第45話「ぶっつけ本番」
「おや?
少しは楽しめそうなガキもいるじゃないか。」
そう語った女性は俺たちの数メートル先に立つ。
フードは被っておらず、腰まで届く銀白色の髪が風に揺れる。
雪のように白い肌と、その赤い装束の対比は目を奪うほど美しい。
瞳は鮮やかな深紅。
その目には殺意すらない。ただ、目の前の敵を「討つべき対象」と認識しているだけの、冷え切った光だけが宿っていた。
――逃げろ。
本能がそう呟く。
分かる。
勝てない。
「逃げるぞ。」
「え?」
そう言って、俺はセレナの腕を引く。
その時だった。
「自己紹介が遅れたな。」
正面の女性が告げながら、鞘から剣を抜き始める。
「私は、リリア=ヴァルハイン。
黒環結社第2席にして、『処刑人』だ。」
俺はセレナを連れて、下の階へと続く階段に向かう。
「…逃げられるとでも?」
俺の耳には確かにそう聞こえた。
にわかに信じられなかった。
リリアは1歩も動いてない。
それゆえに、俺とリリアにはそれなりの距離ができていた。
だが、すぐに気づいた。
――それが詭弁ではないことに。
振り返ると、リリアが剣を振り切った姿勢でいた。
次の瞬間。
ブシュッ。
遅れて頬から鮮血が舞う。
「……なっ?」
攻撃を飛ばしたのか?
だが、攻撃の軌道が全く見えなかった。
攻撃を飛ばす魔法を使ったのなら見えるはず。
…どういうことだ。
考えても仕方がない。
「セレナは先に行っててくれ。」
俺は《アストレア》構える。
「やる気か?
ガキンチョ。」
まずはあの攻撃の仕組みを知る必要がある。
あの攻撃が遠距離攻撃だとしたら、少しでも早く近接戦に持ち込まなければならない。
俺は、リリアに向かって全速力で走る。
それに応じて、リリアが剣を横に振る。
タイミングを読んで……ここだ!
俺は足に急ブレーキをかける。
確かにかわした。
そう確信した瞬間。
ズバッ。
肩から血が噴き出す。
「ぐっ……!」
今のでなんとなくこの攻撃の特性がわかった。
まず、剣さえ振れば確実に当たってしまうこと。
そして、リリア自身から遠ければ遠いほどダメージは弱くなる。
この2つだ。
2つ目の特性は、1発目より2発目のほうが明らかに傷が深いことから推測できた。
ここから導き出せる結論は…
“勝てない”だ。
間違いなく今の俺じゃ無理だ。
だが、この戦いでの目標は勝つことではない。
アイリスの回収だ。
そのためには、どうにかして時間を稼がなければならない。
とにかく、ダメージ覚悟でリリアに接近した。
「良い判断だ。」
そして、ついにこちらの攻撃が届く範囲まで接近できたころには、追加で2発も食らっていた。
再び距離を離されて、もう一度接近なんてしていたら、動けなくなっているだろう。
つまり、この一太刀で勝負を決めなければならない。
この状況で、リリアを1撃で沈ませられる選択肢は1つしかなかった。
「まーた、ぶっつけ本番か。」
リリアが顔をしかめる。
それに応じて、俺は上へ高く飛び跳ねる。
「さぁて、お披露目といこうか‼」
一か八か。
それでも、失敗する不安は感じなかった。
《アストレア》を両手で頭よりも上に構える。
「……ほう。」
続いて、リリアが防御姿勢を取る。
どうやら、剣で受け止めきれると勘違いしているようだ。
そして、思い切り振りきる直前に言い放つ。
こちらはしっかり無詠唱習得済み。
《アストレア》を握る手に、青白い雷光が宿る。
空気が震える。
地面に青い火花が走る。
「《オリジンコード001:蒼雷閃》」




