普通の覚悟
ドレッサーの鏡に顔を映す。二人の姫の顔。その表情は……少しやつれていた。昨日今日だけで色々あった。
「「これが14年か……確かにキツいかもな」」
二人の姫は生まれてすぐに宝玉に選ばれたと聞く。
つまりずっと“戦争”と“宝玉”がまとわりついていた。子供頃から昨日に至るまで、ずっと……。
「「だが、やっぱり“納得”できない……!」」
なぜ彼女らは自分の人生を放棄した?
それがずっとわからなかった。
今日二人の姫護衛騎士と、二人の王から聞いた全てを知った上で、それでもやっぱりわからない。
「「いくら酷い人生だって、生き続けたいと思うのが普通じゃないのか……?」」
俺の感覚がおかしいのか?
いいや、そんなはずはない。
しかし彼女らは……レオナとイザベルは耐えきれなくなって、宝玉に願った。願ってしまった。
……。
いいぜ、上等だ。
なんで俺がこの子達の体に魂が乗り移ったのか、答えはまだわからない。だがハッキリしているのは、こっからは俺の好きにしていいって事だけ。
この子達が諦めた人生———!
「「ひっくり返してやるさ! 諦めなければ良かったと思えるほどの、とびっきり幸せな人生にな!」」
部屋を飛び出す。入り口のそばにいた姫護衛騎士が驚く。
「「姫様⁉︎」」
「フラン!」
「リップル!」
「「は、はい!」」
「「私が変わっても、ついて来てくれる?」」
「当然!」
「もちろん!」
即答する彼女らに頼もしさと嬉しさを感じると同時に……騙してしまっている事実に、罪悪感を覚える。それらを押し切って王がどこにいるか聞いた。
聞けばどちらも家族と食卓を囲んでいると言う。俺が呼ばれなかったのは何故だろう……?いや今はそれよりも!
走り出す。髪が揺れる、胸が揺れる。だが決心は揺るがない。城の大食堂の扉を、思いっきり蹴って蹴り破る。
中にいた家族全員が驚いた表情を向けてくる。一番奥の上座に、王が座っている。そして彼に向かって指を差し宣言する。
「「お父様!! 私は戦争に参加します!!」」
「なに……?」
「な、なんだと⁉︎ ま、待てイザベル⁉︎」
アポロン王は疑惑の表情を浮かべた。
ネプチューン王は取り乱し、椅子を倒して立ち上がった。
それらを無視してさらに言うべきことを叫ぶ。
「「私が出れば相手の姫も出てくる! 大きな意味を持つ戦いになる! その戦いに勝利したら私は、お父様を玉座から引き摺り下ろし、王位につく!!」」
今度はアポロン王も冷静ではいられず立ち上がる。
兄弟姉妹実母異母みんなも顔色が一斉に変わる。
「「そう言うわけですので、どうぞ宜しくお願い致します」」
最後にドレスの裾を広げて令嬢のお辞儀で締める。 頭を下げたので目の前の光景はちょうど見えなかった。その耳に舌打ちが聞こえてきた。誰のものなのかはわからなかった。
顔を上げると王の顔は———どちらも目をギラギラさせていた。
疑惑の表情も、戸惑いもなく、一人の王としての風格を漂わせていた。まるで人生最大のライバルを見つけたかのような目つきで、口角を吊りあげて笑っていた。




