第15話「努力の成果」
・・・今なら勝てる。
「模擬戦は明日だ。今日は早めに終わりにしようか。」
俺はあえて煽るように笑った。
「怯えて逃げるなよ?」
アイリスは鼻で小さく笑う。
「負け犬ほどよく吠えるものね。あなたの言葉なんて、遠吠えと変わらないわ。」
策が間違いなく必要だ。
俺は市場に出て買い物をしてから帰った。
次の日、アイリスと俺は向かい合うようにして構えていた。
ヴァルドが禁止事項を述べる。
「基本は何をしてもいいが、《万象崩壊》だけは絶対に使うな。
あとは、殺さなければなんでもいい。」
武器は前回と同じく木刀が1本ずつだ。
既に1月上旬。
二人の間に吹く風は冷たく、風の音がうるさく感じるほど静かだった。
「始め。」
前回とは違う。
今度は俺から先手を仕掛けた。
一気に間合いを詰め、木刀を振り抜く。
だが、アイリスは逃げない。
カウンター狙いか?
そう思った次の瞬間だった。
アイリスは木刀を素手で受け止めた。
鈍い衝撃が響き、その腕がわずかに震える。それでも表情一つ変えず、俺の木刀を握り締めると、そのまま上空へ放り投げた。
しまった。
木刀が落ちてくる前に、確実に追撃が来る。
そう判断して身構えるが、アイリスは動かない。
……何をする気だ?
アイリスは静かに空を見上げた。
つられるように俺も視線を向ける。
そこには、落ちるはずの木刀が空中でぴたりと静止していた。
次の瞬間、その先端がこちらを向く。
マズイ。
木刀が矢のような速度で急降下してくる。
咄嗟に身をひねる。
木刀は頬をかすめ、そのまま地面へ突き刺さった。
間一髪だった。
以前の俺なら、間違いなく避けられていない。
安堵する暇もなかった。
アイリスは自分の木刀もこちらに投げてきた。
「嘘だろ……」
二つの物体を同時に操れるようになっていたのか。
左右に一本ずつ木刀が浮かび、俺を挟み込むように待機する。
そして、二本が同時に襲いかかってきた。
俺は両腕を交差させるように構える。
「《氷華》」
それぞれの手の前に巨大な氷の結晶が咲き誇り、盾となって立ちはだかる。
キィィンッ!!
甲高い衝突音が響き渡る。
どうにか防ぎ切れた。
だが、氷の盾には大きな亀裂が走っている。
次が来れば持たない。
時間の問題か……。
俺は急いで後ろへ飛び退き、懐に手を伸ばした。
取り出したのは、昨日なけなしの金で買った魔力シューター。
「そんなのありなの!?」
アイリスが初めて動揺を見せる。
「最初の説明で、使うなとは言われてないだろ?」
魔力シューターに自分の魔力を流し込む。
出力を限界まで引き上げると、全身に魔力回路が青白く浮かび上がった。
「これなら……!」
バシュンッ!!
圧縮された魔力が一直線にアイリスへと放たれる。
しかし、アイリスは落ち着いたまま地面に手をついた。
「《岩壁》」
轟音とともに地面が隆起し、分厚い岩壁が立ち上がる中級魔法だ。
俺の魔力弾は岩壁に激突し、派手に砕け散った。
防がれた……!
すぐさま二発目を装填する。
だが、その途中で木刀が再び飛来した。
くそっ!
十分に魔力は溜まっていない。
それでも撃つしかない!
放たれた魔力弾と木刀が正面から激突し、互いを弾き飛ばす。
その一瞬だった。
木刀へ意識を向けた俺の視界に、アイリスの姿が飛び込んでくる。
いつの間に……!
木刀を追うように駆け込み、その陰に隠れるように距離を詰めていたのだ。
気づいた時には、もう目の前だった。
アイリスが拳を握り締める。
「《砕拳》」
初級魔法で強化された拳が、俺の顔面を容赦なく打ち抜いた。
衝撃が脳を揺らし、景色が反転する。
避けられなかった。
また、負けたのか……。
意識がゆっくりと闇に沈んでいった。
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