第119話 偵察
島の発見を聞いて、私達は甲板へと向かう。
既にエンジン等は作動していないが、
如月さん達、操舵組は持ち場を離れられない。
代わりに足平さんと木内さんが着いてきた。
船首方向に向かい、前を見ると確かに陸地が見える。
あれが件の鬼鳥島だろうか?
今も潮流?に流され進むこの船だが、
やはり、島の方向へと向かっているようだ。
足平さんと見張りの隊員さん達の間で、
活発な意見交換がされている。
双眼鏡を覗きこむ彼らは幾つかの状況を発見したようだ。
私達民間組にはまだ情報を共有してもらえていないが、
島には次第に接近している状況だ。
しばらくして、遠目だが肉眼でも島を見渡せるようになった。
まず島の玄関口であろう小さな漁港。
いくつもの漁船と思われる船が桟橋に係留されている。
そして、すぐに気づくのが、
この小さな島に似合わない大型船の存在だ。
その船の一つは、この島に調査に向かった海保の船らしい。
今乗っているこの船よりかなり新しい巡視船だった。
そして、意外だったのが民間のモノと思われる客船だ。
うむ、情報にあった定期連絡船らしきものは、
明らかに観光用と思われる桟橋に停められている。
そう、この客船は定期船ではないのだ。
大きさは海保の巡視船と同じか、少し大きいくらい、
かなりの大人数が乗れるであろう船だった。
観光用の客船だろうか?
しかし、そんな事は道内の本部では聞いていない。
あるいは北海道の別の場所に行くための船が、
この事態に巻き込まれたのか?
島の魚港に近づくと、
船のエンジンが復活したと整備班の人が甲板へとやってきた。
どうなっているのか?
それは分からないが、とりあえず船は漁港に停泊するべく、
進路を空いている桟橋へと向ける。
もう十分に港には接近しているが、
島民の姿はない。
外でこれだけ騒がれている状態だし、
そもそもから漁港なのだ。
この状態で漁に出られないなら、
何かしらの騒ぎが起きていてもおかしくない。
定期船だって、今だ出発していないし、
漁が出来なければ、食料の確保もどうなっているか?
色々考えることはあるが、
民間組の私達と違って、隊員さん達は素早く行動を開始していた。
双眼鏡を覗き込み、
島の状況を少しでも把握しようとする監視を担当する隊員さん。
上陸まではもう少しだ。
ここまで人は見ていないが、
とりあえず連絡が途絶した海保の船は発見した。
足平さん率いる陸自の人たちは、上陸準備を始めている。
甲板では足平さんが静かに隊員さん達に指示を出している。
しばらくすると、足平さんがこちらへやって来た。
彼は小声で私達に方針を伝えてくる。
「いいか?
まずは俺たちが上陸する。
漁港をある程度探って、状況を確認後、
安全そうなら近くの集落へと進出する。」
「島民の一人でも接触できればいいが、
そうでないなら、俺たちで島の奥地まで探る必要がある。
あんたたち民間組は、まだ出ないでくれ。
状況次第では、船を沖合へと退避してもらう。
今はエンジンも動く。
島を離れられるかは別だが、
少し離れれば、陸の脅威からは逃れられるだろう。」
その真剣な言葉に、
「武装等は持っていかないんですか?」
と私が聞くと、
「出会った島民に不安を与えたくないし
原因となる相手が分からないからな。
不用意に刺激したくない。
あと、この船の機関砲が使えるようだから、
最悪の場合は、アレを使う。
下手な小銃より効くだろ。」
そう彼は答えてきた。
そうこうしていると船が桟橋に接岸された。
陸自の人の半数、6人が装備を整え桟橋へと降りて行った。
残った隊員は、船にある機関砲に3人、後は如月さんと操舵室にいる。
そんな中、私達は目を見合わせる。
ううむ、単純な戦闘だけなら私達が行った方がいいかもしれない。
アテナさんや天明さんの対応力なら、並大抵の相手に後れを取らない。
しかし、相手は何も化け物だけとは限らないし、
島民相手には自衛隊などの国に所属する身分の方が受け入れやすいかも。
それと今回はこの現象の原因究明が主ではない。
島への橋頭保は必要だが、島民などの避難が済めば撤退はアリなのだ。
私達が避難や撤退ができるなら、
次はもっと多くの人員を差し向けても大丈夫ということだ。
帰る手段が分かれば、遠慮なく入ってこれる。
電子機器が使えなくなると言っても、
人海戦術で調査することも可能だ。
危険?
その判断は道内にある本部がするだろう。
私達が慎重に見守る中、
洗練された動きで一帯をクリアリングしていく隊員たち。
彼らは機関砲の支援を念頭に入れているのか、
まだ視界から外れたところには足を踏み入れない。
ここは漁港だ。
海産物を水揚げする建物もあるが、そこへの侵入はしないらしい。
あくまで外からの確認に徹し、その結果、
いくつかある建物が無人であるということが分かった。
小さな漁港であるが、人が見当たらない。
こうなると、どこの所属か分からない客船と、
停泊中の連絡が途絶した海保の船を調べたい。
島の集落側へと進出したいところだが、
この異常現象下で、港に人気が無いというのはおかしい。
島民がそこまでいないとはいえ、この島の入口にあたる港である。
この状況なら誰か配置していてもいいはずなのだ。
一応、如月さんが停泊している海保の船に、
専用周波数での連絡を試みていた。
しかし、反応はなく、漁港へ上陸した隊員による捜索も空振りに終わる。
一旦、作戦会議を行うため、私達も呼ばれた。
会議は操舵室で行う。
如月さんは状況の進展次第で船の操舵が必要と判断、
操舵室を離れることを否定した。
まずは木内さんから、
「電気系統の異常は今はない。
発電機を持ち込めば今ある装備で拠点化も出来るぞ。」
という報告が上がる。
しかし、足平さんは慎重だ。
「今の人員では拠点を設営しても守れないぞ。
連絡が取れないから、ある程度覚悟はしていたが、
まったく人が見つからないとなると、
陸側に拠点を移すのは、危ないかもしれん。」
「船なら比較的に安全な海側へ退避可能だ。
それに防備もここの方が上だ。」
「調査には上陸して集落方面へと進出しないとだが、
思ったよりキツイ。
島民がいない状態が集落でも発生していたら、
確認に時間がかかりすぎる。」
「当初の予定の通り、駐在所を目指すのはいいが、
拠点は船のままにしたほうがいい。」
「それと所属不明の客船がいる。
だが、島民を退避するのにアレは使える。
どんな集団が乗ってたのか知らんが、
この事件に関係しているとも考えられる。」
「あとは海保の船の調査も必要だ。
何か情報が残されているかもしれん。」
その報告に如月さんが、
「私達の目的は、調査ですが、
現時点で島民の捜索に目標を変えましょう。
まずは足平陸佐は海保の船を捜索してください。」
「あと木内さんはこの船に拠点設備を展開してください。
島の状況はかなり悪いかもしれません。
本部との通信の確保に注力してください。」
そして、こちらを向いて、
「皆さんは、何か気付いたことはありますか?」
そう話を向けてきた。
すると、
「ふむ、私が集落へと向かってみよう。
この地は紙絵法教発祥の地であるからな。
島の皆にも顔が効く。」
意外にも宗教家だろう柱葉さんがそんなことを言い出した。
付き人というか弟子の沢野さんも着いて行く感じだ。
その言葉に足平さんが反応した。
「おい、あんた、危険だぞ!
まだ集落の安全を確認できていない!」
だがその言葉に柱葉さんは、
「ふん、人の使う武器が通用する現場かな?
私のほうがこういう状況には馴染みがある。
私は国の方から直接依頼されているのだ。
私の行動に指図しないで貰おう。」
「この件は私が必ず解決して見せよう!」
そんな自信満々な様子で、足平さんの忠告を退ける。
「いいですな?
如月2等海佐どの。」
そう念押しされ、困った表情を浮かべる如月さん。
どういうことだ?
この調査隊の指揮は如月さんが執るのではなかったのか?
「足平陸佐、彼らは私達とは別件で入っています。
彼らは私の指揮下にはないのよ。」
その言葉に、ふん、と鼻を鳴らす柱葉さん。
そんな一幕に当惑する私だったが、
その一方で、天明さんとアテナさんが静かに会話していた。
「この島に入るには随分大きな船でしたねぇ。」
と天明さんが言うと、
「そうだな、100人以上が乗れそうだ。
行方知れずなら、今頃騒ぎになっているだろうな。
だが、そんな情報は本部ではなかった。」
アテナさんはそう返す。
「一体いつ、誰が手配した船なんでしょうねぇ。」
会話の最後に天明さんの謎かけが加わり、
私の目は再び如月さん達の方へと向かう。
結果的に柱葉さんと沢野さんは単独で集落に向かうことになった。
自衛官として、市民の安全を確保するため、
最後まで足平さんが踏ん張ったのだが、
こうも強行されてはどうしようもない。
苦い顔をした自衛隊組を見ながら、
私達の今後の行動について考える。
エンジンの停止などが相手の意志で行われているなら、
この船を使っても避難は難しい。
そして、相手がいればいいが、
単なる自然現象ならどうしようもないかもしれない。
アテナさんの言う魔境の拡大だったとしても、
誰かの意志など関係ない場合は結果として、人の手に余る。
この間の教訓通り、初めから敵対する意志で臨むことはない。
ここへ向かう準備の時、アテナさんが言っていた。
妖精郷の王様でもこのようなことはできないと。
そうであれば、何かの事故ということもあり得るのだ。
まずは、島へと上陸すべきかもしれない。
このままでは何も変わらない。
そんな気がするのだ。




