鏡は何も答えない
乗馬と水泳から自室に帰って来たレオナとイザベルの両者。
一度汚れた体を浴場で洗い流してから姫護衛騎士の用意してくれた服に着替えた。そして護衛騎士に部屋から出て行ってもらい、ひとりにしてもらった。
本当は二人だけど。
「「いつかフランとリップルにも打ち明ける日が来る」」
自分の声が鼓膜を揺らす。聞こえてくるのは二人の声が重なっている声。
今日ポラリスとオアシスに打ち明けられたのは、相手が人ではないからだ。人と区別して軽視しているとかではなく、人相手に打ち明けるのは……怖い。
でもいつまでも騙し続けることなんて出来ない。
いつも一緒にいてくれて、守ってくれる彼女らに不誠実なことをしたくない。でもまだ、言う覚悟はない。
「「………一日経ってしまったな」」
昨日変わってしまった自分の体を確かめるために覗き込んだドレッサーの鏡を、また覗き込む。そこにはレオナとイザベルが写っている。
同じ鏡の中にいるわけではない。しかし俺の視界には二人の綺麗で可愛らしい女の子の姿が同時に写る。
……姫になった自分。しかも二人。
姫としての生活は、まだまだ慣れないことのほうが多い。それに別々の国にいるから環境がまるで違っていて、二つの違う習慣を覚えるのは難しい。
「「……今なら出せるか?」」
全身に力を込めて念じてみる。
しかし宝玉は出てこない。
二人同時だったからダメだったのかも知れない。今度はレオナの方でだけ、試してみる。するとあっさり“ライオンハート”が手のひらから出て来た。
イザベルの方も出す。
「「なあ、なんで初めの時だけしゃべったんだ? どうして今はなにも喋らない?」」
聞いても、何も答えない。
ウンともスンとも言わない。ただ俺の手の上で浮いているだけ。
「「……一つだけ、答えて欲しい。答えてくれないかも知れないけど、でも頼むだけ頼むから」」
姫の体になって色んな情報を自分の力で手に入れた。姫の記憶がないから、周りの人に聞いて情報を集めるしかなかった。
その上で、だからこそ、不思議に思っている。
「「どうしてレオナとイザベルは、安寧を求めた? なぜ自分の体と、家族と、人生を放棄した?」」
争いが嫌だ、それはわかる。
だがそれにしたって俺が昨日今日過ごして感じたのは、フランやリップルの護衛騎士や、父である王や兄弟たちの存在は別に苦ではなかった。むしろかっこいいと思うことが多く、誇らしい。
フランとリップルは一緒にいるとドキドキすることの方が多いけど楽しい。
頼れる愛馬や愛船だっているのに。
……二人はそれらを差し引いても戦争が嫌だったから、人生を放棄したのか?とても信じられなかった。
「「……やっぱり答えては、くれないか」」
案の定、予想していたことだが宝玉は何も答えない。
ため息を吐いて体の中に戻す。
そして視線は自然と目の前の鏡に向く。鏡の中にいる二人の姫の姿。
「「……本当にこのまま、俺がこうしていていいのか?」」
それとも。
「「俺が戦争を知らないだけか……?」」
鏡を撫でる。
冷たくてツルツルした感触。改めて自分の手をみると小さくて細い。この手に、肩に、十数年間の人生の中でのしかかっていた重みを……俺は本当の意味で知らない。
……。
……知るべき、なのか。戦争を。
「フラン」
「リップル」
「「はい。なんでしょう? 姫様」」
二人を部屋に呼んで来て訊く。
フランは平民の出で街の情報に詳しく、リップルは貴族の出で貴族たちの情報に詳しい。二つの視点から二つの国を取り巻く“情勢”を知る。




