第123話 謎に満ちた少年
島の人の避難場所になっているお寺に残った私と天明さんは、
情報収集を続けていた。
紙絵法教の成り立ちが、よく分からない。
島に伝わる紙芝居、それは確かな伝承のようにも思える。
先程のお爺さんの言葉から、
昭和のどこかで起こった飢餓を救っている事実があるみたいだ。
しかし、何故それが道内にも勢力を伸ばす宗教へと繋がったのか?
伝承の真偽を無理やり説明するとなれば、
やはり魔境の影響があるだろう。
異郷の道のような力が魔境にもあるなら、
その影響は生命を保存する方向に流れてもおかしくはない。
ただ、問題なのは今回の発端となる紙絵法教の起源だ。
この現象が魔境関連なら、この島自体に力があるのだ。
決してこの島の誰かに力があり、
その影響が関連しているわけではないはず。
昔、この島を訪れた高僧とやらは、
鳥矢という少年を見て何を驚いたのか?
一応、私達も仏門の徒と呼ばれる僧侶の集団を知っている。
彼らは単純な仏教関係者ではなかった。
宗教というより、人間が妖や、
ひいては召使いと呼ばれるあの存在たちに対抗するために、
作り上げた実力派集団だった。
その力はこの世にある理不尽に向け振るわれる。
歴史自体も古いらしく、日本政府に何らかの繋がりをも、
持っている。
今回、柱葉さんたちはそういう集団が認めたから、
自衛隊に同行できた。
そして、如月さんの話によれば、
紙絵法教はこの地域の安定を担う集団だそうだ。
もう一度確認しよう。
彼ら紙絵法教は、警察や自衛隊ですら敵わない事態に、
対処するため、人員を派遣してきた。
それが法主と呼ばれるトップであったとしても、
彼らには何らかの力があるはずなのだ。
確かに、今、紙絵法教は何らかの理由で、
乗っ取られた状態なのかもしれない。
だが、それでは前の教祖どのはどんな力があったのか?
一体、ひいては、開祖となる少年に何があるのか?
私は天明さんにある事を聞いてみた。
「異郷由来の存在がこういう土地で、
子孫を遺すということはあるんでしょうか?」
アテナさんによる魔境の説明では、
こういう場所に住居を構えるのは異郷からこの地へ降りた存在だそうだ。
ならば、もし魔境のような少し特殊な空間ではなく、
この地に、この島に降りてきてそのまま住み着いたなら?
または、この島の住民と何等かの理由で婚姻したら?
異郷から来たのではなくとも、こんな魔境を作り出した存在だ、
相当な力を持つ者である可能性がある。
そんな憶測が頭をよぎるのだ。
「ううん、そうですね。
異郷へ至った存在はもはや死とは無縁です。
その観点から子孫等の血脈を遺す必要が無くなった感じです。」
「例えば、今の地球ですが、
人口は70億から80億へと増加しようとしています。
もはや、一つの惑星に安定して住み着くには、
資源、食料ともに限界の状態です。」
「星の覇権を握るほどの勢力は、一様にこのような状況に陥ります。
天敵がいない生命は繁栄を極め、
どこかで折り合いを付けようとします。」
「それが、自主的な人口減少策だったり、
技術等の発展を抑止したり、
反対に技術の更なる飛躍によって乗り越えようとしたり。」
「そこが一つの壁になるんです。
ただし、運がいいとその数の利から、
特殊な個体が生まれることがあります。
その存在はやがてその種のスタンダードとなり、
不老不死へと至るのです。」
その言葉に私は疑問を持った。
それはどういう答えなのか?
それを知ってか知らずか、天明さんの言葉は続く。
「異郷へ至る種族は、
一応に初めから強大な力を持っていたわけではありません。
これは一つの例ですが、
七果さんが連れてきたオリンさんは、オルトロスという種族ですね。」
その言葉に、
「オリンさん?」
と私は反応するが、まだ天明さんの言葉は続く。
「そして、七果さんは異郷のゴブリン種族を知っていますよね。」
うん?何の関係が??
「オルトロスという種族も初めはゴブリン種族のような私達から見て、
少し弱い種族だったと私は思います。
この世界は異郷を含めて、極めて平等です。
オルトロスという種族は異郷にて強大な力を身に着けていきました。
でも、それは死を乗り越えたから出来たことです。
死をも恐れず今ゴブリン種族が異郷を探索中ですよね。
彼らの勢力はとても数が多い。
まあ、この近くの異郷由来の生命なのかもしれませんが。」
「彼らもいずれは大いなる種族の仲間入りを果たすでしょう。
でも、その前に彼らが超えた壁があるんですよ。
それこそが、不死に至る存在。
彼らの一族からその特殊な存在が生まれた。
だからこそ、彼らの種族は今大勢が異郷へと探索に出ている。」
それって、他の種族との混血ではダメなのか?
「わたしが思うに、
高僧が驚いたのは魔境ではないんじゃないかと思います。
これは推測でしかないのですが、
今、70億80億の人口です。
これだけの人が次の段階に進むには、異郷からの血では無理でしょう。」
「高僧が見出した少年の秘められた力。
魔境というのは、もうかなり前から知られているものです。
エンキタン然り、邪馬台国しかり。
何なら天使種族だって、地球にはいるんです。
天使と呼ばれる彼らは、この宇宙の別の星系から来た異星人です。
もう1万年くらいは彼らと共存していますよ、人類は。」
「実例はあるんです。
それはアテナさん達の一族が、この星から異郷へと離れたことです。
彼らはこの星を起源とする種族であり、
この地に残った人たちも同レベルにあったと思われます。
だからこそ、アテナさん達は戻って来た。
そう、新天地を開拓し、その成果と共にこの星に残った人間を迎えに。
ただ、この地はあの召使いと呼ばれるモノの侵略にあっていた。
今の人間は、アテナさん達とは同一起源ながらも違う進歩を辿った。
そのため、この地の、この星の人間が異郷に至るには、
もう一度、不死に至るスタンダードを得ることが必要なのです。
それさえあれば、変革の波は全てを飲み込み、進化の道が開けます。」
「恐らく、この島は不死関係で調べられたんじゃないかと思います。
そして、七果さんの疑う少年は、
人間種族が得た新たなスタンダードと考えられたんじゃないか?
それはこの地の人間が不老不死へ至る最初のサイン。
突然変異ではなく、異郷の者の血筋でもない。
人間種族の次なるステージが開かれる前触れなんですよ。」
「それはまさしく、
人の護り手たる仏門の徒が必要としている存在ではないですか?
遂にあの召使いの呪縛を人間が超える瞬間が来たということ。」
つまり、それは、、、
その少年は普通の人間から神々の道に入った、、
人間がもうすぐ不老不死に至るサインだと思われたのか!?
そして、あの召使いの手を離れた、、




