第38話「新たな賢者」
(サヨナラだ、ノクス。)
(《万象崩壊》(ディスインテグレート)。)
次の瞬間、ノクスの全身に黒い亀裂が走る。
何か叫ぶようにも見えたが、真空だったせいでその何かが聞こえることはなかった。
そして、瞬く間に跡形もなく消え去っていった。
周囲の空気が元に戻る。
〈前借り/残り時間:14秒〉
「何とか間に合ったな・・・。」
とにかく人が集まってくる前に逃げなきゃ。
俺は、急いでアイリスのもとへ駆け寄る。
「立てるか?」
「肩を貸してもらえれば何とか・・・。」
そう言われて俺はおとなしく肩を貸す。
「1人で倒したの?」
アイリスの問いに俺は頷いた。
次の瞬間。
バタッ‼
俺が地面に倒れる。
何だ。
急に体が重く・・・まさか、またノクスが⁉
そう思ったのも束の間、目の前に表示されたステータス画面を見て、安心する。
〈前借り/残り時間:0秒〉
効果が切れただけか。
今までと同じはずなのにさっきまでの体が軽すぎて、より重く感じてしまう。
「どうしたの?」
アイリスが心配そうに聞いてくる。
「何でもない。
少し頑張りすぎただけだ。」
それにしても、どこへ行くべきだろうか。
保健室に言ったらこの傷について言及されるだろうし、寮に戻っても怪我を治せない。
ひとまず、何とかできそうなシヴァの部屋を目指すことにした。
寮まであと数十メートルのところまで来れた。
ここまでは誰にも会っていなかった。・・・が、
とうとう力尽きた俺の体は、再び地面へ倒れる。
その時だった。
俺の倒れている最中の腹が抱えられる。
「大丈夫?
ってそんなわけないか。」
見知らぬ少年が、いやどこかで見たような・・・名前がなかなか出てこない少年が助けてくれた。
その少年が続ける。
「僕の部屋に来な。
その傷を何とかしてやれる。」
部外者を巻き込ませてしまって申し訳ない気持ちもあったが、断る体力もなかったので頼ることにした。
というより、この少年なら本当になんとかできそうだ。
と感じさせる力強い瞳が少年の自信を物語っていた。
「ここが僕の部屋だ。
早く入って、重傷患者さんたち。」
彼の部屋に入るとき、表札が見えた。
シリウス=レイン。
彼の名前は、シリウス=レインだった。
首席入学、技能測定学年2位のあのシリウス。
開いた口が塞がらなかった。
シリウスに案内され、俺とアイリスは寝室で待機していた。
しばらくして、シリウスが戻ってくる。
「お待たせ。
まずは重傷の彼女からだ。
レディーファースト、ってね。」
クッ・・・。
イケメンめ‼
すると、笑顔でシリウスはアイリスの腕に手をかざす。
「生命の理よ、傷なき瞬間を呼び戻せ──《復元》」
次の瞬間。
白銀の光が傷口へ吸い込まれる。
断裂した組織が音もなく繋がり、流れ出ていた血は止まり、裂傷はみるみるうちに塞がっていく。
数秒後には、そこに傷があったことを示すものは何一つ残っていなかった。
スキルが治療系・・・なのか?
アイリスが驚いたように体を起こす。
さっきまでの辛そうな顔が一転して、笑顔が戻る。
「あ、ありがとう・・・。」
アイリスの感謝にシリウスがニッコニコで答える。
「いえいえ。」
「次は、君だね。」
そう言って、シリウスが近づいてくる。
「生命の灯よ。砕けし命脈を再び繋げ──《修復》」
体の重さがフッと消える。
続いて、傷も癒え・・・ない。
あれ?
「傷口が塞がらないんだけど・・・。」
「ごめんね。
《復元》は一日に一回しか使えない。
だから、君には魔力消費の少ない《修復》をかけたってワケ。」
まぁ、アイリスのほうが容体は深刻だったしな。
って、俺も一応、右腕折れてんだけどな・・・。
帰ってから自分でも処置をしておくか。
それよりも、俺はシリウスに対する質問がたくさんあった。
だが、それはシリウスも同じだったようで先に聞いてきたのはあっちだった。
「ねぇ、質問してもいい?」
今更、誤魔化すのは無理だろうし、助けてもらった恩もある。
だから、正直に話すことにした。
「何でも聞いてくれ。」
「君たちは・・・一体、何と戦っていたの?」
「俺たち自身もあまりよくわかってないんだが、戦っていたのは黒環結社と呼ばれる組織だ。」
その瞬間、シリウスがわずかに反応したことを俺は見逃さなかった。
「俺たちが戦ってるところを見たのか?」
「・・・少しだけね。」
まさか見られていたとは・・・。
今度は俺が質問をする。
「俺の質問だが、君のスキルは治療系・・・だよな?」
シリウスが少し考え込んだ末に口を開く。
「実は僕、賢者・・・つまりスキルが2つあるんだ。」
部屋の空気が止まる。
俺も。
アイリスも。
言葉を失った。
賢者。
世界に数十人しか存在しない、二つのスキルを宿す者。
「僕のもう一つのスキルは――。」




