第53話「昇格戦」
その日の放課後。
昇格戦のフィールドへ向かった。
俺が到着したときには、既にヴァルターと審判が待機していた。
「遅いな。
Eランクのくせに。」
それと同時に《最適化》の声が頭の中に響く。
『戦闘分析を開始します。』
目の前に立つヴァルターを見据える。
武器は短槍。
身体能力も、入試や技能測定で見てきた生徒たちと比べれば決して低くない。
だが――。
『解析完了。』
「……もう終わったのか?」
『はい。』
《最適化》の声は淡々としていた。
『対象の身体能力は、現在の使用者を下回っています。』
「……。」
『魔力総量、使用者以下。
反応速度、使用者以下。
近接戦闘能力、使用者以下。
勝率――97.4%。』
「……そこまで言う?」
思わず苦笑する。
どうやら、この能力はかなり正直らしい。
審判を務める教員が二人の間に立つ。
「E to D昇格戦を受理しました。
これより開始します。」
周囲には、かなりの数の生徒が集まっている。
Eランクの生徒が、Dランクへ挑戦する。
それだけで珍しいのだろう。
「戦闘続行が不可能と判断された時点で終了とします。」
「賭けるポイントはどうする?」
話に上がらなかったので仕方なく尋ねる。
「そうだな…。
フッ。お前の持っているポイント全てでどうだ?」
周囲が騒めく。
この学園でのポイントは、ランク分けの目安として用いられている。
だが、そのポイントが0になると、問答無用で即退学となる。
《最適化》が警告を出す。
『推奨できません。』
「うるさい。」
『メリットとデメリットが釣り合っていません。』
俺は《最適化》を無視して答える。
「俺のポイント全部、だったな。
いいぜ。」
ヴァルターが目を丸くする。
なんでお前が驚いてるんだよ…。
「度胸だけは認めてやる。」
俺は《アストレア》を抜いた。
ざわめきが起こる。
「……聖剣?」
誰かが呟いた。
まあ、そうなるよな。
教員が手を上げる。
「――始め!」
相手が一気に踏み込んできた。
槍が一直線に伸びる。
速い。
だが――。
『右へ一歩。』
俺は指示通りに動く。
槍が目の前を通過する。
『次、左肩。』
身体を捻る。
槍が空を切る。
『三撃目、下段。』
跳ぶ。
槍が足元を通り過ぎる。
「……。」
ここまで全部、見えている。
いや。
正確には、《最適化》が次に来る攻撃を予測してくれている。
「すごいな。」
『ありがとうございます。』
「褒めたわけじゃない。」
『訂正します。』
「そこはいい。」
相手が槍を構え直す。
明らかに動揺している。
無理もない。
俺はまだ一度も攻撃していない。
それなのに、一度も攻撃を当てられない。
「くっ……!」
今度はフェイントを混ぜてくる。
だが――。
『攻撃ではありません。右足への踏み込みは、次の突きを隠すためのものです。』
「なるほど。」
俺は半歩だけ横へずれる。
次の瞬間。
予想通り、槍が伸びてきた。
俺は《アストレア》を横に構える。
カンッ!
槍の穂先を刀身で弾く。
「なっ……!」
相手の体勢が崩れる。
『現在、武器を無力化することを推奨します。』
「了解。」
俺は一歩踏み込む。
《アストレア》を振る。
ザンッ!
槍の柄が綺麗に二つに分かれた。
「……え?」
相手が呆然とする。
俺はそのまま《アストレア》を鞘へ収めた。
「終わりだ。」
「まだ――」
相手が拳を握る。
その瞬間。
『右拳。』
俺は腕を掴む。
『右足を払うことを推奨します。』
「了解。」
足を払う。
相手の身体が傾く。
そのまま地面へ倒れる――寸前。
俺は襟を掴み、地面へ叩きつけないよう支える。
「……。」
相手が目を見開く。
俺も少し驚いていた。
あまりにも簡単だった。
以前なら、自分の身体能力を持て余していたかもしれない。
だが今は違う。
無駄な動きがない。
必要な力だけを使い、必要な場所だけを攻撃する。
これが――《最適化》。
教員がすぐに判断を下す。
「戦闘続行不能を確認!」
周囲が一気にざわめき始める。
「……何だ、今の。」
「Dランクを一方的に……。」
「聖剣を抜いたと思ったら、ほとんど何もしてないぞ。」
俺は相手を立たせる。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……。」
その顔には、悔しさより困惑が浮かんでいた。
俺も同じだった。
黒環結社との戦いでは、いつだって自分より遥かに強い相手と戦ってきた。
だからこそ。
今になって初めて実感する。
――俺は、確実に強くなっている。
それに、《最適化》が加わったことで、その力を今まで以上に正確に使える。
『補足します。』
「何?」
『現在の戦闘では、使用者の能力の約34%しか使用していません。』
「……。」
思わず黙る。
「それ、今言う?」
『事実です。』
「……まあ、そうだよな。」
俺は小さく笑った。
教員がこちらへ歩いてくる。
「アレン=ベオウルフ。」
「はい。」
「昇格戦の結果を確認する。」
周囲が静かになる。
「勝者――アレン=ベオウルフ。」
そして。
「EランクからDランクへの昇格を認める。」
「……。」
掲示板に並んでいた自分の名前。
その横にあった――Eの文字。
それが、今日から変わる。
D。
たった一つ上がっただけだ。
それでも。
「……一歩目か。」
俺は掲示板を見上げた。
上には、まだC、B、A、Sがある。
そして、その先には――。
「まだ遠いな。」
『同意します。』
「お前、そこは励ませよ。」
『現時点では事実です。』
「……分かったよ。」
俺は笑った。
なら――。
一つずつ、上がっていけばいい。
その瞬間だった。
『警告。』
「……え?」
《最適化》の声が、初めて緊張した。
『現在、この学園内に、使用者より明確に強い魔力反応を確認しました。』
「……誰だ?」
『対象を特定します。』
数秒の沈黙。
『……解析結果を取得しました。』
『対象:Cランク、生徒。』




