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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第一章「運が繋がっても、負けたくない」

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2/20

勝敗までは共有しない

開幕節二日目。


入場口の白線を前に、リゼは手首を見た。昨日から競技者印の縁に居座っている金色の線が、薄く光っている。


嫌な色だ。綺麗なのが余計に腹立つ。


「オルディア選手。入場を」


「はい」


一歩越えると、足元から淡い光が走った。金色が青白い競技者印の奥へ沈む。


リゼの口元が上がる。


「よし」


向かい側の相手が怪訝そうな顔をした。


「何が?」


「こっちの話」


鐘が鳴る。


ここから先は、自分のものだ。



最初の一撃は、正面から止められなかった。


相手の防壁は斜めに立ち、リゼの光を受け止めず横へ逃がした。防護膜に流れて消える光を見ながら、リゼはそのまま踏み込む。


「へえ」


靴底に推進の紋が開き、床が背中を押す。


二枚目の防壁も斜め。今度は逆向きだった。


正面から叩けば、また流される。


だから叩いた。


相手の口元が緩む。


逸れた光の先に、リゼが置いていた薄い防壁があった。


「な――」


二度目の反射。軌道を変えた光が相手の脇腹へ回り込み、護印を一枚砕いた。


歓声が跳ねる。


「それ、あり?」


「当たったでしょ」


次に相手が作ったのは、低い壁三枚の狭い通路だった。中央だけが一人分、露骨なくらい空いている。


罠だ。


だから入る。


推進の紋が足元で弾けた。正面から光が来る。リゼは防壁を出さず、肩だけ落とす。


避けきれなかった熱が胸元を走り、護印が一枚割れた。


同時に、もう手が届いている。


「取った」


至近距離の衝撃で相手の二枚目も砕けた。


胸元に残った熱が少し痛い。それでも一枚なら安い。


相手が距離を取り直す。さっきまでの余裕は消えていた。


リゼが壁へ視線を向けただけで、相手の構えが揺れる。


壊すのか。曲げるのか。また入ってくるのか。


迷った。


その一瞬に、今度は何も仕込まず真っ直ぐ撃った。


最後の護印が砕ける。


『勝者――リゼ・オルディア!』


リゼは観客席へ片手を上げた。



白線を出た瞬間、金色が何事もなかったように戻ってくる。


「一枚、わざと取らせたね」


横からカイの声がした。試合用の上着を着て、次の入場を待っている。


「見てたの?」


「ここから見えるから」


「真似しないでよ」


「しないよ。もったいない」


「ケチ」


「君が雑なんだよ」


係員に呼ばれ、カイが白線へ向かう。越える直前、一度だけ手首を見た。金色が沈む。


リゼは観客席へ戻った。


次に戦うかもしれない相手を見る。それだけなら普通の偵察だ。



カイの相手は速かった。


開始と同時に推進の紋を二つ重ね、一直線に距離を潰す。


リゼなら一つで行く。二つは速い。そのぶん止まりにくい。


カイはぎりぎりまで動かなかった。


光が飛んできて、ようやく半歩。斜めの防壁が肩の横へ光を逃がす。相手は勢いを残したままさらに来た。


客席がどよめく。


カイが置いた二枚目の防壁は、相手の正面ではなく足元だった。


踏み込んだ靴先が光面に乗る。


「っ!」


推進の残った身体が横へ流れた。そこで初めてカイが大きく動き、通り過ぎる背中へ短い光を入れる。


一枚。


「性格悪」


リゼは小さく笑った。


次は相手も慎重になった。推進を使わず、歩幅を削って距離を詰める。


待つと思ったところへ、カイが自分から入った。


ただし深くはない。届くぎりぎりで止まり、相手が反撃のため腕を伸ばした、その瞬間だけを取る。


二枚目。


焦ったのは相手だけだった。


最後の一枚を取るまで、カイが大きく踏み込んだのはもう一度だけ。


相手が待ちきれず、攻撃と一緒に前へ出た。カイは避ける。空振りした横へ一歩。短い光。


鐘が鳴った。


『勝者――カイ・フェレス!』


歓声の中、カイは相手へ礼をして退場口へ向かった。


あれだけ綺麗に取って、拍手を素通りする。


リゼにはそこだけ理解できない。



正面の大掲示板が開幕節の暫定順位へ切り替わった。


自分の名前を見つけ、そこから上へ視線を滑らせる。


知らない名前が一番上にあった。


セラ・ノーグ。


「誰、これ」


戻ってきたカイが隣で掲示板を見る。


「ああ」


知っている反応だった。


「開幕節、ここまで三戦三勝。護印も一枚も失ってない」


「……三戦?」


「そう」


リゼはもう一度、名前を見る。


自分でもなく、カイでもない。


それだけで、少し姿勢が変わった。


「次、当たる?」


「組み合わせなら、たぶん君が先」


リゼは笑う。


「ちょうどいい」

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