付き合っても、手加減なし
付き合い始めて最初の朝。
競技場の入口でカイを見つけた瞬間、リゼの足が一拍だけ止まった。
昨日までなら止まらなかった。
そこが腹立たしい。
「おはよう」
先にカイが言う。
「……おはよう」
「何その間」
「朝だから」
「昨日も朝はあったよ」
カイが少し笑った。
その顔で、昨日の外階段が一気に戻ってくる。
好き。
僕も。
リゼは視線を対戦表へ逃がした。
「今日負けたら絶対笑う」
「話変えたね」
「最初から競技の話」
「君、第二試合」
「あんた第四」
「知ってる」
「先に勝って待ってるから」
「待たなくていいよ」
「見る」
言ったあと、二人とも一瞬だけ黙った。
「偵察?」
「それも」
今度は否定しなかった。
準々決勝。
五番シードの相手は、正面に低い防壁を二枚重ねてきた。
力で割らせるつもりだ。
リゼは横へ振る。
相手の防壁が追う。もう一歩。さらに追う。
そこで正面へ戻った。
中央が薄い。
光を通し、一枚。
相手はすぐ修正した。
次は横へ振られても中央を捨てない。戻ったリゼへ一撃。
一対一。
「修正早い」
「そっちこそ」
次の交換では、リゼは正面から入るふりをして半歩止まった。
防壁が先に出る。
その縁だけを光で叩き、向きをわずかにずらす。できた隙間へ二発目。
二対一。
最後、相手は右を空けた。
リゼは行かない。
左も空ける。
行かない。
中央を一度叩くと、相手が自分から守りを寄せた。
そこで初めて左へ入る。
三枚目。
『勝者――リゼ・オルディア!』
「あと二つ!」
拳を上げる。
準決勝。その先に決勝。
まだ喜べる。
第四試合まで、リゼは観客席にいた。
カイの相手は七番シード。開始から左右へ光を散らし、位置を変え続ける。
待つ前に動く相手だ。
「それ嫌いそう」
一枚目はカイが取られた。
リゼは少し笑いかけた。
笑える程度に困ればいい。
そのあと勝て。
自分でも面倒な注文だと思う。
カイは二枚目から、追うのをやめた。
自分の周りに防壁を一枚だけ置き、相手がどれだけ周っても同じ位置にいる。
速い相手に追いつく必要はない。
走り続ければ、どこかを通る。
そこだけ待つ。
一対一。
相手は次から同じ場所を通らなくなった。
カイは防壁を半歩ずらす。
相手も走る線を変える。
また半歩。
少しずつ、使いやすい軌道が外へ押されていく。
「セラみたい」
口にしてから、リゼは首を振った。
違う。
セラは場所そのものを減らす。
カイは、同じ場所を通る値段だけを上げている。
最後まで自分のやり方だ。
三対二。
鐘が鳴った。
リゼは立ち上がる。
「遅い」
口元は上がっていた。
全準々決勝が終わり、大掲示板に準決勝の組み合わせが出た。
第一試合。
セラ・ノーグ。
リゼ・オルディア。
第二試合。
カイ・フェレス。
ハルド・ミエン。
「来た」
横へカイが来る。
「来たね」
「明日、セラ」
「それは見える」
「私が勝つ」
「それも前から聞いてる」
リゼは少しだけ迷ってから聞いた。
「応援する?」
カイも少し考える。
「勝って」
「素直」
「君が負けるの嫌だから」
昨日までなら、その言い方だけで固まっていたかもしれない。
今日は意味を知っている。
「決勝で困るよ?」
「僕が勝つから同じ」
「なるほど」
「君は?」
「何が」
「僕の準決勝」
「勝って」
今度は間を置かなかった。
「決勝で負かすから」
「そっちか」
リゼは笑う。
「好きだからって理由も入れてほしい?」
カイの返事が一拍遅れた。
「……別に」
リゼは何も言わず、その一拍だけ覚えておくことにした。
掲示板へ視線を戻す。
明日は、セラだ。




