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犬牙双勢

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 首都から兵士たちを引き連れて、ポラリスに乗って戦地に向かう途中だった。木の多い道を通っていると、突然目の前にツタが垂れ下がってきて、走っている勢いのまま首にツタが引っかかった。


「ぐ、えぇっ!」


 く、首が絞まる。ポラリスの背から体が浮く。

 走る勢いを止められずそのままポラリスは先に進むが、俺がツタに連れて行かれたのに気づいて止まろうとして……後ろに続く騎馬に邪魔されて止まれなかった。

 ツタは俺の体を引っ張り上げて、木の上に連れて行く。


「姫様ッッ!!」


 すぐにフランが踵を返そうとするが、彼女もやはり後ろから来る騎馬に邪魔されていた。

 瞬間、ポラリスが吠えた。

 すると馬が全員その叫びに驚いて足を止めた。行軍が、先頭の巨馬の一声によって止まる。

 すぐさまフランが間を抜けて俺の真下まで来る。


「よお、忘れられて寂しかったぜ? 姫様」


 頭上、木の葉が生い茂る影の中にそいつはいた。陽の光が彼の被る甲冑兜に当たって光沢を光らせる。


(は、ハウンドフェイス……!!)


 暗殺者!

 いつ来るのかと警戒していたが、まさかこの大事な時に現れるとは……!

 木の枝から吊り下がるツタに首が巻きつけられ、締め付けられる。足場がなく吊り下がっている俺の体の体重が締め付けをさらにキツくしていく。

 こ、このままでは……!


△▼△▼△▼△▼

 イザベル側にも現れていた。

 島から大陸に向けて艦隊を作り、海上を渡航中のことだった。その時海が少し荒れていて慎重な航行をしていた。ゆっくりと動いていた所を狙われた。


「なんだ、この音?」


 パシャパシャと海面から不思議な音が聞こえた。すぐにオアシスに同乗するリップルが様子を確認した。

 船のヘリから海面を覗いた彼女は、驚いた声を上げた。


「え! こ、これは」


「どうしたの?」


「魚が死んでいます。それも沢山、血を流して海面上に浮いてます」


「ど、どういうこと?」


「姫様は近寄らないでください!」


 気になって首を伸ばしたが、すぐにリップルに遠ざけられた。だが見えた。

 リップルの言う通り海面に何匹もの魚が浮いていて、血が広がっていた。


「何が……———」


「———へい、彼女」


 短い声。

 振り返る暇もなく、背後から海の中より手が伸びてきて、俺を海に引き摺り込んだ。

 リップルが見ていた方とは逆側から来たため、リップルの助けはない。あの魚の死体はリップルを引き付けつつ、俺を逆側に誘き寄せるためだったのか。

 首を動かす暇もなく、全身羽交締めにされ首を締め上げられる。


(か、は……!)


 海面に当たる日光がわずかだが顔のすぐそばにある甲冑兜を光らせた。

 ハウンドフェイスだ。

 い、息ができない、身動きも取れないから振り解けない。どんどん底に沈んでいく。

 上の方からリップルが飛び込んだ音が聞こえた。ちゃんと服を脱いで下着姿で、沈む俺と暗殺者を追いかけてくる。


(浮力に逆らって潜るリップルよりも、二人分の重さと兜の重さで沈む方が速い……! り、リップルは間に合わない……!)


 どんどん首が絞められて、息ができない海の底で俺は意識を失いかけていた。


△▼△▼△▼△▼

 レオナ側。

 双方危機的状況になり、もがくことしかできない。頭上からハウンドフェイスの声が降ってくる。


「あの馬は天才だぜ? 今日に至るまで何回もアイツにちょっかいかけて調べたが、頭が良すぎる。だが木の上までは来られないだろ」


(こ、こいつ、ポラリスを警戒して木の上に俺を吊り上げたのか……!)


 馬は木を登れない。

 そしてイザベル側でも、船であるオアシスは沈むことはできない。だから海底に引き摺り込んだのだ。

 どちらも馬や船の能力を警戒しての奇襲だった。


「そしてお前は火の魔法を使えないだろ? なぜなら木の多いここで火なんて出したら、周囲が一気に燃える。下でワタついてるアイツらも一緒にお陀仏、助かったとしても馬達が火に怯えて行軍に支障が出る」


(ま、魔法の方もいっぺんに攻略してきたか……!)


 となるとイザベル側は、海の中で水の魔法を操ってしまえば、海流を乱して海上に並ぶ艦隊に影響が出てしまうから使えないだろうと踏んだのか。

 悔しいことに俺は魔法を使うのを躊躇っている。思い通りになってしまっている。だが早く首を締め付けるものをどうにかしないと、このまま窒息して死んでしまう。


「お?」


 ドスン!と木が揺れた。ハウンドフェイスが驚いた声を上げる。

 下を見ればポラリスが木に体当たりしていた。何度もタックルして木を薙ぎ倒そうとしている。


「やっぱいい馬だなアイツ。だが甘いぜ」


 ハウンドフェイスは自分の後ろから何かを取り出し、バッと広げて見せると、それをポラリスめがけて落とした。

 ちょうど木に体当たりした直後だったため避けられなかった。ポラリスはハウンドフェイスの落とした“網”を被って身動きが取れなくなってしまう。


(ぽ、ポラリス……!)


「か、硬い……!」


 ポラリスを助けるためにフランが網を剣で切ろうとするが、がっしりと結ばれた網はなかなか切れなかった。ノコギリのように少しずつ削って行くが、遅い。

 他の兵士達も手伝うものの、時間がかかっている。フランは網のことを兵士に任せて、自分は木を登ろうとする。


「ま、待て……ふ、らん……」


「人の心配している場合か?」


 ポラリス対策をいくつも用意していたんだ。必ずフランに対しても対策を持ってきているはずだと思い、登ろうとするフランを止めたかった。

 だが首が絞められていて声が出なかった。


「きゃあ!」


 登る途中で手を滑らせてフランは落ちてしまう。


「こ、これは、油……! 匂いからして……樹脂が木の表面にべったりと……!」


 フランは自分の手についたものを見て絶望する。

 油が塗られていて登ろうとすると手が滑ってしまう。

 やはりフランのこともちゃんと対策していた。


「ルビー殿! こうなったら弓矢でツタを……!」


「ダメ! もし姫様に当たったら……!」


 フランのことをルビー殿と呼び、兵士の一人が帳尻に矢をつがえながら提案するが、フランはそれを却下した。

 そしてフランが叫ぶ。


「姫様! 炎を使ってください!」


(な、なんだって……でも、そしたら……)


「私たちは姫様の兵! 姫様が第一! 火に巻かれて死のうが姫様が助かれば使命を果たせるのです!」


 他の兵士たちも頷いている。

 そ、そんなことできるわけが……ないだろう!

 みんなを犠牲にして助かって、何の意味があるってんだ……!


「ぐ……ぐ、う………!」


「今日に至るまで魔法の特訓してたよなぁ、だがそれも無駄になるんだ。残念なことになぁ」


 ハウンドフェイスの言葉が耳に届いて、はっ、と気づく。彼はなんの気無しに言葉をこぼしただけだろう。だが俺はその言葉で閃いた。

 そうだ、特訓の成果を見せる時。

 フランも、ポラリスも、兵士たちもみんなを巻き込まないように魔法の炎を巧みに操ればいいんだ!!


「おおおおおお!!!」


「お? 使うのか?」


 手を広げて“ライオンハート”を出す。

 頭上から聞こえる余裕な声。


「へっ。なら見せてもらうぜ、お前の今の実力を」


 ハウンドフェイスが姿を消した。

 取り逃したが、今はそれどころではない。すぐに首に巻きつくツタを取り除かなければならない。


(火を操り、他の木に燃え移らないように、ツタだけを焼却する!)


 指先でツタに触り、燃やす。燃え広がって木に行くまで、炎を消した。


「で、でき、た……!」


 首を拘束していたツタが無くなり、体が空中に投げ出される。真下にいたポラリスの網も、離れた位置から炎を発火させて同じ要領で燃やした。

 ポラリスに燃え移らないように丁寧に。

 そして解放したポラリスが落ちてきた俺を背中でキャッチしてくれた。


「姫様ぁ! よ、よかった……よかった!」


 駆け寄ってくるフランと兵士たちを見て、落ち着く。さて向こうもなんとかしなくては。


△▼△▼△▼△▼


(海上の艦隊も、リップルも巻き込まない海流を作り出す!)


 “ホエールハート”を体から取り出す。

 そして俺を中心に半径3メートル範囲に球体を作るように、ぐるぐると左右上下に巡る海流を作り出す。そしてその海流から帯状に新しい流れを作り出して、俺を拘束するハウンドフェイスめがけてぶつける。

 躱すためにすぐにハウンドフェイスは拘束を解いた。


(逃がさない!)


 追いかけて海流をぶつけようとするも、巧みな泳ぎで躱される。

 海中で体を回転させてイルカのように泳いでいき、海底の暗がりの中に消えて行った。


(あ、アイツ……くっ!)


 水の魔法で作り出した海流で自分の体を押し上げる。

 その先にリップルがいて、俺をキャッチし、そのまますぐ上に浮いているオアシスまで連れて行ってくれた。


「ぷはっ!! はあっ! はあっ! けほっ、けほっ!」


「落ち着いて! 慌てて一気に空気を吸い込まないでください! ゆっくり、ゆっくり!」


 オアシスの上で横にされ、リップルの指示通りに息を整えて行く。

 飲んでいた水を吐き出して、冷静にいつもの呼吸のリズムを取り戻す。

 船の中央にある壁に背中を預けて座らされる。


「よ、よかった……ああっ! 姫様!」


 感極まった様子で抱きしめられる。そ、そう言えば飛び込むために服を脱いでいるから今のリップルは下着姿……ほとんど半裸の彼女に、濡れて体のまま抱きしめられる。

 う……今感じることじゃないのに、安心しているからか、彼女の優しくも柔らかな抱擁にドキドキしてしまう。

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