第6話「金なら、ある。」
「二人とも。よく聞け。7年後お前ら二人には学校に行ってもらう。」
「え?」
アイリスが顔をしかめた。
彼女の家は裕福とは言えない。おそらく学費が心配なのだろう。
アイリスの様子に構わず、ヴァルドは説明を続ける。
「二人に行ってもらう学校は王立セレスティア魔導学園だ。そこで卒業資格を得てきてもらう。」
セレスティア国民なら全員が知っているはずの学校だ。
それもそのはず。卒業資格を持つ人間は貴族をも超える権力を持つことができるからだ。
ただ、・・・
「学校に入るだけでも難しいのに卒業なんて不可能では?」
アイリスが俺の思っていることを代弁してくれた。
すると、ヴァルドが学校のことについて説明してくれた。
簡単に要約すると
王立セレスティア魔導学園は倍率が毎年約60倍であり、合格者はたったの120名。6歳から6年間通うが、卒業時までに学年全体から退学者が30名ほど出る。
退学理由は主に学業不振、素行不良などではなく、「昇格戦」によるものだ。
この学校は、ランク制となっており入試時の点数をもとにS~Eまでのランクが割り振られる。また、ポイントを集めることでランクを上げることができる。
そして、毎年Eランクの最下位5名が退学となっている。
「昇格戦」は長期休暇以外ならいつでも行うことができ、自分より1つ上のランクにいる生徒に昇位願を出し、相手が承諾することで「昇格戦」が行われる。
「昇格戦」でのポイントの掛け金は双方の合意のもとで決定する。
といったところだ。
「つまり、毎年最下位5名に入らなければ卒業できるってことね。」
アイリスも理解したようだった。
ただ、問題は他にもある。
俺は聞いた。
「入試はどうやって突破するつもりですか?」
「この学校の入試は、大きく分けると筆記試験と実技試験の2つだ。
ただ、得点の比重は実技試験のほうがかなり大きくなっている。」
前世での勉強の成果にはあまり期待できないみたいだな。
ヴァルドは説明を続ける。
「実技試験では、魔法試験、基礎運動能力試験、実戦試験の3つに分かれている。」
「これから入試までの間はその3つの試験に向けてあなたが鍛えてくれるってことでいいのよね?」
「ああ。」
はっきり言わせてもらおう。もの凄く嫌だ。
入試は1月に行われる。今は7月。
ここから約半年間の間、俺が毎日おとなしく努力を継続するわけがない。
努力は二度としないって誓ったんだ。(昨日の素振りはノーカン。)
「私は合格を目指すわ。」
アイリスが答えた。
おいおいおい。待ってくれ。この流れは俺も頑張らないといけない流れじゃないか。
この流れだけは何としてでも止めなければならない。
「アイリス、・・・聞きにくいんだが、学費はどうするつもりだ?」
勝った。
これでアイリスは諦め、それに乗じて俺も諦めるだけで済む話だ。
次の瞬間、思いもよらない言葉が場を切り裂いた。
ヴァルドだった。
「学費は俺が出そう。もちろん、アレンの分もな。」
・・・待て待て待て待て。
おかしい。それをしてアンタにメリットはないだろうに。なぜそこまでして俺たちを学校に入れたがるのだ。
「なんでそこまでして学校に入れようとするのですか?」
気づいたら聞いていた。
「まだ言えないな。二人が、卒業できたら教えてやる。」
コイツ、どこまで俺を不快にさせれば気が済むんだ。
「でも、学費はかなり高額ですよ?それに二人分ともなれば・・・。」
アイリスがこっち側に就いた。
勝った。今度こそ勝った。
「安心しろ。金なら、ある。」
負けた。根拠はないが説得力がすごい。
結局、俺も半年後の合格を目指して残り7万本の素振りを処理している真っ最中だ。
その日の夜、両親にそのことを話すととても喜んでくれたが、別に貧しいわけではないので、学費は自分たちで出すと言われた。
なんで止めてくれないんだよ・・・。
次の日、ヴァルドはスキルの説明をしてくれた。
どうやら、スキルには「進化」が存在するらしい。
一つのスキルが「進化」できるのは2回まで。
進化条件は様々であるが、訓練を積んでいれば、その多くは自然と「進化」していくそうだ。
そして、ついに計10万本の素振りを終えた俺に課された次の訓練の内容は
アイリスとの模擬戦だった。




