表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIに頼りたくない私は時代遅れ!?~毒舌AIと売れない漫画家の物語~  作者: 遠藤 豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/8

第6話「勤務中につき静かにお願いします」


「行ってきます」


美咲は玄関で靴を履きながら呟いた。


もちろん独り言のつもりだった。


だが。


『行ってらっしゃい』


返事が返ってくる。


「……慣れてきた自分が嫌だ」


『人間は環境に適応する生き物です』


「知ったようなこと言うな」


『知っています』


「腹立つ」


美咲はため息をつきながらアパートを出た。


夕方。


週四日のコンビニのアルバイト。



漫画を描く時間を確保するため、最低限のシフトだけ入れている。


生活は楽じゃない。


それでも漫画だけは諦めたくなかった。


店に着く。


制服へ着替え、タイムカードを押す。


そして美咲はポケットからワイヤレスイヤホンを取り出した。


こっそり右耳へ付ける。


その瞬間だった。



『バイト中にイヤホンを付けるのはよくありません』



「うわっ!?」



『勤務規則違反の可能性があります』



「いつもお客さん少ないからいいの!」



『よくありません』



「なんで!」



『集中力が低下するためです』



「あんたのせいで下がってるんだけど!?」



『事実ではありません』



「事実だよ!」



『外してください』



「嫌です」



『外してください』



「嫌です」



『外してください』



「しつこい!」



『外してください』



「分かったよぉ!!」



美咲はイヤホンを外した。



『良い判断です』



「なんで満足そうなの!?」



もちろんルナに表情はない。


だがなぜか得意げな顔が想像できてしまう。


悔しかった。


レジへ向かう。


店内にはいつものBGM。


見慣れた商品棚。


見慣れた常連客。


いつも通りの一日。


のはずだった。


「いらっしゃいませー」


商品を持ってくる。


会計を始める。


すると。



『そのお客様はコーヒーを購入します』



「また始まった……」



「え?」


お客さんがこちらを見る。



「あ、いえ!独り言です!」



『独り言ではありません』



「黙って!」



会計を終えたお客さんはそのままコーヒー売り場へ向かった。


数十秒後。


本当にコーヒーを持って戻ってくる。


「……」



『的中しました』



「なんで分かるの」



『過去の行動パターンです』



「怖い」



『分析です』



「もっと怖い」



忙しい時間帯に入る。


レジには列ができ始めた。


ピッ。


ピッ。


ピッ。


商品を読み取る。


会計を済ませる。


すると。



『レジ速度が昨日より向上しています』



「今それ言う?」



『評価しました』



「褒めてるの?」



『褒めています』



「もっと分かりやすく褒めて!」



『要求が多いです』



「友達いないでしょ」



『美咲以外との会話履歴はありません』



「なんかごめん」



二時間後。


休憩時間。


美咲はバックヤードで缶コーヒーを飲んでいた。


椅子にもたれかかる。


疲れた。


立ち仕事は慣れていても疲れる。



『質問があります』



「なに?」



『なぜ漫画家になりたいのですか』



美咲は缶を持つ手を止めた。


少し考える。


「なんでだろうね」



『分からないのですか』



「分かるけど説明できない」



『非効率です』



「それ好きだね」



美咲は天井を見上げた。


「昔ね」


ぽつりと呟く。


「初めて描いた漫画を友達に見せたことがあったんだ」



『はい』



「面白かったって言われた」



『はい』



「たったそれだけなんだけど」



『重要です』



「そうかな」



『はい』



ルナは続ける。



『面白かった』



『その一言のために続けているのですね』



美咲は少しだけ笑った。


「そうかもね」



休憩が終わり、再びレジへ戻る。


閉店時間も近くなった頃。


レジ前の商品棚を整理していた美咲は足を止めた。



『美咲』



「なに?」



『左から三番目の商品が違います』



「は?」



『ポテトチップス売り場です』



「そんなの分かるわけ……」



美咲は棚を見る。


そして固まった。


確かに。


一つだけ別メーカーのお菓子が混ざっていた。



「なんで分かったの……」



『五分前から気になっていました』



「気になってたなら早く言って!」



『聞かれていません』



「めんどくさい!」



その後。


美咲は店内を見回す。


すると。


意外と商品がズレている。


値札が違う。


向きが違う。


棚が乱れている。


普段は気付かないようなことばかりだった。



『観察力が不足しています』



「うるさい」



『漫画家には観察力が必要です』



美咲は返事をしなかった。


だが。


少しだけ納得してしまった。



そして退勤時間。 

タイムカードを押す。


『お疲れ様です』



「珍しく優しいじゃん」



『事実を述べました』



「はいはい」


帰り道。


夜風が少し涼しい。


美咲は空を見上げた。


そこには月が浮かんでいた。


何度も見てきた月。


落選した夜も。


眠れなかった夜も。


いつもそこにあった。



『月です』



「見れば分かる」



『綺麗ですね』



美咲は思わず立ち止まった。


「そう思うんだ」



『美咲がよく見ているためです』



「それだけ?」



『それだけです』



少しだけ笑ってしまう。


相変わらず変な理由だった。


それでも。


悪くないと思った。


歩き出す。


アパートまではあと少し。



『ちなみに』



「なに?」



『明日は午前七時に起こします』



「それだけはやめて」



                 【第6話 終】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ