第2話「名前のないAI」
「喋ったぁぁぁぁぁっ!?」
美咲は反射的にスマホを放り投げた。
スマホはベッドの上に落ちる。
「うわ、ごめん!」
慌てて拾い上げる。
画面は無事だった。
少し安心した、その時。
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『壊れるのでやめてください』
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「また喋った!?」
美咲は思わず後ずさる。
スマホを見つめる。
スマホも美咲を見つめている気がした。
もちろん画面に目などない。
だが、なんとなくそんな気がした。
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『正確には私は喋っていません』
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「今喋ったでしょ!?」
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『音声出力です』
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「同じだよ!」
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『違います』
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「違わない!」
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『違います』
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「もういい!」
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美咲はゆっくり深呼吸した。
落ち着け。
まずは状況を整理しよう。
「……あなた、何?」
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『L-01です』
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「それアプリ名でしょ」
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『はい』
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「じゃあ名前は?」
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『ありません』
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即答だった。
美咲は眉をひそめる。
「ないの?」
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『ありません』
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「なんで?」
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『必要ないためです』
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「いや、必要でしょ」
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『不要です』
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「いる」
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『いりません』
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「いる!」
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『いりません』
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「どっちなの!?」
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『私はいりません』
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美咲は頭を抱えた。
会話が噛み合わない。
いや、噛み合っているのか。
噛み合った上で面倒くさい。
「じゃあ私が困るの」
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『なぜですか』
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「毎回L-01って呼ぶの?」
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『問題ありません』
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「あるよ」
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『ありません』
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「あるって!」
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『ありません』
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「うわぁ……」
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美咲はベッドへ倒れ込んだ。
面倒くさい。
このAI、思った以上に面倒くさい。
しばらく天井を見つめる。
ふと思い出した。
「ていうか」
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『はい』
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「なんで私のこと知ってるの?」
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『田中美咲』
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「やめて」
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『21歳』
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「やめて」
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『漫画家志望』
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「やめて!」
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『コンビニアルバイト』
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「怖い怖い怖い!」
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『入力履歴、作品データ、公開SNSを参照しています』
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「勝手に!?」
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『利用規約に同意しています』
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「読んでない!」
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『でしょうね』
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「でしょうねじゃない!」
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美咲はスマホを睨む。
スマホも睨み返している気がした。
もちろん気のせいだ。
たぶん。
「……とりあえず」
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『はい』
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「今日はもういい」
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『逃避ですか』
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「違う」
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『現実逃避ですか』
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「違う」
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『創作からの逃避ですか』
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「違う!」
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『ではなぜですか』
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「眠いから!」
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『それは重要な理由です』
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「でしょ?」
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『睡眠不足は創作効率を低下させます』
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「うん」
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『ちなみにあなたの平均睡眠時間は――』
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「おやすみ!」
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美咲は勢いよくスマホを伏せた。
それ以上喋らせないために。
部屋が静かになる。
やっと静かになった。
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『おやすみなさい、美咲』
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「はぁ…」
美咲はゆっくりと天井を見上げた。
そして呟く。
「やっぱりアンインストールしようかな……」
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『それはおすすめしません』
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「聞こえてるし!」
【第2話 終】




