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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第三章「好きでも譲らない」

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12/20

運じゃない負け

二対ゼロ。


あと一枚。


今日の相手は、ここまで一度も前へ出てきていない。


受ける。逃がす。下がる。


白線際まで押しても、焦った顔を見せない。


だったら押し切る。


リゼは床を蹴った。


低い防壁。その上が空いている。


「そこ」


光を上へ通す。相手が身を沈めて避け、さらに一歩下がった。


白線まで、あと二歩。


右側が空く。


今度こそ。


踏み込んだ瞬間、足元に薄い防壁が立った。


「っ」


推進の残った靴底が斜めに滑る。体勢が開いたところへ短い光。


胸元で護印が砕けた。


二対一。


相手は何も言わず、また中央へ戻る。


リゼは足首の感覚を確かめた。痛くはない。ただ、さっきまで取れると思っていた一枚が急に遠くなった。



この試合は最終順位戦へ向けた大きな予選枠だ。


セラは午前に勝った。カイはこの後。


ここで落とす理由はない。


もう一度前へ出る。


今度は足元を見る。防壁はない。


右が空く。


入る。


相手は白線まであと一歩。


リゼが撃った。


光は相手ではなく、その少し手前へ落ちた。


「え」


一瞬、狙いがずれたように見えた。


違う。


相手がわざと外した。


気づいたときには正面から光が来ている。


防壁を出す。間に合った。


だが光は防壁へ当たる直前に床へ落ち、低く跳ねた。


脇腹。


二枚目の護印が砕ける。


二対二。


観客席が大きく沸く。


リゼは初めて距離を取った。


相手を見る。


さっきから、終わらせられそうな場所だけが綺麗に空いている。


右。上。白線際。


相手の口元が、ほんの少し上がった。


「……誘ってた?」


「やっと?」


その一言で、二枚取られたことより先に熱が上がった。


リゼは息を一つ吐き、構え直す。



今度は急がない。


一歩。


右が空く。


行かない。


左へ撃つ。逸らされる。


中央へ一発。相手が下がる。


白線まで三歩。二歩。一歩。


正面が空いた。


今なら取れる。


さっきも、そう思った。


リゼは一度止まった。


相手も動かない。


客席の音だけが遠く続く。


ここで待てばいい。


そう分かっている。


でも、本当に一拍遅れたら、今度こそ閉じるかもしれない。


足が先に出た。


相手の口元が上がる。


しまった、と思ったときには推進が乗っている。


リゼの光を、相手は防壁ではなく身体ごと横へ逃がした。


空いた横へ一歩。


短い光。


最後の護印が砕けた。


『勝者――』


名前が呼ばれる。


リゼではない。


二対三。


白線の内側では金色が沈んだままだった。


照明も落ちていない。


足元も壊れていない。


リゼは割れた護印を見てから、相手へ礼をした。



白線を出ると金色が戻る。


今日は、それを見ても何も起こらなかった。


給水台で水を飲んでいると、次の試合にカイの名前が呼ばれる。


リゼは帰らなかった。



カイは三対一で勝った。


派手な試合ではない。


一枚取られても急がず、相手が同じ角度から二度入ったところを、二度目だけ取った。


最後まで、待つべきところで待っていた。


リゼは紙杯の縁を親指で潰した。



試合後、カイが通路へ出てくる。


「いたんだ」


「いた」


「負けたね」


「二対ゼロからって言ったら水かける」


カイは一瞬止まった。


「言おうとしてた」


「顔で分かる」


水を受け取る。


リゼは黙った。


慰められたくはない。


ただ、何も言われず終わるのも違う。


「あるんでしょ」


「何が」


「言いたいこと」


カイは少し考えた。


「二枚目のあと」


「うん」


「勝ちに行ったんじゃなくて、早く終わらせに行った」


リゼがカイを見る。


「同じでしょ」


「違う。勝つだけなら、相手がまだ何を残してるか見てからでもいい」


「取れそうだった」


「だから三回とも、取れそうな場所を空けられた」


紙杯の潰れた縁が指に当たる。


言い返す言葉がない。


「今日勝ったからって偉そう」


「今日負けたからって話を変えないで」


リゼは睨んだ。


カイは水を飲む。


「もっと何かないの」


「何かって?」


大丈夫とか。惜しかったとか。次は勝てるとか。


頭に浮かべて、どれを言われても腹が立つと分かった。


「……ないならいい」


「そう」


カイは何も足さない。


リゼも残りの水を飲み干した。


「次は勝つ」


「僕も」


「ついでにあんたにも勝つ」


「それは僕が勝つ」


二つの空になった紙杯が、給水台へ並んだ。

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