灼熱の王道
「ふふっ、ふはっ! ふはははっ! あーはっはっはっはっは!! いひっ、ひひっ、うひっ、いひぃっ! くくくく! ききききっ! ひっひっひ!」
アポロン王が笑いながら自分の椅子に座り直す。本当に、本当に、楽しそうに嬉しそうに笑っていた。堪えようとしても笑いが込み上げている。
「くくくく! なあ、おい! アーサー! グリフォン! どーするよテメェら! きひぃひひひ!」
「笑いすぎだろ、お父様」
ジト目でやれやれとツッコミを入れたのは第一王子のアーサー。
サラサラな金髪を後ろ髪でまとめた綺麗な顔の青年。王の右隣に座っている。
息を吐き、目を瞑って一拍あいだを置いてから、ゆっくりと俺に目を向ける。じっくりと見つめて……父親と同じように思わず笑いが込み上げた。
「ふっ、そうか……俺らが思ってる以上に、この子は強くなっていたようだな。なあグリフォン」
「笑い事じゃないだろ。これじゃあレオナは……危険に」
「城の目の前まで刺客が来たんだ。危険の範疇を超えてんだろ。だったら開き直った方がいくらかマシだ」
「……はあ、フランの心労が心配だ」
アーサーの弟、第二王子のグリフォン。
綺麗な金髪の先の方がオレンジ色に染められていて、兄と反対側の王の左隣に座っている。
彼は俺の後ろに目を向けてフランが真っ白になって固まっているのを見る。
「妙ね……私の知るレオナは決してこんなこと言わない。まるで何かに操られているかのよう」
「操られてあんな言葉が出るかよ」
「勘よ勘。“キングセンス”もビンビン反応してるし」
怪しむのは第一王女のルージュ。兄アーサーの隣で俺を見つめながら思案顔をしていて、それをアーサーにツッコまれていた。
“キングセンス”は王族みんなにある。だがこの場にいる中で王の血を引くのは子供達だけで、夫人達に特別な“直感”はないはず。
「ふふ、ふふふっ! うふふふ!」
最初呆気に取られていたが、夫と同じように嬉しそうに笑う声が聞こえてきた。見ればアーサーやレオナ達の母親である第一夫人、ディアナが口元に手を添えて笑っていた。
「躍起になってる様子はありませんわ、ルージュ。妹を信じましょう」
「とは言えねぇ……、……あなたはどう思われますか? カサンドラお母様」
「どう、と言われましても。ワタクシもディアナお姉様と同じですわ」
ガルムの母、第二夫人のカサンドラは頬に手を当てお嬢様口調で、飄々とルージュからの疑念の目を躱した。なぜルージュがそんな目を彼女に向けたのかわからないが、しかしカサンドラ夫人の隣に座るガルムは自分の母を一瞥してから、俺に視線を戻した。
その視線からはリアリストな彼が、どこか自分の母を怪しんでいる風に見えた。
「レオナさんはよく『“ライオンハート”に選ばれた意味はなんなのでしょう』とワタクシやお姉様に相談されておりました。もしかしたらその答えを見つけたのかも知れません」
「キューちゃんとコロちゃんにも相談してたよね」
第一夫人ディアナに名前を呼ばれたのは第三夫人のキュレネと、第四夫人のコロニス。二人は俺の発言に驚いて目を丸くしたまま、こくこく、と頷いた。
母コロニスに合わせるように彼女の息子である13歳の第五王子アドバンスも、こくこく、と首を縦に振っていた。
「……ねぇ、スルトお兄ちゃん。レオナは大丈夫なの?」
「平気だ、と、思いたいな。ただ昨日お父様は人払いをしてレオナと話をしていたと聞く。もしかしたらその時話されたことがキッカケだったりして」
「私、レオナとケンカとかしたくないよ」
「俺や他の兄弟ならよかったのか?」
「そう言う意味じゃない! もうイジワルしないで」
キュレネ夫人の子供である第四王子スルトと、第三王女のメイプル。二人とも仲良さげに相談していた。
こんな状況でもどこか緩やかな空気が漂うキュレネ兄妹とは対照的に……ガルムとその妹は。
「ガル兄ちゃんを巻き込んだくせに、偉そう」
「昨日何度も説明したろ? あれは俺を狙ったわけじゃないし、あの時最初俺は乗り気じゃなかったけど、結果として一緒にいて良かったと思ったってよ。レオナを守れたからな」
「でもっ! お兄ちゃんが守ったってのに、レオナはお兄ちゃんと喧嘩するつもりなんだよ? 信じられない!」
「俺の継承権はほとんど無いも同然だろ」
「またそうやって……! ふん! もう知らない!」
ガルムの妹、第二王女のヘアは食卓から出て行ってしまった。出入り口近くにいた俺にすれ違いざま睨みつけて。
「もしもガル兄ちゃんに何かしたら、私が絶対許さないから」
それだけ言い残し、去って行った。
残された兄はやれやれと首を振ってため息を吐いた。そして———ゾッとして自分の母に顔を向けた。先ほどは一瞥だけだったが、今度はしっかり顔を向けた、母の気配の変化に気づいたかのように。
「うふふ」
だが彼の母カサンドラは最初から表情が変わっていない。おっとりとした雰囲気で、目を細めた糸目で、穏やかだ。
なのに息子のガルムは顔を真っ青にしていた。何かあると思わざるを得ない。
「座れ、レオナ」
王から言われて俺は空席に座る。ヘアがいなくなって空いた席ではなく、元から空いていた第二王子グリフォンと、母ディアナのあいだにある空席に座った。
兄グリフォンからは心配の眼差しが、母ディアナからは誇らしげな眼差しが向けられていた。
「くく、本来ならここで反対するべきなんだろうが———」
「———なぜです?」
ピシャリ、と王の言葉を遮断する声。見ればカサンドラが糸目から、大きく目を見開いていた。
さっきまで浮かべていた笑みが消えていて、代わりに真剣な表情になっていた。
(———あれ?)
デジャブ。
そして。
「「もしかして姫は戦争に参加させたくないなんて、自分勝手なことを考えているわけではないでしょうね?」」
同じ言葉が違う王家の食卓で発せられた。




