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第87話 暗黒の炎

 俺たちは帝国中央軍を突破するため馬を走らせる。後ろには、数千のベルフィア兵の騎馬隊が後をつける様に追いかけてくる。


「もう少しですぞ! フィンゼル様! あと少しでここを突破できます! そうすればあとは後ろに控える皇太子の軍のみ!!」


 そう、ここはあと少しで突破できる。しかし、まだ後ろには皇太子の軍およそ6万の兵がいる。


 帝国中央の軍を突破間際まで来ているが、ギュンターやシリウスの顔は見えない。もう突破して皇太子の軍と戦闘しているのだろうか?


「ここを通すわけにはいかねぇんだよぉぉぉ!!!」


 前方から30人ほどの帝国兵が、二人一組で木の板を十字にし、それを盾にする様に帝国兵が突撃してくる。


 俺は焼き払おうと、炎魔法を発動しようとするが、木の板に張り付けてある“者“を見て発動を中止する。帝国兵は、ベルフィア兵を木の板に張り付けて盾にしていたのだ。貼り付けにされたベルフィア兵たちは涙を流しながら大声で助けを叫んでいる。


 衝突するまであとわずか。俺が魔法を放つと味方まで巻き添えになる。迷っている俺を、隣で走るエマは一瞥する。そして目を閉じて魔法陣を構築し、それを解き放つ。


強化凍結(マイティ・フリーズ)


 エマは貼り付けられているベルフィア兵を避け、帝国兵のみを氷漬けにし、動きを封じてしまった。俺たちは氷漬けになった帝国兵の脇を通り過ぎていく。


「すっげ…!器用だな…」

「別に。ただ魔法陣にベルフィア兵を避けて当てる様に書いただけ。あなたが不器用すぎるのよ」


 俺の賞賛の言葉を、エマは前を見据え答える。


 魔法陣を組んでの発動はこういう時便利だよな。ちゃんと魔法陣を組んだ通りの動きをするのだから。イメージに任せて発動すると、どうしても大雑把になってしまい、このような事は出来ない。まぁ、何も考えずに放つ分には楽なんだが……。


 敵兵もいなくなり、あとはここを突っ走るのみ……!

 ここを突破すればギュンター達先頭の部隊が皇太子の軍と戦闘になっているはず。それに乗じて皇太子の首を取れば―――この戦いは終わりだ!


 俺たちは馬で駆け抜け、そして―――


「抜けた!」


 帝国軍中央を突破した俺たちはギュンター達に加勢しようとするが……するが……


 後ろに控えてる皇太子の軍は戦闘状態になっておらず、皇太子を中央に隠すように陣形を立っている。


「ギュンター達先頭集団はどこ行った?」

「どうやら、この乱戦で戦闘部隊は散り散りになり、我ら中央軍が先頭に躍り出てしまったようですね」


 俺の疑問に、ベルフはさも当然のように返してくる。

 

 おいおい……。ギュンター達が散り散りになって帝国軍中央に取り残されているだと?

 ということは……。


「この突破した数千……目算で約6千ってとこかしら? で、敵の6万とやらなきゃいけないということね」


 エマがそう結論付ける。

 しかし、この突破した6千は中央軍の兵士たちだ。戦闘に腕のある者たちはほとんどが先頭部隊に配置されている。戦力差は10倍。いろいろ策を弄すれば別だが、このような正面衝突だと……。


「ワシが道を切り開きましょう。 フィンゼル様は皇太子の首だけを見ていてください」


 ベルフがそう提案する。そういえばこいつは昔から戦場に出ている猛者だったな。歳の影響で衰えているだろうが、このような劣勢の経験もあるはずだ。任せてみよう。


 ベルフ隊を前に出し鋒矢の陣形を組む。軍が小規模になってもやることは同じ。皇太子の場所まで突破し、その首を取ること。目指す場所はハヤブサのシンボルが入っている旗、敵軍の中央。そこに皇太子がいるはずだ。


「突っ込む際に俺が魔法で牽制する。巻き込まれるなよ」

「分かったわい! いくぞ!!! 突撃じゃぁぁぁ!!!」


 6千の軍が一斉に皇太子の軍に向かって突撃していく。それと同時に雨のような弓矢が敵軍から俺達に降り注ぐ。


「派手にやるなら今のうちよ。あなたの魔法だと、乱戦になったら見方を巻き込みかねないわ」

「分かっている!」


 エマの言葉に俺は短く返す。


 俺は馬で走りながら右手を天に掲げると、直径30メートルほどの火球を作り出す。それは降って来た矢を燃やしながら突き進み、帝国兵前線部分に着弾する。


 帝国兵の断末魔と、肉が焦げた異臭があたりに広がる。


 ああ……。生まれて初めて人を殺してしまった……。しかし俺たちは戦争をしているんだ。いずれは起きた事。やらねばやられる。


「おお! これが噂に聞くフィンゼル様の炎魔法! 魔法一つで帝国兵の陣形に穴が出来たぞ!」

「皆の者!! そこから侵入じゃぁぁぁ!!!」


 ベルフィア軍はそこから侵入に成功するが、カバーに入る帝国兵も押し返そうと応戦する。


 しかし、そのカバーに入った帝国兵をベルフは拳でねじ伏せる。そう拳だ。ベルフは馬を乗り捨て、細かった上半身は今や軍服がパンパンに膨れ上がるほど筋肉で盛り上がっている。


「おどりゃぁぁぁ!!!」


 ベルフの拳は一撃で帝国兵の頭を砕き、腹を貫いていく。


 ベルフの快進撃は止まらない。どれだけ囲まれようとも、その怪力でおしのける。それだけでなく敵の剣や弓もその鋼の肉体に阻まれ攻撃は通っていない。


「あれが噂に聞くデストレーザ流武闘術の力ね」

「ああ。武闘術使いは初めて見たな」


 武闘術使いは稀だ。デストレーザ流だけでなく、エル・ティソーナ流の武闘術使いも、剣術、槍術と比べて少ない。しかし、それは武闘術が劣っているからと言う訳でなく、ただ単純に武器を使った方が効率的だからと理由だろう。


 デストレーザ流の武闘術はその拳一発にかける一撃必殺を信条としている。そこにエル・ティソーナの武闘術のように、速さで翻弄(ほんろう)するとか相手の攻撃を利用してのカウンターとかそんな物頭になく、ただただ力で押し通すといった感じだ。デストレーザ流は攻め一辺倒のイメージが強いが、その中でも武闘術は特に脳筋ということで有名だ。


「なんだよ! こいつは!! 化け物か!!!」


 帝国兵はベルフに恐れをなし、ずるずる下がっていく。


「俺たちに任せろ!」


 帝国兵の中から出てきたのはローブを纏った者たち。おそらく魔導士だろう。

 魔導士たちは、炎や氷の魔法を発動し、ベルフにぶつける。ベルフはそれを腕でガードしながら耐える。いくらヘストロアの軍服に魔法耐性があるといってもあれは厳しいはずだ。


 俺はベルフを援護するため、背中に背負っている二本のブレイド・エッジを魔導士に投げつけ、一気に5人切りつける。それに怯み、隙ができた魔導士たちをベルフは容赦なく殲滅する。


「まだまだじゃぁぁぁ!!!」


 ベルフは馬に乗っていないのにも関わらず、アッという間に帝国軍中心部まで侵攻する。これはいけるな! なんならベルフ一人で殲滅出来てしまいそうなほど圧倒的に強い。


「はぁはぁはぁ……。皇太子!! その首貰うぞぉぉぉ!!」


 いや、あの筋肉を増強する技は体力の消耗が激しいのか、ベルフは大分息が上がっている。

 だがそれでも十分だ。もう旗はすぐそこだ。


 ベルフの拳が帝国兵を吹き飛ばすと、その先に見えたのはハヤブサの旗の下で馬に跨っている銀髪の少年。その少年は明らかに他の兵とは違い、帝国兵の鎧ではなく、おそらく魔法が宿っているであろう布性の衣服を纏っている。その黒を基調とした衣服は誰であろうと、一目で高価なものと判別できるほどの物だった。


 あれが皇太子……。顔までは良く見えないが、間違えないだろう。

 

 先手必勝。ペドリーノに使った、神話の不死鳥(エル・フェニックス)をイメージした。

 この魔法は火球より断然早い。反応できないほどのスピードで叩き込んで終わりにしてやる。


「行け」


 俺は魔力を手の平に集中させ、それを解き放つ。鳥の甲高い声と共に皇太子目掛け飛んでいき皇太子に着弾。あたりに爆風が巻き起こる。


「や、やったの?」


 エマの声がしんっと静まり返った戦場に響き渡る。


「一体誰だ?この俺に無礼を働く奴は?」


 爆風から現れた皇太子は無傷。皇太子は右手に怪しく光る剣を持ち、周囲にどす黒い炎を纏っていた。


「お前か?」


 皇太子は剣を前に突きつけると、その剣から黒い炎が噴射された。その真っ黒に染まった炎は、皇太子の前にいる帝国兵を次々巻き添えにしながら俺の方に……いや方向が違う。これは―――


「ベルフ!!! よけろぉぉぉ!!!」


 俺の叫びはベルフに届かず、ベルフは黒炎をまともに食らってしまう。俺は馬を降り、急いでベルフに近づき容体をみる。軍服は焼け焦げ、目は白目をむいていて意識はない。だが辛うじて脈はある。


「ベルフを後ろに下げろ。回復魔法が使えるやつを探すんだ」


 俺は近くにいた兵士に指示をする。


「あいつ、味方ごとやったわね」


 エマが俺に近づいてくる。


「エマ下がれ。こいつはやばい」

「何言ってるの? やばいならなおさら二人でやらないと……」


 前から黒い炎が広範囲に広がりまたも帝国兵を巻き込みながら迫ってくる。俺はとっさにエマを突き飛ばし、炎魔法で相殺する。


「へぇ。俺の炎が消された……。やるね、君」


 皇太子はニタニタと笑みを浮かべながら近づいてくる。


「しかし、可笑しいと思わない? 可笑しいよね? 圧倒的有利である俺たちがこんなに苦戦するなんて、絶対可笑しいよ。挙句の果てにここまで来ちゃうなんてさ。これは帝国兵の怠慢だよね。 この戦いが終わったら将軍含めみんな処刑だ」


 皇太子は笑いながら首を切るゼスチャーをする。


「だけどその前にまずは……お前たちだ!!!」


 皇太子は怪し気に光る剣から、黒い炎を俺に向けて解き放った。

明日も2本投稿します!

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