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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第二章「お前は私が倒す」

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6/20

運命の宿敵

「運命の宿敵、もう少し近くお願いします!」


リゼは笑顔のまま司会者を見た。


「誰と誰が?」


「オルディア選手とフェレス選手がです」


「そこは聞こえてる」


隣でカイが小さく息を吐いた。


中央広場の特設舞台。背後にはサーキットの紋章と、今日の宣伝文句が人の背丈より大きく掲げられている。


『幸運も不運も分かち合う――王冠を争う、運命の宿敵』


誰が考えた。


少なくとも競技者ではない。


「お二人、あと半歩ずつ」


撮影係が手を振る。


リゼもカイも動かなかった。


「ありがとうございます。その感じでいきましょう!」


「何の感じ?」


「宿敵感です」


客席から笑いが起きる。


リゼは顎を上げた。


拍手ならもらう。


勝手につけられた物語まで受け取る気はない。



前年度王冠のカイ。その前年のリゼ。そこへ今季の珍しい運の連動まで加わった。


宣伝側には、かなり使いやすい二人らしい。


ただし舞台脇の大掲示板には、使いにくい事実も残っている。


一番上。


セラ・ノーグ。


「では改めて!」


司会者が声を張った。


「昨季王冠のフェレス選手、一昨季王冠のオルディア選手! 今年はなんと幸運も不運も同じ方向へ傾く、不思議な縁まで加わりました!」


拍手。


「運命ですねえ」


「事故です」


リゼが即答した。


カイも頷く。


「珍しい現象なのは認めます。でも、試合結果まで同じになるわけじゃない」


「そう。今首位なの、セラだから」


リゼが掲示板を指すと、客席が少しどよめいた。


「もちろんです。ノーグ選手の快進撃も今季の大注目ですね!」


「快進撃っていうか、私たち二人とも負けてるし」


「君は一対三」


カイが横から足す。


リゼが睨む。


「自分から二人ともって言ったから」


客席が笑った。


司会者まで笑っている。


「なるほど。やはり互いの戦績にはお詳しい」


今のは余計だった。



「せっかくなので、お互いについて聞いてみましょう。フェレス選手、オルディア選手の競技者として一番怖いところは?」


「怖くはないです」


「そこをなんとか」


カイは少し考えた。


騒がしかった客席が、答えを待って静かになる。


「一度通した手でも、相手が覚えたと思ったら捨てられるところ」


「思い切りがいい、ということでしょうか?」


「少し違う」


カイはリゼを見る。


「ノーグ戦で一枚取った横滑り。次には使わなかった」


リゼは瞬きをした。


「……そこ見てたの」


「全部見てたから」


「一回通ったなら、もう一回って思わない?」


「相手が覚えたあとに?」


「そう」


「普通はね。君は捨てる。だから面倒なんだ」


さっきまでただの宣伝舞台だった場所が、少しだけ競技場に近くなった気がした。


リゼは笑う。


「じゃあ、もっと面倒にしてあげる」


「そのつもりで対策するよ」


拍手が起きる。


『運命』に向けられた拍手より、こっちの方がずっといい。



「ではオルディア選手。フェレス選手の怖いところは?」


「怖くない」


「お二人ともそこからなんですね」


リゼはカイを見た。


去年の決勝。この前のセラ戦。それより前もいくつか浮かぶ。


「相手に先に決めさせるところ」


「冷静さ、でしょうか?」


「違う。自分から何もしないみたいな顔して、こっちが一個選んだ瞬間だけ取りに来る。踏み込むとか、撃つとか、逃げるとか。決めたあとを高くつかせるのが上手い」


カイがこちらを見る。


「ただ、深く入る前は左肩が少し落ちる」


「それ言う?」


「二年前から知ってる」


「知ってるだけなら言わなくていいでしょ」


「もうセラにも読まれたし」


リゼは肩をすくめた。


「直した方がいいよ」


「君に言われなくても」


「直ったらまた見る」


カイの返事が、一拍遅れた。


「……勝手にどうぞ」


その一拍だけ、司会者は拾わなかった。



「いやあ、これはすごいですね! お互いを知り尽くした二人! まさに運命の――」


「そこに戻るの?」


「戻ります!」


司会者は強かった。


最後に王冠への意気込みを求められ、リゼはマイクを取る。


「私が取る」


歓声。


カイへ渡す。


「僕が取ります」


さらに歓声。


「息ぴったりですね!」


「どこが?」


二人の声が重なった。


今日一番大きな笑いが起きた。



舞台を降りると、大幕の『運命の宿敵』がまだ視界に入る。


「次は断ろうかな」


「無理じゃない」


「なんで」


「今日かなり受けてたから」


「最悪」


「君も楽しそうだったけど」


リゼは足を止める。


「どこが」


「僕の話してたとき」


「弱点見つけたら楽しいでしょ」


「そうだね」


カイは否定せず歩いていく。


舞台の向こうで、次の公式戦を知らせる鐘が鳴った。


リゼは大掲示板を見上げる。


一番上には、まだセラ・ノーグ。


そちらへ先に視線を置いてから、歩き出したカイの背中を追った。

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