第47話「お前には、まだ利用価値がある。」
ドォォンッ‼
《連火弾》によって、「魔境樹海」の一部が火の海と化した。
黒環結社の人たちが呟く。
「なぜ立っていられる⁉」
俺は《連火弾》が被弾する直前に《氷華》を何層にも重ね、盾として使った。
結果として、ノーダメージというわけだ。
「今度はこっちの番だ。」
そう言って、《アストレア》を両手で構える。
その時だった。
「…ぐっ‼」
体がいきなり重くなる。
おそらくセレナの【幻奏】が切れたみたいだ。
だけど、ここで倒れるとシヴァの回収が困難になる。
何とか耐えなきゃ。
顔を上げる。
すると、目の前にいたはずのシヴァや黒環結社の姿がない。
次の瞬間、後ろから後頭部を殴られる。
ガンッ‼
視界が闇に染まっていく。
意識が朦朧としていく中、転生したときもこんな感じだったなと考えながら、気を失った。
暗闇。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、意識だけがそこに浮かんでいるような感覚だった。
(……ここは?)
体を動かそうとする。
だが、動かない。
いや……。
動かせない。
まるで、自分という存在そのものが重く沈んでいるようだった。
その時。
頭の中に、いくつもの光景が流れ込んできた。
初めて魔法を使えた日。
《積層》のスキルが与えられ絶望した日。
アイリスに模擬戦で打ちのめされた日。
《万象崩壊》(ディスインテグレート)を身に着けた日。
入試会場でベヒモスと戦った日。
何度失敗しても、諦めずに魔法を構築し続けた日。
《努力の前借り》を使い、限界を超える訓練を始めた日。
そして――
ノクスとの戦い。
(……俺は、ここまで来たのか。)
思えば、長い道のりだった。
才能なんてなかった。
最初から強かったわけでもない。
ただ、足りないものを埋めるために努力した。
何度も倒れて。
何度も諦めそうになって。
それでも、前に進み続けた。
だけど――
今回は違った。
どれだけ力を込めても、何も返ってこない。
魔力も。
体力も。
立ち上がるための意思さえも。
(……限界、か。)
初めて理解した。
努力だけでは、どうにもならない瞬間があることを。
――目を覚ます。
最初に感じたのは、冷たい地面の感触だった。
「……。」
ゆっくりと目を開ける。
視界はぼやけている。
だが、少しずつ状況を理解していく。
森。
巨大な木々。
そして、自分を囲む黒いローブの集団。
「……魔境樹海。」
どうやら、森の奥の方まで運ばれてきたらしい。
体を起こそうとする。
しかし、
「ぐっ……。」
手足に力が入らない。
体力もない。
完全に無防備な状態だった。
その時。
「目が覚めたか。」
聞き覚えのある声。
顔を上げる。
そこにいたのは――
真紅のローブ。
銀白色の髪。
そして、深紅の瞳。
「……リリア。」
黒環結社第2席。
リリア=ヴァルハインが立っていた。
「随分と無茶をするな。」
淡々とした声。
「この状況で、あれだけの人数を相手にするとは。」
俺は睨みつける。
「……何が目的だ。」
リリアは少しだけ目を細めた。
「安心しろ。
ここで殺すつもりなら――」
一瞬。
彼女の瞳に、あの時の冷たい光が宿る。
「あの場で、すでに終わっている。」
その言葉に、背筋が凍る。
なら、なぜ。
なぜ俺は生かされている。
なぜシヴァを連れ去った。
疑問が頭を駆け巡る。
そして、リリアは静かに告げた。
「お前には、まだ利用価値がある。」




