逆転姫
防衛拠点に飛び込んできたレオナと、来ることを知って待ち構えていたイザベルが宝玉を使って魔法を放つ。
ぶつかり合う火と水。
真っ向からの撃ち合いは、水流を打ち出す“ホエールハート”に軍配が上がった。
レオナの体を動かし、ポラリスから飛び降りて、水流を躱しながら横に飛ぶ。火の玉を作っていくつも飛ばしていく。
それらをイザベルの体を使って撃ち落として行く。
(……フランはまだ正面の防衛部隊を抜け切れていない)
さっきレオナの炎で崩壊させた兵士たち。俺が拠点内に入ってすぐに、体勢を立て直して後続のフラン達を止めている。
さらに内部では防衛部隊の隊長が、中の兵士達を動かしてレオナを取り囲もうとしている。
「はああーー!」
叫んで炎を出し、レオナとイザベルの周囲を燃やす。炎によって誰も俺に近づいて来られないように。
炎のリング。
その真ん中で二人の体を動かし、炎の球と、水流ビームを打ち合う。当然向こうの俺に当たらないように、しかし周りから戦っているように見えるように。
「姫様!」
「フラン! 来たか!」
やっとフランが切り抜けて来てくれた。リップルがいる位置とは対角線の位置関係にある。
「フラン! 逃げる準備をして! 目の前の姫を捕まえてすぐさまこの場から逃れるため!」
「リップル! 守って逃げられる布陣をお願い! 目の前の姫を捕まえたら、すぐに港町まで戻るため!」
「「はい! 了解しました!」」
行軍中に相棒達には作戦を教えている。
だから俺の指示を聞いてすぐに準備に取り掛かってくれた。しかし疑問を抱いたのは“火の国”の隊長と、“水の国”の隊長。
「ん? なぜ、向こうの作戦と同じなんだ……?」
「どういうことだ? 作戦会議ではイザベル様もサファイア殿も、ここで姫同士の勝負に勝つことだけを目標にすることに賛成していたのに……」
両軍の頭のキレる隊長達から怪しまれている。要所要所から香る、不自然さに。
流石、要地攻めと守りを任される軍隊長達だ。イクサの中にある不純物のような、不自然な動作を見落とさない。
彼らが怪しんで軍の動きが鈍くなり、フランとリップルの準備が遅くなっている。
(だったら本気でやるしかない……疑われない、紛うことなき真剣な戦いを)
大きな炎と、大きな水の膜を作り出してぶつけ合う。
水分が蒸発し白い蒸気煙が吹き荒れる。念じ、念じ、強く念じ、頭が痛くなるほど念じて魔法を使用。ぶつかり合う凄まじい威力の魔法同士。
「はあっ、はっ、はあっ……!」
「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜっ……!」
互いに出し切った感を出す。
汗を流し、息を切らし、体が疲れによって痺れて震える。実はまだやれるが、ここで疲れた様子を見せつけることで後がないことを示す。
「「姫様!」」
姫護衛騎士達の悲鳴。
彼女達の声が、俺の必死の演技がうまくいっている事を証明してくれていた。
「はあ、はあ……」
「ふぅ、ふぅ……」
「「———ヨシ」」
誰も寄り付けない炎のリング。
そこで俺は二人の体で、殴り合いを始めた。
思いっきり殴り飛ばした。同時に放った拳が交差し、クロスカウンターによって互いの頬に拳が突き刺さる。
れ、レオナのパンチの方が強い……そう言えば前にガルムが『レオナは腕っぷしが強い』と言っていたな。魔法の勢いはイザベルに軍配が上がるが、殴り合いだとレオナに軍配が上がるらしい。
「ぐあっ!」
どっちの悲鳴かわからない。
殴って殴って殴って。
「かはっ!」
蹴って蹴って蹴って。
腹も、脚も、頭にもアザが出来て。
「らあああーー!!」
拳を避けたイザベルの回し蹴りを頭部に受けて、ふらつく。その体を力づくで動かして、レオナがタックルをくらわし押し倒す。
上からレオナの拳を顔面に何度も振り下す。
下からガードしながら拳を避けて、アゴめがけてカウンターを食らわせる。
どちらも本気で殴り合った。
(これは戦争に何も出来ない“俺”への自戒……と、同時に……俺をこんな世界に縛り付けた“姫達”への憂さ晴らし)
周りに視線を少しだけ向ければ、フランも、リップルも、両軍の隊長も兵士たちも、俺の殴り合いを見届けるため動きを止めて、しっかり見つめていた。
動かず、叫ばず、目を逸らさず。
……俺のやってることが、そこまで重要に見えている。そういう立場にいる。その立場から俺は抜け出すために、ここに来た!
「「あああーー!!」」
イザベルがレオナを突き飛ばす形で、二人の体を離れさせる。そして両者立ち上がり、魔法を使う。
互いに綺麗な顔や肌、衣服がボロボロ。
さっき出し切った感を出した。
すなわちこの衝突が最後だと、全員察したはずだ。
(……特訓の、成果を……!)
風呂の湯を爆発させたチカラ。
海を爆発させたチカラ。
その二つの衝突が二人の体の真ん中で起こり、結果———二人の姫の体が後方に吹っ飛ぶ。
レオナはリップルの元へ。
イザベルはフランの元へ。
飛ばされた。
「「———え———!?」」
飛んできた姫の体を受け止めた二人は心底驚いている。驚くのも無理はない、なぜなら敵国の姫が自分の所に来て、同時に、自分の守るべき姫が向こう側に飛ばされたのだから。
傷と、魔法の使いすぎによって俺の意識はもう眠ろうとしている。その虚な視界でしっかりと、狙い通りの展開になっていることに笑みを浮かべる。
そしてさらに両軍の隊長の声が届いて来て、安堵する。
「ルビー殿! シンガリは我々がします! あなたは“水の国”の姫を連れて王城へ退却を!」
「サファイア殿! 退路は我々が死守します! あなたは自国まで“火の国”の姫を送り届けてください!」
「「この先の時代を左右する運命の分かれ道です! 選択をお間違えなきよう!!」」
二人の姫護衛騎士は、二人の隊長から受け取った指示を飲み込む。本当は向こう側に捕まった自分の姫を助けたい。
しかし自分の腕の中にある姫が、重要だというのもわかっている。
フランは。
リップルは。
悩んだ。悩んで、決心して、踵を返す。本来守るはずの姫に背を向けて、相手の姫を守るように抱え込んだまま帰路に向かう。
俺の意識はもうとっくに、隊長の声が聞こえて来たところで眠り込んでいた。目を開けた時、どんな光景が待っているか予測しながら———




