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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第三章「好きでも譲らない」

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15/20

好きでも、一位は一人

あと一枚。


二対一。


相手の右側が空いている。白線まで二歩。その間に防壁はない。


入れば取れる。


そう見える。


この前も、そう見えた。


リゼの足は出なかった。


「……行かない」


相手の眉が動く。


右側はまだ空いたまま。


リゼは中央へ光を撃った。防壁に止められる。次は左。相手が半歩下がる。


右は空いている。


それでも行かない。


一歩だけ前へ出すと、相手が右の守りをわずかに狭めた。


やっぱり。


空いていたのではない。入ってくるのを待っていた。


「分かりやす」


「何が」


「こっちの話」


今度は左へ出る。


右の罠を残そうとした分、左の防壁が一枚遅れた。


そこだけは迷わない。


踏み込む。


光。


最後の護印が砕けた。


『勝者――リゼ・オルディア!』


「よし!」


両手を上げる。


あと一枚でも急がなかった。


それでも最後に入ったのは自分だ。


胸の奥に残っていた前の敗戦が、少しだけ軽くなる。



白線を出ると金色が戻った。


今日で最終順位戦が終わる。


大掲示板の数字が更新された。


一位、セラ・ノーグ。


二位、カイ・フェレス。


三位、ハルド・ミエン。


四位、リゼ・オルディア。


「四位」


満足ではない。


ただ、横に表示された八人のトーナメント表を見て、口元が上がる。


四番の自分が準々決勝を抜ければ、一番のセラ側。


二番のカイは反対側。


勝ち上がれば、決勝まで当たらない。


「いいじゃん」


「何が?」


横からカイの声。


「組み合わせ」


「四位が?」


「違う。セラ、先に取れる」


「君、準々決勝あるけど」


「そこも勝つ」


「僕も」


「聞いてない」


「決勝まで来てほしいんじゃないの」


リゼはカイを見る。


「来るでしょ」


「ずいぶん信用されてる」


「負けたら笑うけど」


「信用されてないね」


カイは掲示板へ目を戻した。


「行くよ」


その返事だけは、疑う必要がなかった。



夕方。


競技場から人が減り、外階段の石が昼より冷たくなっていた。


リゼはそこに座っている。


別に誰かを待っているわけではない。


そう思っていた。


五分後、カイが出てくるまでは。


「まだいたんだ」


「それ、前にも聞いた」


「今日は出口混んでないよ」


「知ってる」


カイが一段下へ座った。


一人分の距離。


正面では、まだ何人かが最終順位表を見上げている。


「四位」


カイが言う。


「二位」


「返すんだ」


「そっちが言ったから」


「一位はノーグ」


「それは知ってる」


会話が止まる。


夕方の風が階段を抜けた。


最近、こういう時間が増えた。


試合の直後でもない。事故が起きたわけでもない。話す用事もない。


それでも同じ場所にいる。


リゼは手首を見た。


金色は薄く光っている。


嵐の日は、これのせいで同じ中継所へ行ったのかもしれない。


今日は違う。


「ねえ」


「何」


カイがこちらを見る。


言いかけて、一度やめる。


試合なら、相手が何を出すか見てから決められる。


これは無理だ。


「この前」


「どの前」


「見なくていい試合」


カイの眉が少し動く。


「僕の?」


「そう」


「出口が混んでた日?」


「混んでなかった」


「知ってる」


リゼは膝へ肘を置く。


ここまで言ったなら、もう戻る方が面倒だ。


「あれ、偵察じゃなかった」


カイは黙って聞いている。


「途中から。見る必要なかったし、練習もあった。それでも最後まで見た」


「うん」


「……何でそんな落ち着いてるの」


「君が今説明してるから」


普段は相手に先に決めさせるくせに、こういうときだけ続きを待つ。


リゼは息を吐いた。


「たぶん――」


違う。


言い直す。


「好き」


声にしたら、思ったより短かった。


カイの表情が止まる。


「私、あんたのこと好き」


一秒。


二秒。


階段の下を誰かが通り過ぎる足音だけが聞こえた。


「……そう」


「何その返事」


「今、考えてた」


「何を」


カイは一度だけ視線を外した。


「僕も言うところ」


今度はリゼが止まる。


「僕も君が好き」


風が一度、髪を動かした。


リゼは何か返そうとして、うまく口が開かなかった。


さっきまで普通に話していたのに。


「……いつから」


「分からない」


「そこ分からないんだ」


「君の試合を見すぎてるのは昔からだから」


「それは偵察でしょ」


「最初はね」


カイは少し考える。


「君に分かってもらえてないと腹が立つって気づいたあたりで、だいぶ怪しいと思った」


昨日の帰り道が頭に戻る。


君なら分かってると思ってたから。


リゼは口元を押さえた。


「それで好きって思う?」


「君は試合見て思ったんでしょ」


「……同じか」


「たぶん」


「たぶん言うな」


カイがこちらを見る。


「じゃあ訂正する。好きだよ」


二回目の方が、ずっと困った。


リゼは前を向く。


「分かった」


「それだけ?」


「今はそれでいいの」


カイが小さく笑った。


正面の掲示板が目に入る。


一位、セラ。


二位、カイ。


四位、リゼ。


リゼはその数字を見たまま言う。


「で。好きでも、一位は一人でしょ」


「当然」


「王冠、渡さないから」


「僕も」


「手加減したら嫌いになる」


「しないよ」


返事が早かった。


それで十分だった。


少し間を置いて、今度はカイが聞く。


「好きだって確認して終わり?」


「何で」


「どうするのかなって」


リゼは瞬きをした。


「付き合えばいいでしょ」


「今?」


「何で待つの」


「決勝前だから?」


リゼは掲示板を指す。


「付き合っても、あれは一つ」


「そうだね」


「じゃあ付き合う?」


「うん」


リゼは立ち上がる。


「じゃあ明日、準々決勝落ちないでよ」


「付き合って最初の言葉がそれ?」


「他にある?」


カイも立つ。


「君も落ちないで」


「誰に言ってんの」


「彼女」


リゼの足が一瞬止まった。


「……それ、慣れるまで禁止」


「何で」


「今は無理」


カイが笑った。


リゼは先に階段を下りる。


手首の金色はまだある。


それより、背後の足音の方が気になった。

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