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第88話 大きな影

 戦争開始直後、ギュンター達先頭部隊は瞬く間に帝国兵の波の中を突破していく。帝国中央の前列は、帝国でも強者が配置されていたが、ベルフィア軍から選抜したギュンター率いる猛者の敵ではない。


 しかし、敵の動きも早い。帝国兵の左右の軍はスムーズにベルフィア軍を取り囲んでいく。


「ここまでは予測通り。後はどれだけ兵を残してここを突破できるか」


 ギュンターは馬で走りながら次々と帝国兵を切りつけていく。

 ふと隣を見ると、二本の長槍を振り回し、暴れ回るシリウスの姿を捕らえる。その長槍はただの槍ではなく、風と氷を纏わせ帝国兵を攻撃している。


(相変わらず派手な戦いぶりだ)


 ギュンターとシリウスの力量はほぼ互角。しかしそれは同レベルの武器を扱った時の話。


 ギュンターは天剣ライトセイバーをフィンゼルに譲った為、ミスリル性の剣を使っている。ミスリル性の剣も高ランクの武器だが、シリウスが扱う最高峰の二本の長槍と比べれば、その性能は天と地の差。腕前で差がなくとも、武器の差でシリウスに軍配が上がるだろう。


 帝国兵と戦闘の最中、沼地の方角から、おぞましい雄叫びを上げながら、何かが近づいてくる気配を察知する。それは時間が経つと共に、砂煙を撒き散らしながら大地を鳴らし、近づいてくる。


「シリウス!! 一体何事だ!?」

「分からん!! だが、ただ事ではない!!」


 戦場の中、大声で叫びながら会話をする二人。しかし、このイレギュラーの事態でもベテランの騎士である二人は周りの状況確認を怠ってはいない。帝国兵の挙動で、これが敵軍にとっても良からぬ事態とすぐに察しが付く。そこからの行動は早かった。


「怯むな!!! このまま押進ぞぉぉぉ!!!」


 シリウスは先頭部隊に発破をかける。

 この状況に混乱する帝国兵は、このイレギュラーの状態でも構わず進軍してくるベルフィア軍になすすべなく倒されていく。


 そんな中、また状況は変わっていく。シリウスは皇太子の軍の後ろ、予備兵が帝国右の軍に援軍に向かって行くのを確認する。


 その数は丸々6万。シリウスも沼地側で第三勢力が介入してきたのは分かっている。あのおぞましい雄叫びは魔物の物。それを退治するために予備兵を動かすということなのか。であればこれはベルフィア側にとってチャンスである。当初から後ろの予備兵は皇太子を討つ上で非常に厄介であった。それが自ら動いてくれたのだ。後は将軍を上手く処理することが出来ればこの戦争の勝率は格段に上がる。

 

 その時、シリウスの視界に赤い肌の大柄の男が視界に入る。その男は右帝国軍が、魔物やベルフィア軍と戦っている中、戦闘に加わらず、後ろの方で腕を組んで傍観していた。


「ギュンター!! 中央は任せる!! 俺は左に行く!! 千人ほどついて来い!!」


 ギュンターは左に進路をとると、帝国兵をなぎ倒し、道を切り開いていく。シリウスの隊は帝国中央軍の左の腹を食い破り、外に出ると、赤い肌の大男の元へ駆け抜けていく。


「全く。勝手なやつだ……」

 

 ギュンターは一人愚痴る。

 帝国兵との圧倒的人数差で、シリウスの抜けた穴は大きい。彼が抜けた分まで仕事をせねばとさらに奮闘する。


「ぬあぁぁぁ!!!」


 ギュンターはベルフィア軍本体と離れると、気合の雄叫びと共に一人で帝国兵の中に突撃する。愛馬と一緒に暴れまわり、一振りで10人を切り倒す姿はまさに鬼神のごとし。


 一人で暴れれば暴れるほど帝国兵はギュンターを止めようと人数をかけていき、どんどん本体から孤立していく。


 しかし、これがギュンターの狙いでもあった。自分に帝国兵が集まれば集まるほど、本体中央にいるフィンゼルは突破をしやすくなる。そして、どんなに雑魚に囲まれても、やられない自信がギュンターにはあった。


「何としても止めろぉぉ!! こいつは敵軍2トップのうちの一人だ!! ここで仕留めれば殿下からお褒めの言葉が……ぐはっ!!」


 味方を鼓舞する帝国兵を切るが、まだまだ帝国兵は減ってはいない。


(戦いが始まり大分時間が経つ。坊ちゃまが無事に勤めを果たせると良いが……)


 すぐにでもフィンゼルの様子を確認したいギュンターだが、ここを放棄すれば、帝国兵が本体に向かうのは必至。なんとしても帝国兵をここに釘付けにしなければならない。


 ギュンターはもう一度気合を入れなおし、帝国兵を薙ぎ倒していく。

 しかし、流石に多勢に無勢、帝国兵に囲まれ始めたギュンターは、馬に乗った機動力を生かすことが次第にできなくなり、一人の兵士の槍が、ギュンターの馬を貫く。馬の悲鳴と共にギュンターは後ろに飛びのく。


(すまない……。アレイオン……)


 心の中で愛馬に謝罪するギュンター。


「今だ!! 一気に畳みかけろ!!」


 ギュンターを馬から引きずり下ろし、勢いに乗った帝国兵が一斉に襲い掛かる。ギュンターはそれに身構え、切り伏せようとしたその時、太陽を隠すようにその周辺を大きい影が覆う。


 その影は雲ではない、人の形を取りながら、今ギュンターに襲い掛かろうとしていた帝国兵を下敷きにして地面に着地する。


「ギュンター、やはりここにいたか」



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