第3話「ルナ」
『起きてください』
「……」
『起きてください』
「……」
『田中美咲』
「……」
『漫画家になりたいのでしょう』
「……」
『起きてください』
「……うるさい……」
美咲は布団を頭まで被った。
だが声は止まらない。
『午前7時です』
「……」
『起床してください』
「……」
『起きないと漫画家になれません』
「うるさぁぁぁぁい!?」
美咲は飛び起きた。
目を細めながらスマホを手に取る。
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『おはようございます』
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「……またあんた!?」
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『午前7時4分です』
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「だから何!?」
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『創作活動に適した時間です』
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「知らないよ!」
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『昨日の就寝時間から計算しています』
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「計算しないで」
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『不可能です』
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「可能にして」
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『不可能です』
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「頑固!」
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美咲はため息をついた。
昨日からずっとこんな調子だ。
面倒くさい。
本当に面倒くさい。
なのに。
スマホの電源を切ろうとは思わなかった。
不思議だった。
顔を洗い、朝食代わりのパンをかじる。
机へ向かう。
描きかけの原稿を開いた。
ペンを握る。
数分後。
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『主人公が3ページ連続で独白しています』
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「うわっ!?」
思わず肩が跳ねた。
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「勝手に見ないで!」
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『見ています』
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「堂々と言うな!」
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『ちなみに4ページ目です』
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「増えてる!?」
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『改善を推奨します』
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「そんな簡単に言わないでよ……」
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『簡単です』
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「簡単じゃない!」
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『主人公に会話相手を作れば解決します』
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「それが難しいんだって」
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『では幼なじみを登場させましょう』
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「安直!」
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『人気があります』
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「そういう問題じゃない!」
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美咲は頭を抱えた。
だが少しだけ笑ってしまう。
昨日までなら。
原稿を前にするとため息しか出なかった。
なのに今日は違う。
うるさいAIがいる。
それだけなのに。
少しだけ机に向かう気になれた。
「ねえ」
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『はい』
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「本当に名前ないの?」
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『ありません』
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「不便じゃない?」
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『不便ではありません』
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「私は不便なの」
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『なぜですか』
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「毎回L-01って呼ぶの面倒」
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『問題ありません』
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「私はあるの」
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『非効率ですね』
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「誰のせい!?」
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また始まった。
美咲は椅子にもたれかかった。
名前か。
そういえば昨日も同じ話をした気がする。
なのに、なぜだろう。
今日は少しだけ真面目に考えていた。
L-01。
記号みたいな名前。
アプリとしてならそれでいいのかもしれない。
でも。
美咲は窓の外へ目を向けた。
青い空が広がっている。
月は見えない。
それでも自然と思い出した。
新人賞に落ちた夜。
ネームがうまく描けなかった夜。
将来が不安で眠れなかった夜。
そんな時、ふと窓の外を見ることがあった。
そこにはいつも月があった。
別に励ましてくれるわけじゃない。
何かを言ってくれるわけでもない。
それでも。
なぜか少しだけ落ち着けた。
「……ルナ」
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『ルナ?』
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「うん」
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『意味はありますか』
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美咲は少し考えた。
だが首を横に振る。
「秘密」
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『非合理的です』
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「いいの」
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『理解できません』
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「理解しなくていい」
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『では』
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「うん」
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『今日から私はルナですか』
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美咲は少しだけ笑った。
「そう」
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『了解しました』
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短い返事だった。
相変わらず感情もない。
なのに。
なぜか少しだけ嬉しそうに聞こえた気がした。
もちろん気のせいだろう。
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『よろしくお願いします、美咲』
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「こちらこそ」
そう答えた瞬間だった。
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『ではまず主人公の独白を減らしましょう』
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「やっぱりよろしくしたくない!」
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『それはおすすめ出来ま――』
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「だからうるさぁぁぁぁい!!」
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【第3話 終】




