水の国の第三王子
「戦争……か」
姫の部屋に戻って来ていた。日光に照らされてキラキラと輝く海を眺めながら、これからのことについて考える。
「俺の持つチカラ……」
ホエールハートは体の中に入っている。何も語らない。
さっき城の下にある海辺に行って、このチカラを試してみた。海が俺の意思によって自由自在に動き、さらに宝石から滝と同じ勢いと水圧をうち飛ばすことができた。
その威力は岩石を豆腐のように簡単に粉々にできるほどのもの。
「確かにライオンハートに対抗できるのは、イザベルのホエールハートしかない……もし、レオナが戦争に出て来たら……必ず、イザベルも出ていく事になる」
「ひーめさまっ!」
「わあっ!」
考えごとをしている所にリップルが当然声をかけて来た。
意表を突かれて、隙ありと言わんばかりにほっぺにキスされた。
「王子様が来られました。姫様をデートに誘いたいって」
「で、でで、デート⁉︎」
「もちろん私も護衛でついて行きますから二人きりってワケではありませんけど」
王子とは俺の、イザベルの兄弟のことだ。上に長男、次男、三男の兄がおり、下に一人弟がいる。
それから姉が二人いる。
「お、お兄様が?」
「はい! エギル殿下です」
三番目の兄だ。
腹違いの異母兄。
リップルが部屋の扉を開けると、癖っ毛が目立つ黒髪の青年が入って来た。
「よっ! イザベル〜、ヒマか?」
この国の人たちはみんなフランクなのだろうか。
俺の顔を見るや否やパァッと花咲く笑顔で近寄って来ると、俺の手の甲にキスを落とした。その後すぐに頭を撫でられる。
割と乱暴に。
「もー、エギル殿下! 女の子の髪をそんなわしゃわしゃしちゃダメですよー」
「あ、悪い悪い。ごめんなイザベル」
「い、いえ……」
「さあデートですよね! ちゃーんとお洋服の準備はできてます!」
外行き用のドレスを引っ張り出して来たリップルを横目に、俺は兄に聞く。
「あの、どこに行くんですか?」
「街しか行くとこないだろ。あの一本橋を渡ってな」
窓から城と街を繋ぐ橋を指差す。
「それとも海に出るか? お前の船の“オアシス”で」
「いえ船は……街に行きましょう。それよりも」
なぜ急に出かけようなんて言って来たのだろう。リップルがものすごくノリノリなのも気になる。
「どうして外に?」
「そりゃあお前」
さっき橋を指差した時のまま、窓に身を寄せて城下に広がる海原と街を眺める。潮風が彼の髪を撫でた。
「もし兄上に何かあれば、跡継ぎはホエールハートを持つお前になるからな」
「へ? あ、跡継ぎ……?」
「当然だろ? まあ兄上に何かあるなんて思いたくないが、考えなきゃいけないだろ。国の王の後継者をな」
エギルが話している“兄上”とは長男のことだ。王様が即位した場合、跡継ぎは当然長男の第一王子となる。
「今は戦争中。いつ誰が死ぬかわからない状況だ、兄上が死ぬって可能性も考慮しなきゃならない。そうなると後継候補第二位のイザベルは、知らなきゃいけない」
「知る……?」
「この国のことをな。まー! お前は民から人気あるし今更かも知れねーがな! ガッハッハ!」
綺麗な顔で大口開けてバカ笑いしながら部屋から出て行った。
リップルに着替えさせてもらっているあいだ、エギルの言葉をずっと考えていた。
「って! す、スカート短くない⁉︎」
太ももの真ん中よりも上までの丈で、もはや風を防ぐ役目は果たせていない。窓からの風だけで何度も捲れ上がって下着が見え隠れしている。
「見せパンツを履くから大丈夫ですよ! あまり長いスカートだと湿気で蒸れちゃいます」
「だ、だからって短すぎるような……」
下腹部に張り付くパンツを穿かされて、キュッと腰回りが引き締まる。
「ささ、表でエギル殿下が待っておられますよ!」
でも長ったらしいドレスよりかは歩きやすい。ついついガニ股で歩いてしまって、リップルから注意された。
正門前の一本橋に行くと馬車と共にエギルが待っていた。
「いいか? イザベルは俺の後に乗れ。最近はレディーファーストなんて流行ってるが、あんなもん悪習だ。兄貴が妹の先陣を切らずしてなんとするかー、ってな! あはははは!」
エギルが笑いながら乗り込んでいく。
「ば、馬車に乗るの?」
「はいっ! その方が安全ですし、橋を歩き続けるのは疲れちゃいますから」
納得して乗り込み、すぐ後ろからリップルも乗った。彼女は背中に槍を担いでいて乗り込む時には縦に手に持ち替えた。
奥にエギル、真ん中に俺、入り口に一番近い所にリップルが座る。
馬車に揺られることほんの数分。
「ほら、見てみろイザベル」
エギルに窓の外を見せてもらった。
姫の部屋から眺めた時も思ったが、やっぱり城の周りを囲む海原はキラキラしていて美しい。
「お前はこの国を守るチカラがある。お父様はお前に戦争に行かなくていいとなんども言っているが、俺はそうは思わない。いずれ行ってしまう時が来るはずだ」
「……私も、そう考えてました」
「本当なら“火の国”と和睦を結んで同盟を組むことができれば万々歳なんだが………———そうもいかないだろうな」
「……」
「おっと、そろそろ着くぞ。まずは街の広場に出てお前が来たことを街のみんなに知らせよう。お前はとびっきり人気者だからな、来たとわかればみんな喜ぶぞー!」
「は、はい」
大勢の前に出るなんて慣れていなかったが、しかし実際民衆の前に姿を見せればたちまち大騒ぎ歓喜歓声の大渦。
老若男女問わず全員から喜ばれた。
ぎこちなく手をちょっと振るだけで、さらに騒ぎは大きくなった。
(イザベルが人気者って本当なんだな……本当は俺のことじゃないのに、喜ばれるのはなんか嬉しい)




