第21話「決着を奪う者」
フロストレイムが雄叫びを上げる。
その威圧感は今まで感じたことがないほどのものだった。
ベヒモスは目の前に現れた竜を睨みつける。
その黄金色の瞳には、初めて警戒の色が浮かんでいた。
対する霜炎竜フロストレイムは、翼を大きく広げる。
一度羽ばたくだけで、闘技場を暴風が駆け抜けた。
次の瞬間だった。
ベヒモスが地面を踏み砕く。
――ドォン‼
巨大な体とは思えない速度で肉薄する。
フロストレイムも迎え撃つように前へ飛び出した。
両者が衝突する。
ゴォォォン!!!
空気が弾け飛び、衝撃波だけで闘技場の外壁に無数の亀裂が走る。
ベヒモスは巨腕を振り下ろす。
フロストレイムは身をひねり、それを紙一重でかわす。
同時に尾を振る。
氷晶をまとった尾がベヒモスの脇腹を打ち抜く。
だが――
ガギィィィン‼
金属を叩いたような音だけが響く。
傷は浅い。
ベヒモスは咆哮すると、そのまま両腕でフロストレイムを抱え込む。
「まずい……!」
俺が思わず声を漏らした。
そのまま地面へ叩きつける気だ。
しかし。
フロストレイムの蒼い瞳が輝く。
周囲の空気が一瞬で凍りついた。
ベヒモスの腕が白く染まる。
凍結。
動きが止まる。
その隙を逃さず、フロストレイムは口を開いた。
右側の牙からは灼熱。
左側の牙からは極寒。
相反する二つの魔力が一点へ収束していく。
「グルルルル……」
低いうなり声とともに放たれた。
《霜炎咆哮》
紅蓮と蒼氷が絡み合った極太の奔流がベヒモスを飲み込む。
轟音。
爆炎。
凍土。
世界が赤と青に染まった。
煙が晴れる。
ベヒモスはなお立っていた。
全身の毛皮は焼け焦げ、片腕は氷に覆われている。
それでも倒れない。
ベヒモスは凍りついた腕を力任せに砕いた。
氷片が四方へ飛び散る。
そして再び大地を踏み砕き、一直線に駆け出す。
フロストレイムも天高く舞い上がる。
その巨体が太陽を覆い隠した。
翼を閉じる。
急降下。
空気が悲鳴を上げる。
ベヒモスは拳を振り上げる。
フロストレイムは両脚を突き出す。
二つの神話級の力が再び激突した。
凄まじい衝撃が大地を揺るがす。
ベヒモスの拳はフロストレイムの胸を打ち抜き、フロストレイムの鉤爪はベヒモスの肩から胸元まで深く切り裂いた。
両者は互いを弾き飛ばされる。
ベヒモスは数歩よろめき、その巨体を地面へと沈めた。
だが、まだ意識はあるようだ。
一方、フロストレイムは《双環収束》の時間切れにより、鱗が白い粒子となって崩れ始める。
巨体が徐々に透け、神話の存在は現世から拒絶されるように消えていく。
このままじゃ倒しきれない。
俺も戦闘に参加しようとしたまさにその時だった。
何もない空間が歪む。
次の瞬間、ベヒモスの胸が内側へ押し潰された。
「な、なんだ?」
ルカが俺の思ったことを口にする。
奥の方から、人が出てくる。
思わず俺は息を呑む。
出てきた人は、紫のローブをまとっていたからだ。
そして、彼はこう叫んだ。
「役立たずは、消えろ。」
次の瞬間、ベヒモスの体が風船のように破裂した。
地面にはベヒモスの血一色で染められている。
すると、用が済んだのか、帰ろうとする紫ローブにルカが突進していく。
ルカが拳を振り抜こうとした瞬間。
空気が爆ぜた。
「がはっ!」
ルカの体が砲弾のように吹き飛ぶ。
・・・ドゴォン‼
一体何が起きたんだ?
俺には何も見えなかったが、今まさにこの瞬間、ルカが地面にうずくまっていることだけはわかった。
再び帰ろうとする紫ローブに俺は声をかけた。
「待て‼お前たちは何者なんだ?」
「――我々は黒環結社。
世界の理を歪め、新たな秩序を築く者。」
紫のローブの男がゆっくりとフードを脱ぐ。
二十代ほどの青年だった。
茶髪。
緑の瞳。
そして薄く笑う。
「我が名は――」
「ノクス=エアロス。」
「黒環結社、第三席。」
「【空気操作】を持つ、見えぬ死を司る者だ。」
少しでも面白いと思ったらブックマークや下の評価★★★★★をお願いします!




