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58話 おめでとう

<おめでとう>





ミーシェ誕生日当日。


夕日に照らされて。

王弟フレデリックの城では、愛娘の生誕を祝うパーティーが始まろうとしていた。

国内は勿論、他国からも王族や貴族が続々と到着している。

城の入り口が見える位置に立ち、僕は来客者たちをじっと見つめる。

一度会った人間の名前と顔、話した内容、目を通した経歴は忘れない。

けれど、人間の心は移り変わる。

僕は、それを知っている。

以前は安全だった人間が、今日も安全だとは限らない。


(誰が黒幕だ)


この一連の騒動の首謀者。

数日前から、こちらを弄び、疲弊させ。

その照準は、今日にあわせられている。

すでに、城内は、兵たちによって徹底的に調べさせた。警備の数も、かなり増員してある。

その一方で、城の警備が手薄なところを狙われるかもしれない。

城にはレオンを残し、何かあったときの対応を任せてある。

また、僕の気がこちらに向いている隙に、アリシアに何かがあっては、この世は終わる。

アルティウスを専属で護衛に回らせた。

グレンには、イスターシュでの警備強化を命じてある。

どれが標的がわからない。

準備と、何より、時間差の無い情報共有が重要だ。

その対策に、僕らは通信用耳飾りを装着している。

僕が魔力を込めたこれは、情報の共有を望めば、意志が伝達される仕組みになっている。

これで、互いに連絡を取り合い、情報を共有することが可能だ。

向こうは今日を狙っているが、こちらとて、決着をつけるつもりだ。


(絶対に終わらせる)


僕は来客者たちへと全神経を集中させた。




全ての予定来客者が入場を果たした。

それを確認し、しばらくの後。

フレデリック叔父、その妻のミランダ夫人、ミーシェの三人が姿を現す。

叔父には、何か起きる可能性があることは、すでに説明済みだ。今回の警備配置についても、かなり協力いただいた。

彼は一瞬、僕に視線を向ける。僕はそれに、小さく頷いて答える

叔父は視線でそれを受け取ると、開会のスピーチを始める。


「本日は、お忙しいところ、娘の誕生パーティーにお集まり頂き、ありがとうございます。こちらが今夜の主役。ミーシェです」


フレデリック叔父から紹介されたミーシェが、壇上から、優雅な礼をする。

誕生を祝う拍手が鳴り響く。

それを笑顔で受け取りながら、


「皆様、ありがとうございます。このようにたくさんの方にお集まり頂けて、とても嬉しいです。どうか、今宵が皆様にとって楽しい時間となりますように」


ミーシェの言葉に、ホール内に、優雅で軽快な音楽が鳴り始める。

パーティーの始まりだ。


ミーシェが白い手袋に覆われた手を伸ばす。

彼女に最も近い位置に控えていた僕は、一礼し、その手を取りった。

そのまま、彼女をダンスホールの中心へとエスコートする。


「いよいよね」

「ああ」


ホールの中心に着き、互いに向き合って、一礼をしあう。

次に、僕らの周りを、他の上級貴族たちが取り囲んだ。

彼らもまた、男女で向き合って、一礼をしあう。

ダンスの始まりは、パーティーの主役や高貴な身分の者が務めるのが決まりだ。

音楽のテンポが変わり、今夜のパーティー最初のダンスが始まった。


くるくる

くるくる


回り、回る。



けれど、僕の瞳は静かに、映る全てを注視する。

料理に何かを混ぜようとする者はいないか。

ダンスの最中に不審な動きをするものはいないか。

動く唇に、不穏を含ませるものはいないか。



くるくる

くるくる


回り、回る。




くるくる

くるくる







『ねえ、兄さん』











――――――声が、聞こえた。















『勝負を始めよう』









(ああ)






気づいた時には、







どおおおおおおんっ




爆発音が鳴り響く。




(そうか)




僕は、理解する。




(全てに納得がいく)




僕を出し抜けるほどの人間なんて、“他には”いない。






それでも。






唯一、僕を出し抜ける可能性であると知っていながら、

それでも、僕は無意識のうちに、ありえないと思っていたんだ。






けれど。





間違いない現実。

おまえこそが、全ての首謀者。







「―――――――リュイ」







どうして。





僕は、血がにじむほどに、拳を握りしめた。







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