第118話 上陸
足平さん率いる陸自の小隊は、
しばらくして装備の点検を終えた。
木内さんが班長を務める整備士班も必要な準備を終え、
足平さんと木内さんが今回の調査を指揮する如月さんに報告する。
後からやってきた紙絵法教の法主とかいう柱葉さんとその弟子、沢野さんは、
私達とは離れた場所で待機している。
報告を受けた如月さんは通信用と思われる端末を取り出し、
どこかに連絡を取っている。
しばらくすると、如月さんが皆に集合の号令をかけた。
一糸乱れぬ動きを見せる自衛隊組と、
その後に続くちょっと当惑している私達民間組。
集合し整列した私達に、出発の訓示を口にする如月さん。
内容は、この作戦の優先順位についてだ。
第一の優先項目は島民の無事を確認すること。
実際のところ、今回は護衛艦の行方不明が事の発端になっている。
が、その後の調査で鬼鳥島自体に異常が起きている可能性がある。
まずは民間人である島民の安全確保を最優先しなければならない。
島へ到着後は速やかに現地に住む島民と接触、
可能であれば島からの避難を促す。
第二の優先事項として、島の状況を確認する。
島での安全な活動が可能かどうか?
道内との通信を確保し、安全エリアと危険エリアの区分けをする。
危険エリア指定には、接岸した船との通信が可能かどうか、
危険生物や敵性勢力などが存在するのか?を把握し定める。
安全エリアの見極めが終わり次第、船から機材を搬入し拠点を設営する。
一応、島には駐在所があり、そこが使えれば、ということだった。
そして、これは作戦とは別に設けられた基準だが、
民間人の私達は島で危機事案が発生したら、撤退すること。
自衛隊の隊員は島民の撤退を支援し、
その後は築いた拠点も放棄する旨が伝えられた。
私達はあくまで、民間人と消失した船の隊員の安全を確保のために、
島に行くということだ。
事案の解決は可能であればということになっているそうで。
安全を第一に!という号令とともに、作戦は開始した。
島に向かう船には既に装備や機材が積み込まれている。
足平さんの指示で、船の各所にある持ち場に着く隊員たち。
その手には双眼鏡が握られている。
レーダー等は使用不能なので、機器に頼らず目視で島を目指すのだ。
しかし、10kmとはいえ、海上での航行なので四方を監視するため、
陸自の隊員が各所に配置された。
また船のエンジン部分には、木内さんら整備班が張り付いている。
電子機器が異常を起こす島周辺の環境、
エンジンにある部品にも影響があるかもしれない。
島への航行途中でエンジントラブルにあえば、
最悪漂流することになる。
そして、操舵室では如月さんが操舵を担う。
もちろん、見張りを担当していない陸自の隊員がサポートする。
うん、まあ不思議なのだが、海自からは人員が出ないのか?
そんな疑問が出るだろうが、今回の作戦に海上での活動はない。
そして、足平さんの部隊は水陸両用の部隊だった。
一応、船舶に関する知識も操舵経験もあるらしい。
これは、神奈川から北海道の捜査本部までの航海で、
足平さんとの会話から分かったことだ。
今の配置もその時に試行錯誤されたものだった。
ちなみにその時に、銃火器類は持ってこなかったのか聞いたのだが、
足平さんには笑われてしまった。
「はは、嬢ちゃん、映画じゃないんだ。
自衛隊とか言っても必要じゃなければ、小銃類の所持は許可されない。
特に俺たちのような立場だとな。」
足平さんの立場?
そんな私の疑問に対し、
「俺たちのところはな、
あの関場の野郎にいいように使われてるんだ。
まったく、正規任務とかじゃない場所で、
やたらデカい奴とやり合ったこともあった。」
「だが、そんなことは今まで少なかったんだ。
大抵は地元での喧嘩みたいなものだ。
話を聞けば、どいつもこいつも拗らせていてな。
俺たちは間に挟まれて、いい迷惑だ。」
「殴り殴られ、皆がそういう鬱憤を全部吐き出すと、
どいつもこいつも最後には酒を片手に笑いやがる。」
「今までそんなのばかりだ。
まあ、いろんな奴がいるのは知ってる。
常識なんてのはとっくに捨てたよ。」
「まあ今回は一応荷物に装備を積んでるがな。
使うことになるのは避けたいな。」
そんな愚痴を口にする足平さん。
短い時間だが彼の人となりを垣間見えた感じだ。
そして、今私達は乗員の休憩室に固まっている。
あの柱葉さんたちもいるが、
彼らは会話するどころか、私達の挨拶に返事もしてこなかった。
ただ弟子?の沢野さんが一礼しただけだ。
恰好といい、紙絵法教を名乗っていることといい、
どこかの新興宗教団体の人だろうか?
だが、今は自衛隊も動く大事のはず。
怪しい者がそんな現場に入り込めるはずもない。
だがしかし、その怪しさと国絡みという事実の間で、
考えが纏まらない私がいた。
その間も順調に船は島への海路を進み続けていた。
島への航海は約1時間で終わるはずだった。
通常なら40分ほどで着くそうだが、
今回は敢えて速度を落として慎重に近づく予定だった。
しかし、港を離れて2、30分だろうか?
休憩室の照明が不安定に点滅しはじめ、やがて灯りが消えた。
何かあった!
私達は甲板へ向かったのだが、
そこで見たのは日差しが隠れ、薄暗くなった空だった。
出発した時は晴天だったのに。
監視していた隊員の人が矢継ぎ早に何かを報告している。
それを受け取った足平さんが、操舵室に向かっていった。
エンジンを調整していた木内さんも甲板に上がってきていた。
「ううむ、これは歓迎されていないな。
だが、間違いなく魔境のようだ。」
そうアテナさんが呟く。
魔境と言えば、訓練に行ったことがある妖精郷がある。
あの時は確か車で現地に到着したはずだ。
カーナビも使っていたような?
そんな思考を抱えながら、皆の集まる操舵室を覗き込む。
中では切迫した会話が繰り広げられていた。
足平さんは、部下から島の方向を見失ったことを伝えられていた。
あと天候の急変なども報告に上がっている。
そんな馬鹿な!
そう思うが自分の目で確かめるのは、後でいい。
何せ木内さんたち整備班の人が、エンジンの電気系統が不調で、
現在はストップしたと言っている。
つまりは、現在進行形で船は北海道近海を漂流中ということだ。
そして、ここからが問題なのだが、
陸自の隊員さんによると、
船は何かの潮流によって流されているそうなのだ。
おそらくだが、
進路自体は私達が向かっていた島への航路を維持しているらしい。
だが、背後に見えてもいいはずの北海道の景色が今は見られない。
陸地からまだそう遠くないはずだし、そもそも島まで10kmだ。
なんで、四方のどこにも陸地が見えないのか?
如月さんは、道内の本部と交信を試みるも繋がらない。
船の位置情報は分からない。
最悪、晴天ゆえに太陽の位置から方角が分かると思われていたのだが、
今の曇天ではどうしようもない。
観測機器を取り出そうと隊員に指示を出そうとする足平さんだったが、
その時、甲板から大きな声が上がった。
前方を監視していた隊員からのものだ。
「陸地だ!
目標と思われる島を発見!!」
それが私達の不可思議な島での事件のはじまりを告げるものだった。




