第71話 進軍の音
「いやー、まさかこの剣まで貸してもらえるとはね! 流石の父上も息子となると可愛く見えるようだな」
豪華な馬車の中でアドレイは明るい声を上げる。外ではアドレイの馬車を中心に大量の帝国兵が行進している。
弓兵含む歩兵が20万、魔導士5万、騎馬5万の30万からなる大軍隊、そして帝国十二将軍のうち3人が派遣されており、極めつけは国宝である天剣No5炎帝剣レーヴァテインを皇帝から借りている。
アバディンに駐留している兵力は8万ほどと報告が上がっており、兵力は3.5倍以上。勝利が確定していると言っても過言ではない状況である。
逆にどれほどの無能ならこれほどお膳立てされた状態で失敗するのか知りたいぐらいだとアドレイは思っていた。
「ベルフィア攻略が成功すれば、王国陥落も見えてきます。そうなれば次期皇帝の座に一歩リードですね、殿下。しかし、皇太子の旗を持ってきたのはいささかやりすぎかと……」
声を掛けたのは将軍の一人であるジャック・ウィル。アドレイが乗っている馬車にはアドレイ含む3人が座っており、2人とも将軍である。
ジャック・ウィルは黒く長いぼさぼさの髪に青い鎧を着ている。ベルフィア侵攻を防いだ立役者であり、皇帝からの信頼も厚い。
もう一人のエムレバート・ルインは齢80歳を超えている男だ。黒いローブに鍔の広い三角帽子を被っており、長く真っ白い髭を伸ばしている。将軍と同時に帝国の魔法理論の第一人者である。そして二人とも強力な勇者の力もちだ。
ちなみに3人目の将軍はこの軍の先頭にいるガルギンという大男だ。鬼人族という一昔前に人族により滅ぼされた種族の末裔である。上半身裸に膨れ上がった筋肉、赤い肌に、頭から生えている二本の角が特徴的だ。首には隷属の魔法が掛っている魔制具の首輪がされている。
帝国はこのような人族以外も隷属魔法により積極的に雇用している。いや使役していると言った方が正しい表現だろう。
3人とも別々の格好をしているが、帝国のシンボルである双頭の黒いワシが描かれた赤いマントを羽織っている事は共通している。
「なに、そんなものはベンセレムを落としさえすればこの俺が事実上の皇太子だ。問題あるまい」
アドレイはジャックの苦言を一蹴する。
「そういえばベンセレム王国といえば、あのギュンターの小僧が付いた国よな。ジャックは仲良かったじゃろ? もしかしたら会えるかもしれんぞ。ひっひっひ」
しゃっくりをしているような笑いをするルイン。
「ギュンター? 誰だ?」
「ギュンターは29年前まで帝国軍に在籍していた男ですよ。あいつは強かったなぁ。なんせ私はあいつに憧れて軍に入隊したのですから。それなのに……」
途中まで過去を懐かしむように話していたジャックだったが、一転し暗い表情をする。
「まぁ。ギュンターも運が悪い奴よな。29年前といえば、まだまだウライク王国やベラルン王国も健在し、帝国はベンセレム王国とトリステン神聖共和国含む4か国に囲まれておった時代。当時の帝国は無謀なことに4か国すべてに遠征していたが、ベラルンとの戦争が激化するにつれ、ベンセレムから手を引かざるを得ず、その撤退戦で殿を務めたギュンターはあえなく敗北。ベンセレム王国のヘストロアとかいう貴族の捕虜となると……悲しいことじゃなぁ。今も帝国にいれば将軍に間違いなくなっていた逸材なだけに欲しいなぁ」
その話を聞いて、鼻で笑うアドレイ。
(捕虜になって裏切ったということか? そんな根性ない軍人などいらん。軍人とは帝国の為、戦争の為、俺達皇族のため生贄になる存在だ。その為の免税制度だろ? その使命を忘れ敵に降るとは。そんなものは帝国の兵ではない)
「おいジャック。そのギュンターとかいう屑は見つけ次第殺せ」
「はっ!もとよりそのつもりです」
スカリアの森は帝国軍の行進による地響きが鳴り響いていた。
評価、ブックマークを頂けると励みになります!よろしくお願い致します!




