第90話 赤い肌の大男
ガルギンはベルフィア軍を挟撃している帝国右軍の後方にいた。後ろにはスケルトンの軍団と予備兵が戦っていて、ちょうどそこの中間地点。しかし彼はどちらにも手を貸さず、戦闘を眺めているだけだった。
ガルギンの中にあったのはただ一つ、面倒くさい。それだけである。元来鬼人族とは根っからの戦闘民族。戦うのが大好きな人種であり、別名狂人族などと言われるほどの恐ろしい種族である。
だが彼らは純粋な一対一の決闘を好む傾向にあり、こういった人と人が入り乱れ、混戦になるような戦争は興味が薄い。その特性を突かれて人族に攻め入られ、滅ぼされかけた種族である。
「皇帝の野郎……。なぁにが平等な世界だ。 この首輪さえなければあの生意気な皇太子ぶち殺して自由に旅できるのによぉ」
ガルギンは自分に巻かれている隷属の首輪を忌々しそうに触れながら一人愚痴る。
≪隷属の首輪≫対象の人物の行動を制限させる力のある魔制具である。呪印の奴隷化と同じような効果だが、呪印の奴隷化は、許可した行動以外を完全に縛る魔法であるのに対して、隷属の首輪は、禁止された行動とった瞬間に心臓を魔法で圧迫し、潰してしまう恐ろしい魔制具である。
ガルギンの隷属の首輪の禁止事項は、帝国への裏切りの禁止である。裏切りの基準はガルギンに分かるはずもないが、こうして戦闘に参加せず、後ろから眺めている分にはセーフのようだ。
ガルギンの階級は将軍になってはいるが、実際は無理やり言うことを聞かされている奴隷だ。
帝国で開催される武闘会に賞金目当てで出場し、優勝してしまったことで皇帝に目を付けられたことが全ての始まりだった。
(大した敵いねーな。これなら後ろにいるスケルトンとやりあった方がましだな。 でも魔物って趣味じゃねぇんだよなー)
「なんだ!こいつら! 本当にスケルトンか! ぐわぁぁ!!」
後ろから情けない帝国兵の声が聞こえる。振り返ると、援護に駆けつけた予備兵はスケルトンに押されて後退している。このままでは予備兵軍は崩壊し、せっかくの挟撃作戦も駄目になってしまうだろう。
(このままスケルトンに負けて右翼が崩壊したら責任取らされて殺されるか? 殺されるよな。あの皇帝だし)
ガルギンはとうとう重い腰を上げ、後ろのスケルトンの群れを殲滅しようとした時、帝国中央軍の腹から、一個中隊ほどの規模の兵が此方に向かって走ってくるのが見えた。
(援軍に駆けつけた帝国兵か? いや、違うな。これは―――)
ガルギンは自然に口元が緩む。直感で分かった。二本の長槍を構え、先頭を走る男。やつは只者ではない、強者だ。それも別格の。
ガルギンの足は自然とその男の方に向かって駆け出していた。
ガルギンが踏み込んだ大地はひび割れ、クレーターを作り、もの凄い速さで突撃していく。ガルギンの頭の中にあったのは強者と戦いたいという思いのみ。そこにはもうスケルトンの群れを駆除するということは頭から抜け落ちていた。
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