第120話 手がかりを追って
足平さん率いる陸自の人達が海保の船のほうを探索する中、
民間協力者なはずの柱葉さんと沢野さんが、
集落のほうへと向かってしまう。
今だ人の影は見えず、安全の確認も出来ていない状況。
しかし、アテナさんの言葉を信じるなら、
ここは魔境の領域なはずだ。
そして、今その領域は普通の人を巻き込んで、
拡大している。
何かが島で起きているのは間違いない。
私達はどうするべきか?
「ううむ、このまま作戦に身を任せたとして、
何とかなる保証はないぞ。」
そんな言葉を発するアテナさん。
そして、天明さんも、
「確かに、隊員の人達では、
感じられないこともあるかもしれませんねぇ。
それに何かが進行中なら、表に現れた今、
時間との戦いになっている可能性もありますし。」
相変わらずのんびりした口調だが、それほど的は外していない発言。
私もこれが何かの事件なら、
ここにこんな部隊が送られている時点で最終盤に差し掛かっていると思う。
急ぐ必要がある。
しかし、どうするべきなのか?
そこで、天明さんとアテナさんにある相談を持ち掛けた。
少し強引だが、ここは柱葉さんの後に続くのがいいのではないか?
何を根拠に?
そこだが、ここは既に自衛隊の部隊が展開するような地域であり、
そんな状況の中、民間からの協力者として入って来た柱葉さんたち。
見るからに尊大そうな柱葉さんに、物静かな沢野さん。
彼らが所属する宗教団体らしき存在は、この島から発祥した。
そんな発言が彼らからあった。
さらに、おかしいのが所属不明の船の存在。
観光目当ての客船だとしても少しタイミングが合いすぎているし、
搭乗員などはどこかに消えている。
この船の謎と柱葉さんたちは何か関係しているのではないか?
確かに色眼鏡がかかっているのかもしれないが、
柱葉さんのような人物が危険地域で単独行動などするだろうか?
初めは何かの広告塔のように参加をねじ込んできたのではないか?
前の事件では、謎の僧侶たちが活躍している。
私には理解できない何かの派閥争いがあるのではないか?
そう思ってもいたのだ。
彼らに対して何かを見極めるとしたら、
幾つか考えることができる。
まず、最初に派閥争いに関する広告塔。
何等かの勢力争いが、あの僧侶たちとの間にあり、
今回の事件に活躍できなかった宗派がねじ込んできた。
だが、これだと如月さんや足平さん達自衛隊と、
足並みを揃えないのは腑に落ちない。
必要なのは目に見える形の実績。
誰も見ていない広告に価値を見出す訳はない。
もう一つは彼ら自身が何らかの実力を秘めた存在であり、
自衛隊や私達に頼らず解決できると信じている場合。
うーん、ないわけではないが、
この状況は魔境の拡大にあるとアテナさんは言っている。
つまり、並の人間では力が足りないはずだ。
そして、少しでも力があるなら、
この異様な状況にある程度反応するはずなのだ。
そう、その場合でも、
沢野さんだけ連れての単独行動はないはずなのだ。
例えば、幾ら能力があっても、
集落の人が操られて襲ってきたら?
そんな危険は力があるなら、予想できるはず。
最後にこれが私の本命だが、
彼らはこの事件の核心を知っている場合だ。
そもそも、届け出もない不審な船が港にある。
その大きさも百人くらいは乗れる船だ。
観光地でもないこの島に何の用で、
そして、その動きを国すら知らないなんて。
定期連絡船の情報もあったし、
船の運航には何かの届け出があってもいいはずだ。
現地に着くまで何も情報がなかったなんておかしい。
さらに、柱葉さんの口調や態度は危険を顧みず、
自分を犠牲にしてまで人に尽くす感じではない。
どちらかと言えば逆だろう。
なのに、彼らは迷わず集落へと向かった。
何があるのか分かっているし、
状況自体も理解している。
それは彼らがこの事件に関わっていて、
状況をコントロールする側にいる。
そんな可能性を感じるのだ。
私達はそれとなく、如月さんに事情を聞いた。
「柱葉さん達に対し、指揮権が無いと言っていましたが、
それじゃなぜ彼らはこの調査に入ってこれたんですか?」
そう私が聞くと、
「はあ、彼らはこの地域で活動する宗教団体の最大派閥なの。
もともとは、国の機関である霊的災害対応室に協力する民間組織。
その実態は宗派を超えた実力者集団による特定事案への介入を、
委託された者たち。
民間といえど、特定事案では自衛隊より戦力は上と判断されているの。」
「私達にも全容は分からない集団なのだけど、
霊的災害対応室は彼らにある程度の現場判断を任せている。
それには今までの実績なども考慮されていて、
私達でも彼らの邪魔はできないの。」
「実際、こういうケースでは彼らの働きがモノを言うことが多いわね。
柱葉さんたちはこの地域での協力者。
紙絵法教とは、この島と道内の一部を纏めている宗教集団と聞いているわ。
ただ元々の主が失脚して、今の体勢になったらしいわ。
実績自体は柱葉さんがトップに立ってからは奮わなくなったと聞いているの。
色々、内部で彼との軋轢から実力者が離れて行ったらしくてね。
でも、今だ彼が率いる教団がこの地域での権限を維持し続けているのよ。」
「あの柱葉という法主様が焦るのは無理もないし、
私達から見ても教団自体が正体不明なのも確か。」
その言葉を真剣に聞いていた私達に、
「はあ、一応私達から見たら貴女達も正体不明の怪しい人物なのよ。」
と如月さんは続けてきた。
はははっ、笑い事じゃないぞ、困ったな。
ただ、そんな発言をしてくる如月さんの顔には優しい笑顔がある。
この様子ならあるいは、
私は、如月さんに考えていることを提案した。
「怪しい者ですが、私も柱葉さんたちを追いたいと思うのです。」
その提案に対し、如月さんが質問を返してくる。
「理由は?」
私はある程度の考えを共有し、
「足平さん達は先程から周辺の安全を確保しようとしています。
素人目にも、とても洗練された動きで探索を進めていると思います。」
「如月さんは、柱葉さん達が民間協力者だと言いました。
彼らに相応の実力があるかもとは思いますが、
その動きがあまりに無造作に見えます。」
「続けて。」
一旦発言を区切る私に如月さんは先を促してくる。
「何も分からない場所なら、
足平さん達のように警戒はするはずです。
漁港には不自然なほどに人影がありません。
でも、彼らは迷わず集落に向かいました。」
「実力があるにしろ、ある程度、付近を調べはするはずなのにです。
原因が分からないなら、それなりの調査をして、
ある程度の当たりをつけるはずです。
そんな中、彼らのあの迷いの無さは、
この状況に何かの情報か、あるいは対策を持っている。
そう思うのです。」
なるほど、疑っているのね__
「確かにそれはあり得る事。
でも、貴女達まで自由行動とはいかないのではないの?」
その言葉に天明さんが、
「わたしたちも同じく霊的災害対応室からの要請できていますよぉ。
だから、わたしたちも行ってくるのです。」
自衛隊さんでは身内を調べられないでしょう?__
そんな言葉で畳みかける。
そして、アテナさんも、
「もう時間もそれほどないかもしれないぞ。
既にここまで大事になっている。
準備万端でも、誤算だったとしても、
これを起こした者は焦って事を早めているはずだ。」
「自然現象ならそれはそれでいいが、
これが事件ならこの後がまずいだろう?」
そんな援護を飛ばす。
「はあ、そこまで言うのなら、行ってくるといいわ。
どの道、貴女達の言うように、
私には使える指揮権がないのだし。
ただし、時間を制限させてもらうわよ。」
暗くなる前には合流すること。
そう言って、私達を送り出す如月さん。
足平さんの説得は彼女がしてくれるそうだ。
しかし、この島に来て、太陽は見えない。
この島には夜が来るのだろうか?
ここは人知を超えた魔境なのだ。




