普通
「ぶえええええええええええんん!!! わたじもうだめでずううううううぅぅぅぅ!!!」
城が飛び跳ねるくらいのバカデカい泣き声だった。俺は耳を塞ぐので精一杯だった。
「あんなっ! あんなあんな! あんな近くに首謀者がいたのにむざむざ逃げられちゃいましたーー! し、しかも姫様の楽園に勝手に乗ってきた相手だって言うのにーー!!」
「り、リップル……そ、そんな泣かないでも良いんじゃ……」
「わたしなんてもうクビですよーー! うわあああん!! せっかく大好きな姫様の護衛になれたのにーー!!」
どうやって慰めたらいいのかわからず焦っていると、部屋の扉が開けられた。父親、ネプチューン王が入ってきた。
外からでも聞こえていたのだろう、耳を塞いでいた。
そして窓際の椅子に座ってワンワン泣き喚くリップルに近寄る。
「ど、どうした? お前が襲われたって聞いて来たのだが……城中大パニックだぞ」
「それが……」
王にあらましを伝えた。
「な、なるほど……しかしこの落ち込みようは尋常ではないな。うーん……」
腕を組んで口元に手を当て、考え込む王様。
少し考えた後、満を辞して俺の肩に手をおいてきた。
「お前の騎士だ。お前が慰めてあげなさい」
「お父様っ⁉︎」
「このままじゃいけないと思っているのだろう?」
「う……、はい」
「よい報告を待ってるよ」
王は部屋から出て行った。
陛下がいる間も泣き喚いていた自分の騎士を見る。
ど、どうすればいいのかわからないけど……でもこのまま泣かせてはおけない。だってそれが“普通”なんだから。
「ねぇ、リップル?」
「ううっ、ひっく……ひめさまぁ……わ、わたしクビですかぁ?」
「うーん……そうじゃなくて」
だが本気でどうすればいいのかわからない。
どうする……どうする?
女の子を慰めるなんてやったことない……いや。
姫になって二人の父親に会って彼らにされたことを思い出す。
「失礼」
「え?」
戸惑うリップルの隣に寄り添い、肩を抱く。そして彼女の頬を優しく撫でる。
「大丈夫、リップル、落ち着いて」
「ひめ、さま……」
それから頭もゆっくりと撫でる。
『女の子の髪をわしゃわしゃしてはいけない』とは彼女の言葉だ。だから乱暴にならないよう丁寧に撫でた。
「泣かないでほしい。今日のリップル、とてもカッコよかったんだから」
「カッコよかった……ですか? でも目の前で犯人を」
「私のこと助けてくれたでしょ。あなたは私にとって命を救ってくれたヒーローなの」
「で、でも! 弓矢に射られて槍を落とした時、姫様に守られてしまった! あんなの騎士として……ありえない」
「あれは私の意思でそうしたかったからだよ。大事な女の子を守りたい、そう考えただけ」
「大事な、女の子……?」
「そう。私のことを守ってくれる人のことを、今度は自分が守りたいって思うのは“普通”でしょ? 誰もがヒーローになれるはず、ヒーローのヒーローになったっていいじゃん?」
「姫様……」
腰の下から両腕を差し込まれて抱きしめられる。彼女の頭がちょうど俺のお腹に来る形。力一杯抱きしめて……しかし俺が痛くならないような丁寧な力加減で、それでいて簡単に離れて行かないようにしがみついている。
「姫様、ダメですよ、そんなの」
「え?」
「こ、これじゃあもっと、もっともっと、姫様のこと好きになっちゃったじゃないですか……好き、好き、好き。大好きです。姫様」
「……そっか。なら自分を好きになってくれた女の子のこと、これからも守ってもいいよね」
「ぐはっ! ま、またそんな言葉をぉ……で、でもダメですよ?」
「今度は何がダメなの?」
「私はやっぱり騎士です。姫を守る役目があって、姫様を守りたい。だから……どうか出来れば、ご自身のことを第一に考えてほしいです」
それがリップルの役割……か。
本当ならそうするのが一番であり、この世界の常識なのだろう。それでも誰もが笑顔で生きててくれて、それでいて俺も笑顔になれる世界を望む。
それが普通だ。
俺は普通の男子高校生なんだから、どうしようもなく望み続ける。




