火の国の第三王子
火の国の街にも行ってみたくなった。姫の部屋にて、フランに聞いてみる事にした。
「フラン。街の方に行ってもいいかな?」
「あまり反対言葉言いたくはありませんけど、危ないですよ。確かに姫様が行けば民のみんなは喜びますけど、でも大勢の民衆の中に暗殺者がいたらどうしますか」
「……それもそうか」
確かに暗殺者の警戒を考えると、大勢の前に出るというのは危ない。
あれ?でもじゃあなんで……いや、あっちの事はあっちで解決するしかできない。こっちではしっかりとこれからの事を考えて、まずは現状把握のため色々見ておきたい。
「ダメかな?」
「ダメではありませんけど……あ! でしたらガルム殿下に頼んでみましょう。殿下なら首都の防備を任されていて、街の情勢に詳しいはずですから安全かどうかわかるはず」
ガルムとはレオナにとっての三番目の兄だ。
兄の長男、次男、三男、四男と弟の五男がいて、男兄弟が5人。
長女、次女、三女の姉が3人。
レオナを入れて9人兄弟だ。やっぱり王族ともなると兄弟が多い。
「フランはわからないの?」
「確かに私は平民の出ですし、情報源となる筋もそれなりにありますけど、城にいる時間が長く最近の情勢に関してわからないです。慎重になるならここはやっぱり詳しい方に聞くのが一番かと」
「そうだね。それじゃあ、緊張するけどガルム兄様に会いに行こう」
「はい。ではそのまま街に行くかも知れませんし、着替えてから行きましょう!」
外行き用のドレスに着替えさせられる。
やっぱりスカートが短い。
「い、いいのこんな短くて」
「歩き方に気をつければ大丈夫ですよ。可愛いです」
「あ、ありがとう」
着替えてから俺とフランはガルムがいる城内の詰所に向かった。ガルムは普段から兵士たちとの交流を大事にしていて、信頼も厚い。だからこそ防備を任されたのだろう。
「ガルム殿下。レオナ姫様が街に遊びに行きたいと申されておりまして」
「ん? ルビーが見張ってればいいんじゃないのか?」
ガルムと兵士たちは、姫護衛騎士のフランのことをルビーと呼んでいる。
「いざとなったらレオナには炎の魔法があるんだし」
詰所で兵士たちと談話会を開いていたガルムは、フランからの申し出に不思議そうな顔を浮かべて、何でもないように言った。
「しかしそれでは危ないかと」
「そうかぁ? レオナは腕っぷしも強いから大丈夫だと思うが……」
レオナのことを信頼しているからこその慢心的な言葉が出てくるのだろう。サラサラとした自分の黒髪を撫でながらガルムは考え直した。
「うーん、まあでもそうか。何かあってからでは遅いか。わかった、なら10人……いや30人の護衛をつけよう」
「そ、そんなに必要ないですよ」
「違う違う。守る目的のためだけじゃなくて、レオナが襲われて反撃した時、周りへの被害を最小限に抑えるための人員だ。炎なんてどっかに燃え移ったら一気に大火事だ」
確かに炎とは怖いものだ。どんなチカラなのかと気になって、“ライオンハート”の試し撃ちをしたかったが、炎を放つと言うのは周囲に気をつけないと火事になってしまう恐れがある。だからまともに試すことはできなかった。
でも炎を出すと言うのがどれだけ強くて、破壊力があるかは頭で理解できた。
レオナに対抗できるのはやはりイザベルしかいない。
「それと俺もついて行くか。すぐ隣に俺がいれば、レオナも炎を出すことを躊躇うだろう。制御の役割ができるはずだ」
「兄上が自ら?」
「特別なチカラがない、正室の子供でもない、後継者候補にもならない王子の役割なんて、こんなもんさ」
「そんな風に言わなくても……」
「いやいや、悲観ではねぇよ。死に場所を選べるだけまだマシなほうだ。ほら行くぞ」
強い力で背中を押されて詰所から出される。そしてそのままの流れでガルムと、護衛のための兵士たちが俺の周りを囲むようについて来る。
ガルムはかなりリアリストのように思えた。現実を冷静にみていて、それでいて兵士達からの人気もあって、王様に相応しいのではないのかとさえ思う。
けど俺以上に現実を見ているガルムの視点は違うのだろう。彼は跡継ぎになるのを最初から諦めていて、だからこそこうして自由に兵士たちとも仲良くできているのだ。
(同じ第三王子って立場でも、国が違えばまるで性格や言動が違うんだな。まあ違う人間なんだから当たり前か)
……違って当たり前。
もし片方の国にだけ所属していたら、その違いに気づくことなく戦いに身を投じて、敵だからと頭ごなしに否定していたのかも知れない。傷つけることになんの躊躇いも持たなかったかも。
俺は普通の高校生だ、周りの空気に流される時は簡単に流される。だからこうして両者の視点を見れるのは、どちらかに傾倒して一辺倒な考え方にならないから良いのかも知れない。
ただ問題なのは———どちらも味方だから、敵だと思いたくない点かな。
できれば戦いたくない。




