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宿敵と運が繋がっても、王冠はひとつ  作者: 綴木 灯
第二章「お前は私が倒す」

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10/20

見なくてもいい試合

カイの試合は、最後まで見る必要がなかった。


今日の自分の公式戦は午前で終わっている。三対一で勝った。午後の練習場も空いている。


相手の記録も昨日までに見た。前へ出るふりが多く、本当に深く入るのは三回に一回くらい。


カイがどう処理するかも、だいたい想像がつく。


だから最初の一枚だけ。


そう決めて、リゼは観客席に座った。



鐘が鳴る。


相手は一歩出て右手を上げたが、撃たない。半歩横へ。


カイも動かない。


「ほら」


こういう相手を、カイは嫌がらない。決めるまで待てるからだ。


二度目の踏み込みで本当に光が来た。斜めの防壁で逸らす。反撃はしない。


「そこ取らないんだ」


取れたはずの戻り際を、一度捨てた。


三度目、相手はさっきより深く来る。


カイが半歩下がり、さらに追わせる。そこで足元に薄い防壁。


進路が斜めにずれた瞬間、短い光が入った。


一枚。


リゼは笑う。


一回分を捨てて、もっと大きい一歩を待った。


見たかったのはここまでだ。


席を立ち、階段を一段下りる。


その背中で歓声が上がった。


振り返る。


相手がカイの防壁を正面から割っていた。


「へえ」


一枚取られたわけではない。ただ、いつもの防壁を力で壊した。


相手は笑っている。


カイの顔は変わらない。


リゼは立ったまま、次の構えを見る。


それだけ。


次を見たら行く。



一対一になった。


今度は相手が、カイの逃げ先を先に取った。記録で見たより上手い。


リゼはいつの間にか座り直していた。


なら、カイも変える。


そこだけ見ればいい。



二対一。


カイが取った。


相手が防壁を壊す前提で強く撃ったところへ、今度は防壁そのものを出さない。空振りした横から一枚。


「それは読むよね」


もう十分。


今度こそ立ち上がり、入口まで行く。


そこでセラとすれ違った。


「帰るの?」


「練習」


「そう」


「セラは?」


「次の相手がこの後」


「偵察?」


「そう」


セラは競技場へ入っていく。


リゼは出口へ向いた。


外から午後の光が差している。


あと十歩。


背後で歓声。


足が止まる。


今の一枚で何が起きたかは、あとで記録を見れば分かる。


練習へ行った方がいい。


セラだって、自分に必要な試合を見に来ただけだ。


もう一度、歓声が上がった。


リゼは出口の明るさを数秒見たまま動かなかった。


それから踵を返す。



三対二。


最後まで見た。


最終盤、相手はもうカイの防壁を壊しにいかなかった。壊させるつもりで置いていると読んだからだ。


だから避ける。


カイは、その避け方を待っていた。


最後の護印が砕ける。


『勝者――カイ・フェレス!』


リゼは腕を組んだまま、長く息を吐いた。


勝った。


席を立つ。


今度こそ練習へ行く。



階段を下りたところで、競技者通路からカイが出てきた。


目が合う。


「……まだいたんだ」


「今帰るところ」


「最後まで?」


リゼは一瞬だけ詰まった。


「出口、混んでたから」


カイが後ろを見る。


観客はまだほとんど席にいる。


「そう」


それ以上言わない。


先に給水台へ歩いていく。


リゼはその背中へ何か言い返しかけて、やめた。


帰らなかったことだけは、もう見つかっている。


練習場へ向かう。


午後の枠は、かなり減っていた。

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