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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第三章「好きでも譲らない」

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13/20

二人分の実力

競技場前で配られていた紙を、リゼは三行読んで丸めた。


「何これ」


見出しだけは、やたら大きい。


『二人分の幸運は、二人分の実力なのか?』


丸めた紙をもう一度広げる。


共有しているのは競技外の幸運と不運。公式戦の白線内では新しい連動が抑えられる。ただし移動や抽選、練習環境まで含めれば、今季の順位を「完全に個人の実力だけ」と呼べるのか――。


そこまでは分かる。


問題は次だ。


『二人の成績そのものを疑問視する声もある』


「誰の声」


書いていない。


「便利」


「何が?」


後ろから来たカイへ紙を押しつける。


カイは立ったまま読み、見出しへ目を戻した。


「怒らないの?」


「どこに?」


「全部」


「全部は雑でしょ。競技外の運が一切影響してないとは言えない」


「私が言ってるのは成績のとこ」


「順位全体なら同じだよ。移動が止まれば出られない試合もある。君が僕の箱を持った日みたいに」


「じゃあ私があんたの順位作ったって?」


「言ってない」


カイは紙の後半を指で押さえた。


「白線の中で取った三枚まで運にされるなら、それは違う」


リゼは紙を取り返す。


「最初からそう言って」


「君、最初から怒ってたから」


競技場の入口には、すでに記者が何人か待っていた。


紙だけでは終わらなさそうだった。



終わらなかった。


午前の試合を終えたあと、通路で三人に囲まれる。


「オルディア選手。共有幸運について、一部で競技成績の個人性を疑問視する声があります」


「一部って誰」


記者の筆が一瞬止まった。


「観客や論評の中で――」


「質問は?」


「フェレス選手の今季成績を、完全に本人だけのものだと言えますか?」


リゼは少し考えた。


「馬車が時間通り来たとか、誰と当たったとか、そういうの全部までは知らない」


記者が頷きかける。


「では、やはり――」


「でも試合はあいつの」


遮った。


「この前の三対二。相手が防壁を壊しに来るの、一回わざと捨ててる。次に同じ強さで来たときだけ防壁を出さずに空振りさせて、その戻りを取った」


筆が止まる。


「……よく覚えていらっしゃいますね」


「見てたから」


「つまり、その判断は幸運ではないと」


「運で相手の癖を二回待てるなら、私が欲しい」


周りで少し笑いが起きた。


リゼは笑わない。


「気に入らないのはあいつだけど、やったことまで別のものに取られるのはもっと嫌」


「なるほど」


「あと、本人に言ったら調子乗るから最後のところは書かなくていい」


「そこも含めて記事になります」


リゼは丸めた紙を記者へ返した。



午後。


今度はカイが囲まれていた。


リゼは少し離れた給水台にいる。聞くつもりはない。ただ、声が聞こえる。


「フェレス選手。先日のオルディア選手との直接対決も、外的要因を無視できないという見方があります」


リゼの紙杯が止まる。


カイは少し間を置いた。


「試合を見ました?」


「もちろん」


「最後、僕が先に撃ったのは運じゃない」


記者が黙る。


「彼女が前へ来るたび撃つと思って待ってた。途中から撃たなくなって、下がれる場所がなくなった。僕が先に選んで、それを取られた」


「技術的な敗北だったと」


「僕の敗北です」


「オルディア選手の勝利でも?」


「同じことでしょ」


カイはそれ以上足さなかった。


リゼは紙杯を口へ運ぶ。


水はもうぬるかった。



「私にも聞きます?」


別の声が入った。


セラだった。


「さっきから二人の話ばかりなので」


記者が一斉に向く。


「今季、私は二人とも白線の中で負かしてます。オルディアには三対一。フェレスには三対二」


数字まで言わなくていい、とリゼは遠くで顔をしかめた。


「その二試合まで『二人の共有運が作った順位』に入れられると、私の取った護印が消えるので困ります」


記者の一人が笑う。


セラは真顔だった。


「首位争いへの不公平感は?」


「あるなら勝つ回数増やします」


それで終わりだった。


セラは記者の横を抜け、大掲示板で自分の名前を確認すると、そのまま次の対戦表へ視線を移した。



記者が散ったあと、カイが給水台へ来た。


「昨日の話、細かく言ったでしょ」


「君も僕の試合を細かく話してたけど」


「私は必要だったから」


「僕も」


カイは水を注いだ。


「二枚目のあと、一回捨てたやつ」


「何」


「覚えてたんだ」


「説明するのに必要だったから」


「そう」


短い返事だけ残して水を飲む。


リゼは向こうの掲示板を見る。


一番上は、まだセラ・ノーグ。


朝の見出しより、その名前の方がずっと目についた。

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