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群れの王

 一方、“火の国”ではフランに着付けてもらった騎馬用の鎧と、みじっかいスカートを履いて愛馬ポラリスに乗ろうとした。

 フランの補助もあって背中に乗れることは出来た。だが鞍や轡を装着しようとすると、ブチギレてしまい暴れて抵抗してくる。

 俺が自ら付けたいと申し出て何度も付けようとしてみたが、全部ダメ。それから試しに何も装備していない状態で乗ってみると、背中に跨ぐ所までは許されたのだが……。


「す、進んでください」


「ぶるる!!」


 言葉で頼んでみたり、フランに渡された鞭で恐る恐る叩いて見ようとすると、すぐさま暴れ出して振り落とされてしまった。

 暴れるポラリスを押さえ込もうとした兵士たちも一緒に吹っ飛ばされた。

 手がつけられない。


「ひ、姫様、今日はあの子も機嫌が悪いようです。また明日試してみましょう」


「……い、いや、それじゃあ遅すぎる」


 俺がポラリスに話したいことは、とにかく早い方が一番いい。なんとかポラリスと会話しなければ。

 しかし乗っていない状態で話しかけても、目だけをこちらにチラッと向けるだけですぐに顔をそっぽに向けてしまう。


「なんとかしてみる」


「姫様……」


 不安そうにするフランが見ている前で、俺は何度もトライした。

 だが二時間後……何度も地面に振り落とされて全身ボロボロになってしまった。


「姫様ッ! もう、これ以上は! 馬にとってもストレスになってしまいます!」


「く……で、でも……」


 確かにポラリスのことも考えると潮時を見極めなければならない。

 ……でも、気づいている。

 さっきからポラリスは俺のことを振り落とすだけで、噛んできたり、踏んできたり、危害を加えるようなことはして来なかった。

 そうだ、この子の本質は優しいはずなんだ。とても賢くて、強い馬なんだ。


(あの、アポロン王と似ている鋭い目つきだって……ん?)


 初めてポラリスを見た時、現れた彼の目つきを見て俺はアポロン王と似ていると感じた。

 そして今も、俺の方を見ようとせず、ある方向に目を向けているその目つきもまた、アポロン王と似ていると感じる。

 なぜそう感じる?

 ただただカッコよくて、気迫があるからか?

 いや……もしかして。


(そうだ。アポロン王が剣の稽古をしている時の殺気が宿った目。あれを俺は内心、“群れのリーダーとして相応しい”と本能的に感じ取ったんだ。つまり目の前にいる馬だって……)


 ポラリスが見つめている先に注目する。

 草原の彼方に、騎馬の軍団が見えた。けたたましい馬の足音が、離れたここからでもしっかりと聞こえる。

 馬……。

 群れの、リーダーとしての目つき。

 そうか!馬は本来群れる生き物。そしてポラリスの目つきは、アポロン王と同じように群れのリーダーとしての目なんだ。


「群れの、リーダーとしての風格。そうか、ポラリス! 中途半端な、迷ってる気持ちで乗ろうとする私のことがひどく気に入らなかった! だから乗る所までは許してくれたけど、キミを操って動かすのは嫌がった!」


「……」


 ポラリスがこちらに視線をくれる。

 群れのリーダーに跨る気概、それが必要だったんだ。


「ポラリス! 乗せてくれ……いいや、キミに乗りたい! キミと一緒に走らせて欲しい!」


「………」


 ジッと見つめてくる。

 ほどなくして、俺の目の前に体を横向きにして立った。


「乗れ、と言っているようです。姫様」


 フランから言われて、恐る恐る……いいや、こんな気持ちじゃダメだ。俺はしっかりとポラリスの雄大な体と向き合い、そして地面を蹴って飛んで一息で背中に跨る。

 フランの手助けなく、自分の力だけで。

 乗るとポラリスが鼻を鳴らす。


「走ろう、ポラリス」


「ぶるる」


 もう一度鼻を鳴らして、ポラリスが走り出す。

 力強い走り。

 昨日初めて乗った時も思ったけど、やっぱりこの馬の背中は安心する。振り落とされる怖さも、どこかに消えていた。


「ちょっと、誰もいない所に行って欲しい。今日は二人きりで話したいから、キミに乗せて欲しかった」


 ポラリスがこちらに目を向ける。

 反応はそれだけで、方向を変えて近くの林の中に入った。フランの呼ぶ声を背中で聞いた。

 林の中の木漏れ日が差し込む開けた場所に出た。そこで俺はポラリスに止まってもらい、降りて真正面に立つ。


「……わかってると思う。()()()()()()()()()()()()()()()()


「………」


 変わらない表情で何も言わず見下ろされる。

 その表情にビビらないよう、淀まず伝える。


「昨日会った時にはもう気づいてたんだよね。だって賢いから。それでも乗せてくれて、助けてくれて、今日もまた走ってくれた。でもいいの? 俺はレオナじゃない、別の人間なんだ」


「………」


 まだポラリスは返事をしない。

 言葉を尽くすしかない。


「これからも俺のこと、認めてくれるかな」


「……ぶるる」


 頭を擦り寄せて来てくれた。

 自然と手がポラリスの頬を撫でた。それだけで、互いの気持ちが通じ合った気がした。

 さっきのこの子の態度でなんとなく察している。もし自分の背中に乗る資格がなくなれば、容赦なく振り落とす。必要なのは怯えや迷いを捨てた、強い心。


「ありがとう」

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