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宣戦布告の意図

 俺は走った。

 慣れないヒールとドレスに足を取られて転けてしまった。それでも立ち上がって、走る。

 髪が揺れる。

 胸が揺れる。

 スカートが揺れる。

 途中すれ違った城で働く使用人や騎士からは奇異な目で見られた。気になるものを全て無視して駆ける。そしてフランから聞いた目的の人物の居所まで辿り着く。

 場所は“火の国”の国王の()()()


「お父様! 聞きたいことがあります!」


「ん? レオナ。昨日矢に射られた傷はもういいのか?」


 城壁で囲まれた王城の敷地内の一角に建てられた、王専用の研究所。そこでは絹製の白衣を着た研究者達がいて、その真ん中に周りと同じく白衣を着た王がいた。

 彼は飲んでいたコーヒーを机に置いて、俺の頭を撫でようとして———俺はそれを振り払った。


「……! レオナ、なんだ昨日から。どうも不自然だな」


「聞きたいことがあります。お話、よろしいですか」


「フランはどうした。アイツから決して離れるなと言いつけたはずだが」


「表で待ってもらっています。二人きりで話したいので」


「……ふ。まあいいか、本当これほどまで強く成長するとはな。お前ら、俺たちはしばらく執務室にいる。何かあればすぐに報告しろ」


「はい」


 王と共に研究室から出る。

 部屋から出る直前、研究者達が机を取り囲んでいて、その机の上に乗っているものに視線が向いた。ガラス製のビーカーらしき入れ物の中に黒い何かが入っている。

 それにこの部屋に充満している香りに、覚えがある。

 気になったが、王に行くぞと言われて観念して部屋を出る。二人だけで研究所の執務室に入る。


「それで話とは?」


「もう一度、聞きたいのです」


「もう一度?」


 王がコーヒーを淹れながら答える。もう一つカップを用意して、そっちにはミルクティーを淹れていた。多分俺のだ。


「昨日訓練場で聞いた、なぜ宣戦布告をしたのかと言う理由です」


「勝てると踏んだから、と答えたと思うが」


 ソファーに座った俺の前の机にミルクティーが置かれる。


「それだけではないと感じました。なぜなら、それだけが理由なら今頃この国は滅んでいるはずです」


「ほお?」


 面白そうに聞いている。


「どうしてそう言い切れる? 何度も言うが、俺は勝てると思ったから宣戦布告をした」


「多分その勝てると考えた理由に秘密が隠されている。例えば……ネプチューン王が病気とか、そんな所」


「ふん、アイツは死んでも死なねーよ。アイツは荒波の中でもシャチのように力強く泳げるほどの化け物だ。今は書類仕事ばかりしていると聞くが、まだまだ実力は現役のままだろーよ」


「なら別の理由でしょう。とにかく、情勢の流れを聞けば聞くほどお父様と向こうの王様の間には、二人にしかわからない()()()()()と考えざるを得ません。そしてその正体が宣戦布告するに至った理由であり、20年もの長いあいだ戦争が続いている理由のはずです」


「………」


 一口コーヒーを飲み、喉を鳴らす。王はずっと俺の顔を観察している。まるで猛禽類が獲物の様子を窺うかのように、じっとりと、入念に、どんな動きさえも見落とさないと言わんばかり。


「……悪いな、自慢の娘よ」


「え?」


「言えないんだ。言ったらもう、お前は引き返せない所まで行ってしまう」


「……戦争に参加する必然性が生まれる、のですか?」


「いいやそう言う話じゃない。現に事情を知っているお前の兄や姉は、城の中で戦争に参加せずとも悠々と暮らしている」


「⁉︎ お、お兄様やお姉様は知っているのですか……?」


「ああ、まあ上の方の子供に限られるがな。アーサーとグリフォンの息子二人と、ルージュの娘一人……全員お前と同じ母親から生まれた兄弟達だ」


「彼らは知って……どうしておられるのですか」


「どーしようもないと納得してる。そして同時に俺とおんなじで()()()()()()だと確信している。だから余裕なんだよ、アイツらは」


 残ったコーヒーを一息で飲み干して、王が立ち上がる。慌てて止めようとしたが、王は首を振った。


「来い。お前に見せてやろう」


「え?」


「俺が戦争に踏み込んだ理由はほとんどお前が言った通りだ。勝てると確信できる理由がある。だがそれとは別に……宣戦布告をした“動機”をお前に見せる」


「動機……?」


「単なる侵略戦争だと思ったか? “水の国”には宝がある。俺はそれを得るために戦争をふっかけた」


 宝?

 宝だって⁉︎

 執務室から出ていった王の後ろを追いかけて、研究室に入ろうとしたところで、腕を掴んで止める。


「そ、そんなもののために戦争を……⁉︎」


「宝箱に入ったキラキラな宝石だと思ってるのか? ふん、俺の宝はこの国と家族だ。そして俺が得ようとしているものは———」


 ガチャリ、と研究室の扉を開く。

 さっき入った時も香っていた匂いが鼻腔をくすぐる。やっぱりこの匂い、知っている。

 研究者達が取り囲み、指を差してあれやこれやと話し込んでいる所に王は割り込んでいき、ガラス容器の中に入った物体を見せて来た。


「———国の未来だ」


 この黒い石……見覚えがある。

 そばにあったロウソクを持ってくると、石をバケツに入れ替えてからロウソクに火をつけて、さらに黒い石に火を近づけた。

 じんわりと熱が伝わり、表面が黒から赤に変わる。そして煙を吹き出し、さらに匂いが強まる。

 この匂い、そしてこの黒い石は……!


「石炭……⁉︎」

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