第114話 国からの依頼
右藤住職たちが帰って来たので、
そろそろ、研究所に帰ろうと挨拶をする私達。
そもそもの調査は少し進んだ感じではあるが、
この先には大きな壁がありそうだ。
とりあえず、小野寺所長にこの事を報告する必要がある。
右藤住職と職員さんにお礼を言われ、
私達は有難く感謝の言葉を受け取ることにした。
実際、こんなことになっているとは知らなかったが、
所長からの業務が無かったら貴重な知り合いを失っていたかもだ。
さて、アテナさんの運転する社用車に乗り、
寮のある研究所へと帰り着く。
今の時刻は午後5時20分ごろ、もう夕方だ。
所長への報告をどうするか?
一応エントランスの受付で所長の予定を聞いてもらうことにする。
うん、まあ現実問題として天明さんのラボから連絡を入れれば、
受付さんの仕事を増やさないで済むのだが。
この研究所、1階のエントランスで寮や食堂への通路が分かれている。
もう普通なら研究所の業務は終わっている。
そして、小野寺所長はこの施設で一番偉い人だ。
何が言いたいかといえば、
通常勤務時は所長には時間いっぱいのスケジュールが詰まっている。
何せそれなりに大きなこの研究所を任されているわけで、
その業務は多岐にわたる。
しかし、小野寺所長にも自分の研究というものがある。
研究所での立ち位置と自分の研究の狭間で、
唯一自由を確保できる時間がこの終業時間なのだ。
ここからが自分の研究を進める本番なのである。
そんな事情を持つ所長が、今から報告を聞くと言い出すだろうか?
その確率は結構低いし、今回の調査結果は中途半端なものだった。
だからこそ、受付から連絡してもらった。
天明さんのラボを開けて、報告は明日でいいと言われたら?
もう今日はラボですることはないし、
再びラボを閉めてこのエントランスへと舞い戻ることになる。
そして、今日は私が勤めだして3回目となる給料日だった。
ちなみにこの姿では初めての給料日となる。
そう、全てが始まってからまだ3か月くらいしか経っていないのだ。
最近の一か月なんて、とんでもない大事件や危険なことが満載だった。
今日はオリンさんを含めた皆で美味しいものを食べに行く予定なのだ。
うん、この事実に気づいたのは、
加具茂寺から帰る車の中での一幕だった。
天明さんが、オリンさんに美味しい焼肉店の話をしたのだ。
ううむ、前もそんなことがあった!!
そして、そこから彼女に釘を刺しておこうと、
運転するアテナさんにこっそり合図したのだが、
オリンさんがその話に乗ってしまった。
大変だ!
それとなく、話を濁そうとした私とアテナさんだったが、
そこに天明さんの一言が入った。
そう今日は給料日であり、
例の事件などの危険手当付きの大金が給与として入るはずだと。
実際、霊的災害対応室からは謝礼が出ているという事だった。
しかし、私達は危惧していた。
あの天明さんと今回は未知の可能性を持つオリンさんが加わっている。
非常にまずい予感しかしないのだ。
だが、天明さんは強かった!
曰く、あの大事件への貢献に対する謝礼であり、
相手は国の機関であると!
自衛隊のミサイル一発の値段を例に挙げ、
私達の貢献は多大なものであると力説する天明さん。
庶民の金銭感覚と国の災害対策費を比べてはいけないと、
止めとばかりに締めくくる彼女。
確かにそうかもしれないが、、
そして、今、所長への報告を終えたら、
件の焼肉店へと向かうことになっている。
エントランスで所長への連絡を取ってもらう私達だったが、
意外にも小野寺所長は今、会いたいと言ってきたそうだ。
まあ、大した時間はかからないし、
この後のどうなるか分からないビックリ箱なお食事会の時間に対し、
時間稼ぎができる。
私達は所長室へ向かい、室内にいる所長に迎えられた。
今回の調査が途中でストップしてしまったことや、
仏門の徒などについて詳細を報告すると、
所長は右藤住職たちの無事を喜び、報告自体にも興味を見せた。
「ふうむ、中々に興味深い!
アマノトリフネについての情報だけでなく、
その仏門の徒殿からは、高天原の実在を匂わせる証言が出てくるとは。」
なるほど、そう言えばそうだ。
最近、こんな不可思議が多くて、高天原の実在とか気にしていなかった。
実際問題、その実在自体が研究では不明なのだった。
ううむ、異郷の道とかあったし、
あそこには、古き神々の都とかあったりする。
今更、島の一つ二つがあの世界で彷徨っていたとしても、
不思議ではないと思っていたし、聞いた時も格別な驚きはなかった。
なるほど、小野寺所長の研究者としての才覚は非常に優れている。
私が感じるような そうなんじゃないかな?な疑問 を、
ちゃんと確認して、着実に一つ一つを確認済みにしていっている。
そうどこまで事実なのか?
その事実確定をきちんと把握することで、
研究というものは初めて進むのだろう。
頓挫した調査についても、まだ先があると所長は言っている。
研究というのは、頓挫しては進みを繰り返すものだそうで。
それこそが探求というものなのだということ。
そして、今回の事故を起こしたあの収集物については、
仮説として受け止められた。
まだ事実として確定するには、根拠が弱いとのこと。
あらかたの報告を終えたのだが、
所長からある要件について話をいただいた。
「実は今日、霊的災害対応室から話があったのだよ。
君らを名指しで依頼してきた。
詳細は東京で伝えるそうだ。」
「一応、概要は受け取ったよ。
どうも、北海道のある島で未確認事象が発生したそうだ。」
「一応言っておこう。
オリン君は連れて行かないほうがいい。
全てを彼らに曝け出すのは危うい。」
「そして、君らにも忠告だ。
今回、国からの依頼で拒否権はない。
つまり、前の事件と同じように危険が付き纏うということだ。」
「一応、依頼は調査だがね。
彼らはお役所仕事であり、その本質は火消しだ。
基本は有事にしか動かないのだよ。
元々が自衛隊から政府直轄へと移された部署だからね。」
「危ないと感じたら、逃げることだよ。
民間人に被害が出るのは彼らも避けたいはずだ。
なあに、心配はない。
何ともならなかったら、自衛隊の部隊を送るだろう。」
「ただ、自分から向かったら彼らの思うつぼになる。
気を付けたまえ!」
そう言って、私達を送り出す小野寺所長。
明日は東京の霞が関行きになってしまった。
数時間後___
その夜、再び凄惨な事件は起こってしまった。
犯人はやはり天明さん、
そして、果てしない可能性の扉を開いたオリンさんだった。
高位種族たるオリンさんだったが、お肉は大変美味だったらしい。
食べなくても生きていけるが、そこに美味しいものがあるなら、
食べることに躊躇はない。
特に彼女たち親子はあの異郷の道を旅している。
一応だが、あの地に果物等の実もあることはある。
しかし、お肉は基本的に存在していない。
あそこの多くは非実体のエネルギーで構成されている。
木々などは例外なく高位な植物だったりする。
彼女の食欲にアテナさんと私はひそかに自分の分を差し控えた。
その結果、何とかアテナさんと私は、月々の生活費分を守り切った。
ただし、国からの謝礼や遠慮なく食べた天明さんの給与は守れなかった。
天明さんは明日からの依頼に希望を託すことになった!




