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第39話「借りてはいけない力」

「僕のもう一つのスキルは――。」


シリウスが静かに笑う。


その場に緊張が走る。


「・・・まだ秘密。」


「・・・。」

無駄に期待させやがって。


「いずれ教えてくれるってことでいいんだな?」

「そういうことにしておくよ。」

「じゃあ、今日のところはこれで帰るとするか。

今後もよろしくな。」


そう言って、俺とアイリスは帰った。


こうして俺の波乱の週末は幕を閉じた。



月曜日。

最近学校では寝ているせいで近日の予定を全く確認していなかった。


そのせいで俺にとっては衝撃の事実が教師から明かされる。



「当然知っていると思うが、再来週から中間テストが始まる。

日々の授業をしっかり受けていれば、赤点を取る心配はないと思うが、そうでない者はしっかりと対策しておくように。」


・・・マジか。

ってことは、これから2週間はテスト対策に時間を持っていかれるのか・・・。


その日の放課後、いつもの3人(俺とアイリスとシヴァ)はシヴァの部屋に集まっていた。


ノクスの事を共有するためだ。


開口一番、アイリスがストレートに聞いてくる。

「それで、あなたはどんな手を使ってノクスを1人で葬ったのかしら?」


「“葬る”って・・・。

最後に使ったのは、《万象崩壊》(ディスインテグレート)だけど。」


その魔法にシヴァが反応する。

「それ技能測定で使ってたヤツでしょ?

どんな原理なの?発動条件は?連発はできる?」


アイリスが呆れたようにして言う。

「シヴァ、少し黙ってて。」

そう言われて、シヴァはおとなしくなる。


「私が聞いているのは、《万象崩壊》(ディスインテグレート)を放つまでの過程の話よ。

どうやって、空気が操れる相手にそこまで近づくことができたの?」


「俺のスキル・・・君が言う雑魚スキルが進化したんだ。

雑魚じゃなくなったってワケ。」


「進化内容は?」

「簡単に言うと、一時的に身体能力が上がる代わりに、発動後に・・・。」

「どうしたの?」


マズイ。


完全に忘れていた。


前借りした分の返済内容をまだ確認していない。


急いでステータス画面を開く。


〈返済内容〉

・ 期限:30日

・ ランニング:1,500km

・ 腕立て伏せ:100,000回

・ スクワット:100,000回

・ 魔力操作訓練:300時間

・ 術式構築:150時間

※返済完了まで、あらゆる努力は成長へ変換されません。

※返済期限を超過した場合は全ステータスが0.5倍に変更されます。



「・・・は?」

思考が止まる。

1,500km。

100,000回。

300時間。

一つ一つの数字を目で追うたびに、現実味が失われていく。

「これを……30日で?」


一日当たり約50kmのランニング。

さらに、毎日3,000回を超える腕立て伏せとスクワット。

加えて魔力操作と術式構築の訓練。


寝る時間を削った程度でどうにかなる量じゃない。

そして、追い打ちをかけるように最後の二文が目に入る。

〈返済完了まで、あらゆる努力は成長へ変換されません。〉

「・・・嘘だろ。」

どれだけ努力しても、返済が終わるまでは一切強くなれない。

つまり、この一か月は借金を返すためだけの期間になる。


さらに、その下。

〈返済期限を超過した場合、全ステータスが0.5倍に変更されます。〉

「・・・。」


失敗は許されない。

これは代償なんて生易しいものじゃない。

未来の自分から借りた力は、未来の自分以上の努力で返さなければならない。


「ちょっと、本当にどうしたのよ。」

アイリスが心配そうに聞いてくる。


「いや、何でもない。

ただ、テストで赤点を取る事実が確定しただけだ。」


2人が固まる。


「「え?」」


とにかく時間がない。

残り30日のうちの1日は今日のことだ。


1秒も無駄にはできない。

「俺はこれからしばらく姿を消すことになる。

それじゃ、1か月後に。」


「「は?」」

2人の顔がポカンとする。


これ以上、時間はかけられない。

そう思った俺は、シヴァの部屋から出ていく。


「待ちなさい!」

アイリスの声がする。


「説明くらいして!」

シヴァもだ。


「悪い。」

今の俺には、そう返すことしかできなかった。


自分の部屋に戻り、動きやすい格好に着替える。

「まずは、ランから行くか。」


念入りに準備運動を終えた俺は、誰もいない校庭へ向かう。


――地獄の一か月が始まる。

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