがあった。はるか昔、まだギュンターが若く、ヘルドロード帝国にいた頃、一緒に帝国の将軍になる為切磋琢磨した少年の顔がフラッシュバックする。
「お前……ジャック……なのか?」
「おお! 憶えていたか! 友よ! 会いたかったぞ!」
ジャックはここが戦場なのにも関わらず、まるで酒場で旧友に会った時のような笑顔をギュンターに向ける。
周りの帝国兵は、自軍の将軍の登場で、多少戸惑いもあったが、士気を盛り返す。
「またお前と会えるなんて夢にも思わなかったぜ。まっ、今は敵同士だけどな!」
昔と変わらない軽口で話すジャックに、戸惑いを隠せないギュンター。
黒く長い髪に青い鎧。そして将軍の証たる赤いマント。5年前、スタンリー・デフォーを殺したとされる男と特徴がよく似ている。しかし、スタンリーを殺したとされる男は勇者の力を扱うはず。ギュンターの記憶には、ジャックが勇者の力使いだという記憶はなかった。それが決定的な矛盾に繋がり、ギュンターは混乱する。
「一つ確認したいがいいか? ジャック」
「ああ! いいとも! 友よ! これが“今生の別れ“となるんだ。語りつくそうではないか!」
緊張を顔に浮かべるギュンターと、楽しそうに話すジャック。その面持ちは対照的だ。
「先のベルフィアが帝国に侵攻した時、スカリアの森でスタンリーと言う名の騎士を討ったのはお前か?」
「スタンリー? そのような名前に記憶はないが、確かにスカリアの森で撤退しているベルフィア軍を襲ったのは俺だが?」
「そうか。 その時にはお前はもう将軍になっていたのか……」
戦場のど真ん中で堂々と話し続ける二人。周りの帝国兵はジャックがギュンターに襲い掛かる瞬間を今か今かと待っている。
「その通りだ、ギュンター。あっ! そうだ! お前に見て欲しいものがあったんだ!」
まるで友達に宝物を自慢するような無邪気な笑顔でそう話すジャック。ジャックは無造作に右手を横に伸ばすと、その手の平から黒い円状の物体が飛び出す。
バスン!と鈍く重い音が鳴ると、ジャックの右隣にいた帝国兵が、腹に風穴を開け、倒れた。
「な、な、な、何をなさるのですか!!! 将軍殿!!! ご乱心なされたか!!!」
周りの帝国兵は顔を青ざめながらジャックを問い詰める。
「うるせーよ、おまえら。たかが兵の一人や二人どうってことないだろ?」
ジャックは味方の兵を殺したのにも関わらず、どうでもよさそうに話す。
「それよりもどうだった!? ギュンター!? 凄いだろう!? 俺の力は!!」
ギュンターは本当に目の前の男が自分の知っているジャック・ウィルなのかと疑っていた。
理由は二つある。一つは性格。昔のジャックは仲間思いで、仲間を絶対に見捨てない勇敢な男だった。それが今や仲間の命を自分の手で奪うほど変わり果てている。
二つ目は言わずもがな、勇者の力だ。勇者の力とは、始めから持って生まれてくるもの、後天的に授かることはない……とされている。ギュンターの帝国時代の記憶では、ジャックにあのような能力は備わっていなかった。だが今、目で見た通りジャックは力を使った。
それは能力を隠していたのか、何かしらの力で勇者の力を得たのかはギュンターには分からなかった。
「その力はどうしたんだ? 私の記憶ではお前にそんな力はなかったはずだが……」
だからギュンターはストレートに聞くことにする。
「この力か? これはな……」
くっくっく、と笑うのを我慢するような、しかし我慢しきれていない笑い方をするジャック。
「皇帝陛下から賜った物なんだよ!」
「皇帝陛下から……だと?」
「ああ、そうだ! 凄いだろ? 皇帝陛下は!」
勇者の力を授ける力……。ギュンターはそんな事聞いたことがなかった。しかし、現に力を持たなかった者が力を使っている。一体どういうことなのかもっと詳しく聞く必要がある。
「なぁ、ジャック、一体どうやって皇帝陛下から勇者の力を授かったのだ?」
「……。そういえば俺はお前に一度も模擬戦で勝ったことはなかったよな?」
シリウスは、ギュンターの問を無視し、話始める。
「そうだったか? 昔の事過ぎて覚えていないが……」
「そうか。覚えていないか。 お前は当時入隊した同期で全部一番だった。
剣術で一番、馬術で一番、軍術で一番。お前は俺の憧れだったんだ。 それと同時に目標でもあった。 お前がいなくなってからも俺は努力し、実績を積み上げ、将軍の地位まで上り詰めた。
だが俺の心は満たされなかった。 将軍になっても、皇帝陛下に認められ力を与えられても、あの当時のお前の輝きを知っている俺はお前を超えられたとは到底思えなかった。 だが、それも今日で終わりだ。やっと、やっとだ。やっとお前を超えられる。憧れだったお前を、目標だったお前を。 今日お前をここで倒してこの俺が最強だと認めさせてやるよ」
さっきまで笑いながら話していたジャックとは明らかに雰囲気が変わった。目は獰猛な猛獣のように鋭くなり、臨戦態勢に入る。
それを見て、ギュンターも剣を構える。
「最強か……。この世界には俺より強い奴はまだまだいるぞ?」
「いや、俺は今までたくさんの敵と対峙してきたが、お前より強い奴はいなかった。 人は思い出を美化するものだが、お前の強さは本物だ。 今改めて対峙して確信した。 お前が最強だ。 そして今日、最強のお前を……俺が超える!!」
お互い一斉に駆け出した。
明日も2本投稿です!
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