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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第一章「運が繋がっても、負けたくない」

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5/20

お前まで負けるな

次の公式戦日。


午前の自分の一勝を終えても、リゼは観客席を離れなかった。


白線の向こうで、カイとセラが向かい合っている。


去年の王冠保持者と、今季、自分を一対三で負かした現在の首位。


見ない理由がない。


鐘が鳴った。


カイは動かない。


セラも、すぐには攻撃しなかった。


最初の光面がカイの右後ろへ立つ。次は左。さらに少し前。


「……へえ」


自分のときみたいに一本の道へ押し込まない。使える場所だけを、少しずつ削っていく。


カイは半歩ずれたきり動かない。セラも急がない。


観客席のざわめきが、二人の代わりに膨らんでいく。


「どっちか行きなさいよ」


リゼは手すりへ頬杖をついた。


カイが待つ理由は分かる。相手が踏み込む、撃つ、逃げる――何か一つを大きく選んだあとなら、そこを高くつかせるのが上手い。


でもセラは賭けない。一枚置いて、半歩動く。その繰り返しで、カイの後ろだけが狭くなった。


次の光面を置こうとセラが腕を上げる。


そこでカイが出た。


短い光。


護印が一枚砕ける。


「そこ取るよね」


置く瞬間だけは、セラも手を使う。


一対ゼロ。


セラは割れた護印を見もしなかった。次の光面を、今度はカイの届かない位置へ置く。


速い修正だった。


カイが一枚を壊して出口を作る。セラは塞がない。その空いた場所へ光を通した。


斜めの防壁で逸らす。


カイなら、そのまま横へ半歩抜ける。


今日はその半歩先に光面があった。


肩が触れて足が止まる。防壁を抜けた熱が胸元をかすめ、護印が一枚砕けた。


一対一。


「嫌な置き方」


セラは追わず、また空間を削った。



二枚目を取ったのはカイだった。


左の光面を壊す。セラの視線が開いた場所へ寄る。


カイは入らない。


逆側から撃った光に、セラの反応が半拍遅れた。


二対一。


リゼは思わず口元を上げる。


自分なら、壊した場所を使っていた。


カイは使わない。使うと思わせた時点で、もう次を取っている。


セラの眉が初めてわずかに寄った。


けれど次から、壊された場所を見なくなった。


どこが開いても構わず、別の場所だけを狭くする。中央には広い空間が残る。ただし、そこへ出るにはカイ自身が前へ入らなければならない。


待っていれば、後ろがなくなる。


カイも分かっていた。


右の光面を壊す。入らない。左を撃つ。セラが防壁を出した隙に中央へ出る。


光が走る。


セラは肩を引いてかわし、代わりにカイの足元へ薄い面を立てた。


前へ出た勢いが一瞬だけ崩れる。


そこへ一撃。


二対二。


歓声が大きくなる。


リゼは、頬杖をやめていた。



残り一枚ずつ。


セラはもう光面を増やさない。今ある配置のまま中央で待つ。


カイも止まる。


ただ、今度の沈黙は対等ではない。


後ろは狭い。左右も遠い。先に何かを変えなければならないのは、カイの方だ。


リゼは彼の肩を見た。


ほんの少し、左が下がる。


手すりを握る指に力が入った。


二年前から知っている。


カイが自分から深く入る前だけ、ああなる。


セラの視線も同じ肩へ落ちた。


まだカイは動いていない。


なのに、背中側の光面が消え、半歩横へ置き直される。


「……読んだ」


直後、カイが踏み込んだ。


最短で中央へ。


セラの光を防壁が斜めに受け、軌道を逸らす。


その先に、置き直された光面があった。


もう一度、光の向きが変わる。


背中側。


カイが振り向くより先に、最後の護印が砕けた。


『勝者――セラ・ノーグ!』


三対二。


観客席が沸く。


セラは礼を交わし、大掲示板へ一度だけ目を向けた。一番上の名前は変わらない。


セラ・ノーグ。


リゼは手すりから手を離した。掌に細い跡が残っていた。



競技者出口の脇で、カイは手首の固定具を外していた。


リゼが近くまで行くと、先に気づく。


「何」


「最後、肩落ちてた」


「知ってる」


「セラも見てた」


固定具を外す手が一瞬だけ止まった。


「それも、今は知ってる」


「私、二年前から知ってたけど」


「自慢?」


「違う」


そこまで言って、次が出てこなかった。


カイが負けたのはカイのせいだ。セラが上手かった。


順位だけなら、むしろ都合がいい。


「……次、取り返して」


カイが顔を上げた。


「命令?」


「お願いに聞こえた?」


「全然」


「ならいいでしょ」


「あんたまで負けっぱなしでいないでよ」


「君も負けたけど」


「返す」


即答した。


「だから、あんたも返して」


カイは固定具を鞄へ入れる。


「僕が勝つと、君の順位には邪魔だけど」


分かっている。


それでも、さっき最後の護印が砕けた瞬間、少しも嬉しくなかった。


リゼはカイを見る。


「あんたまで負けるな。私が負かすんだから」


数秒、返事がない。


やがてカイは鞄を肩へ掛けた。


「注文が多いね」


「勝手に勝てばいいでしょ」


「最初からそのつもり」


先に歩いていく。


リゼは追わず、大掲示板を見た。


一番上には、まだセラの名前がある。

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