第3話「まずは素振りだ。」
次の日。
起きたらもう昼だった。
我ながら、さすがは元ニートといったところか。
今日はルカと互いのスキルを使って森を探索する約束をしている。
ルカは幼いころからの友達だ。
家が隣で、もともと両親同士の仲も良かったことから、気づけばずっと一緒に遊ぶようになっていた。
正直、憂鬱だ。
俺のスキルがあんなのだっただけに、ルカが実用的なスキルを引いていたらと思うと恐ろしい。
家を出る。
そこには寝ぐせのある茶髪に、茶色のつぶらな瞳をしたルカがいる――はずだった。
「なんでアンタがここにいるんだよ。」
そこに立っていた人物を見て、思わず声が低くなる。
ちなみに俺は、相手によって口調が変わるタイプだ。
気に入らない相手には遠慮なく口が悪くなるし、逆に好意を持った相手には驚くほど丁寧になる。
……話を戻そう。
目の前に立っているのは、昨日教会で会ったあの老人だった。
「俺の名はヴァルドだ。早く教会に行くぞ。」
まだそんなこと言ってんのか、このジジイ。
「教会で何をさせるつもりだ?」
そう尋ねた瞬間、ヴァルドがわずかに笑ったような気がした。
「俺が稽古をつけてやる。お前のおかしなスキルのためにな。」
なるほど。
コイツは俺に努力を強要してくる人間らしい。
よし、逃げよう。
俺は踵を返し、全力で家へ向かって走り出した。
だが、相手が悪かった。
最後の角を曲がり、自分の家が見えた瞬間――。
ヴァルドは、なぜか家の前で腕を組んで立っていた。
……なんで先回りできるんだよ。
……30分後。
結局、教会まで来てしまった。
教会裏の空き地へ連れて来られた俺に、ヴァルドは持っていた2本の木刀の1本を放り投げる。
「まずは素振りだ。」
やはり来てしまったのは間違いだったようだ。
だが、今の俺がどれだけ逃げようと無駄なのは、さっきの先回りで嫌というほど思い知らされた。
ならば最適解は一つ。
とにかく早く終わらせることだ。
一応、出発前にルカには教会へ行くことだけ伝えてある。
「何本やらせるつもりだ?」
「10万本。日が落ちるまでに終わるといいな。」
「……は?」
いや、待て。
今、何て言った?
「お前イカれ――」
「始め。」
その日、教会には何度も悲鳴が響き渡ったという。
……10時間後。
俺は、転生せずにあのまま死ねた方が楽だったという真実に気づいた。
10時間で3万本。
あと23時間ってところか。
「根性だけはあるみたいだな。」
シチューを作りながらヴァルドが話しかけてくる。
「……。」
もう返事をする気力すら残っていない。
「ほら。」
そう言って、作ったばかりのシチューを差し出してきた。
「……食え。」
10時間前の俺なら、毒でも盛られているんじゃないかと疑っていただろう。
もうそんなことはどうでもいい。
とにかく腹に入れたい。
一口運ぶ。
「……うまっ。」
思っていた数十倍は美味かった。
コイツ、料理できるのかよ……。
「どうだ?」
「……なかなか美味い。」
そう答えようとした、その瞬間だった。
ドゴォォォォン!!
教会の中から、とてつもない爆発音が響いた。
地面が揺れる。
思わず振り返ると、教会の窓から黒煙と炎が噴き出していた。
「なっ……!」
教会が燃えている。
炎の向こうには、いくつもの人影が見えた。
ヴァルドの方を見る。
……もういない。
まさか。
慌てて教会へ視線を戻す。
そこには、燃え盛る炎の中へ迷いなく飛び込んでいくヴァルドの背中があった。




