24 o'clock Cinderella
レオナが目を覚ましたのは、イザベルが起きてから少し後だった。意識と感覚が接続され、共有する。
やはりと言うべきか、レオナの目の前にはこちらを敵視する姉のブルーの姿があった。体が火照っている。すでにイザベルがやられたように、媚薬入り液体を飲まされているらしい。
格好も赤いレース下着姿。
そっくり同じ対応だった。
「ふーん、プロポーションはイザベルとそっくりね」
「んっ……!」
胸の露出した部分を指先で撫でられて、思わず声を上げてしまう。
体がさらに熱くなる。
ブルーは両手で俺の顔を包み込むと、右、左と揺らす。
「あなたを殺さない理由、わかるわよね。あなたが死ねば同じチカラを持つイザベルが、向こうで死んでしまう。だからこうして私の屋敷の部屋に軟禁するの」
ぐら、ぐら、と船が海上で浮かぶ様子のように頭が揺らされて、徐々に酔いが来た。
脳まで繋がる血流が乱されて、飲まされた媚薬が身体中を不規則に染み渡る。
き、気持ち、悪い……吐きそうだ。
「大事な妹なのよ、私たちの。一番悲しんでるのが誰かわかる⁉︎ エギルよ! エギルが一番、あの子のことを守ろうとしていた! リップルやお母様以上の悲しみを抱えながら……母親のことをずっと気にかけ続けて……涙を流さずに、必死に堪えながらイザベルを敵国から救い出す方法を考えてる!」
ブルーの怒り。
自分自身の怒りもあるが、同時に兄弟たちとリップルの怒りも一緒に吐き出される。彼女は家族思いで優しい。それが敵意として今の俺に注がれている。
「ブルー殿下。そこまでにしましょう」
静かで、冷たいリップルが俺の頭を揺らし続けるブルーの手を止めた。
ブルーは眉間にシワを寄せたまま、部屋から退出した。
「……どうすればよかったの。私は姫様のためならなんだってやる覚悟でいた。それなのに、あの時私はイザベル姫を助けに行かなかった……私は……」
ぶつぶつと、リップルが俺の目の前で悔しい想いを吐露していた。複雑だろう。戸惑いもあるはずだ。それを引き起こしたのは他ならぬ俺だ。
さっきイザベルの目で見て記憶した、悲しそうなフランの表情を思い出す。
「……ねぇ、あなた、名前なんて言うの?」
知っているが、別人だから聞く。
リップルはゆっくりと顔を上げて、やつれた顔を見せて来た。その顔に思わず息を呑む。
「……サファイア」
距離がある。
親しい者に呼ばせる『リップル』ではなく、兵士や軍に所属する者達が呼ぶ『サファイア』を教えて来た。
「……そうだ」
話しかけたはいいものの、何を話すかは決めてなかった。
そこで思いついた。
イザベルだった時は知り合いだと言う前提があったためリップルに対して深い過去などは聞かなかった。聞けば怪しまれるから。
けれど今の俺はレオナとして接している。だったら聞けるかもしれない。
「こちらの姫とは、どんな出会いをしたの?」
「え?」
突然、意表を突かれた質問を聞かれ、リップルが首を傾げる。
「私も向こうにあなたと似た大事な相棒がいるの。ならこちらの姫は、あなたとはどんな出会いをしたのか気になって」
「……なんで、そんなに余裕なの?」
「え?」
「つ、捕まってるのよ⁉︎ 私は捕まえた張本人よっ⁉︎ な、なのになんでそんな余裕で……」
「———私がアポロン王の娘、レオナ・ヘスティア・アポロンだから」
「……っ!」
リップルが息を呑む。
俺も自分で驚くほど、ハッキリと言えた。
「誇り高き父の娘だから、キモが据わってるってところかな。それで教えてくれないの?」
「……敵国の姫に、話すことはないですから」
それだけ言い残してリップルは背を向けて退室した。入れ替わりでブルーが戻って来て、また体を撫でられる。
精神を疲れさせて、宝玉を使わせないためだ。
俺は黙ってそれを受け入れ、耐えながらも目的の人物の登場を待った。




